第56話 カミングアウト(オルカ視点)
私はタカシが好きだ。
タカシも私が好きだ。
最初はただの友達のお兄ちゃんという認識だった。
いつも笑顔で優しい雰囲気が良いなとは思っていた。けれど徐々に目が離せなくなっていき、いつの間にか好きになっていた。
隠していたつもりだったけどユイにはすぐにバレた。そしてもタカシにも気付かれた。
タカシは気が付いても態度を変えたりしなかった。妹であるユイの友人として大切にしているという態度を続けていた。
私は少しづつ少しづつタカシに近づいて行った。学校も一緒、学年も一緒、部活も一緒、家も近所。休日も会える日は会いにいった。妹であるユイとも一緒だけど、ユイは私とタカシの事を応援してくれている。去年のユイの誕生日にプレゼントを渡したら、タカシの事が好きかと聞かれて頷いたら応援すると言っていた。
ユイはタカシと血が繋がっていない。そしてユイはタカシの事が好きだ。だけど妹であろうとしているように見えた。その理由が良く分からなかった。
タカシにアピールしながら過ごしていたら、タカシはユイがいない日に私をデートに誘う様になった。水族館や動物園やショッピングや城址公園やボウリング場。私は自分の好みをタカシに伝えた事が無いのに、完全に自分の好きな場所ばかり誘ってくれた。
そんな浮かれ私を付き落とすような出来事があった。私はタカシの誕生日がある事を知らずその日を越してしまったのだ。聞かなかった私が悪いのだけど、誕生日が近づいたのなら教えて欲しかった。
ユイから家でパーティを開いたという話を聞かされ、タカシから誕生日を聞いてないのかと聞かれてしまった。私は頷くとユイに抱きしめられていた。どうやらいつの間にか泣いていたらしい。
数日遅れでタカシにプレゼントを渡しながら、なんで教えてくれなかったか聞いたら、自分から誕生日を言うのはプレゼントを催促しているみたいだからと言われた。そんな事は分かっているけどそういう意味で聞いたんじゃない。私はタカシの誕生日をその日におめでとうと言いたかっただけなのだ。
その気持ちが伝わったのかタカシはゴメンと謝ってくれた。そして6月の私の誕生日にはタカシも私の部屋に来てくれてパーティに参加してくれた。去年はユイと2人だったけど、今年はタカシも入れて3人だった。
ユイは去年と同じくプリンの詰め合わせだった。ユイはカップの後ろの爪を折ってプリンと落ちないこれ以外のプリンじゃないという。私はペチャっという音を立てて落ちているのでプリンという擬音はおかしいと思うのだけど、それをいうとユイが膨れるので私もプリンと落ちると思うようにしている。
タカシのプレゼントは水色のワンピースだった。箱に綺麗に入れられピンクのリボンがかけられたそれを私に差し出しながら、次のデートではこれを着て来て欲しいと言っていた。
タカシは日に焼けていて顔の色が変わったか分からないけれど少し照れている事は分かった。私も同じ様に日に焼けて顔の色が分からないだろうけど冬場だったら赤くなっているのがバレバレだっただろう。
ユイは「お兄ちゃんやるじゃん!」と言ってタカシの背中をバシバシ叩いていた。ユイはタカシとの交際をちゃんと応援してくれているのだと分かった。
その翌週に私はそのワンピースを着てタカシと遊園地でデートをした。
タカシは私が高い所が苦手なのを知っているので、コーヒーカップやメリーゴーランドやお化け屋敷などの、優しい場所ばかり案内してくれた。
高校総体で明日帰るって日に、私はタカシを海に誘った。告白してハッキリさせようと思っていたからだ。
お父さんの会社の社宅が海の近くにあって、私は小学校に上がるまで海の近くで暮らしていた。だからなのか私は海がとても好きだ。
タカシも海に何か思い入れがあるのか、海を見ながら遠い目をしていた、それがとてもいい雰囲気のように感じていた。
夕暮れを見て日が完全に沈んだ時に、私は告白のタイミングだと思って声をかけようとした。しかしタカシは何かが光ったと言って浜に降りていった。
タカシはとても鮮やかな色の桜貝の貝殻を拾って来た。
桜貝はとても好きな貝だ。中学校の時は冬場のトレーニングで良く浜でランニングをしていたのだけど、綺麗な貝殻を見つけた時は拾い、家の宝箱に入れていた。その中でも桜貝の貝殻はお気に入りで結構拾っていた。
高校に入り、お婆ちゃんの家に行く事にした時も、その宝箱を持って来ていて時々それを見ていた。けれどお婆ちゃんの家から海は遠いので新たな貝殻は増えていなかった。少し寂しいなと思っていた所にタカシから鮮やかな桜貝を貰ってとても嬉しくなったのだ。
貝殻を見てニヤニヤしていたら、告白しようと思っていた事を忘れていた。ホテルに帰ったあとに気がついて後悔してしまっていた。
高校総体のあとすぐに水泳部の合宿があって参加した。練習に打ち込み、ため込んでいた夏休みの課題も終わらせ、肝試しや花火も出来たので、とても楽しい思い出が増えた。
合宿から帰ったあと、溜まってしまった汚れ物を洗濯しようと荷物から取り出し洗濯場に運んでいたら、タカシがユイの旅行のお土産について伝言を受けていたようで私に会いに来ていた。けれど私はお祖母ちゃんがタカシを家に通した事に気が付いていなかったので、抱えていた洗濯物をタカシに見られてしまった。洗濯物の1番上には下着類が置かれていて、それをタカシは見たようで、すぐに目線を外していた。
タカシは目線を外したまま用事を伝えると背中を向けて去って行った。
私は見られた事が恥ずかしくてその場に蹲ってしまっていた。
水泳で大会に参加しているけれど、選手に着替え用の部屋が与えられ無いなんてこともあるので観客席や通路で体にタオルをまいて着替えるなんて事もあった。だから他人に下着を見られてしまうなんて事もあったし。何も思わないではないけれど意識して恥ずかしくなるなんて事はなかった。
心を落ち着かせてユイに会いに行ったら、家の前にタカシが立って目を瞑っていた。声をかけたら鼓動が治まるのを待っていると言っていた。タカシは私の下着を見た事で動揺してしまったようだ。
今までタカシにもっと意識して欲しいと思っていたけれど、好きな人にこうやって意識されると恥ずかしくなるんだと始めて気が付いた。
その日からタカシも私をユイのお友達ではなく、一人の大切な女の子として意識した態度をするようになったと感じた。ストレッチの時に体が当たってもあまり恥ずかしがることが無いけれど、終わった後に急に目線を外したりするから、意識している事は分かった。
2学期に行われた修学旅行の自由時間に奈良を2人で散策した。ゆったりと長い時間過ごすのがとても嬉しかった。奈良公園では鹿に襲われかけた私をタカシは庇って助けてくれた。こんな事をとっさに出来るなんてタカシは凄いと思ったし胸がすごく高鳴ってしまった。
自由行動の翌日はテーマパークで遊ぶ事だったけど、クラスの班ごとに遊ぶように言われていたのでタカシと遊べないと思っていた。けれど班ごとにまとまっていれば別の班と一緒に遊ぶ事が出来ると誰かが言い出し、私は班の人を誘って隣のクラスのタカシの班と合流する事が出来た。タカシの班はさらに別の班を誘って16人のグループになった。そして絶叫マシンが平気な人とそうでは無いグループに分かれて8人づつで遊ぶ事になった。
最初に行ったのは観覧車だった。私は高い所が苦手だ。だけど反対できる雰囲気では無かった。
一番高い所になった時にタカシは吊り橋効果というものについて説明をしてきた。なんでも高い所で動悸が激しくなった時に一緒にいる男女は恋のときめきと勘違いするとかそういった内容だった。
高い所から少しづつ低くなっていくのを感じて私は安心し始めた、その時隣に座っていたタカシが急に私を抱き寄せた。私の胸はとても高鳴って恥ずかしいと感じてしまった。タカシは逆吊り橋効果だと言っていた。何の事かすぐにわからなかったけれど、高い所で高まった鼓動を恋のときめきだと勘違いさせて恐怖を和らげようとしたんだと分かった。そういえばタカシに抱きしめられてから高さの恐怖を感じていない。すぐにタカシは私を開放したけど胸のときめきは残っていた。高さへの恐怖を克服したのかと思ったけれど、観覧車から降りる瞬間に籠ががたんと揺れて恐怖を感じ、私はすぐ高い所が苦手なんだと再認識する事になった。
遊園地のアトラクションを楽しんで、遊覧船で川をさかのぼり京都に向かったのだけど、その時に見えたなにわタワーを見てタカシは急に私の手を取って不思議な顔をし始めた。以前タカシが海を見た時にした顔だと気が付いた。胸がキュッと締め付けられる様な不思議な顔で抱きしめたくなってしまう。けれど周りには同級生がいっぱいで恥ずかしいので肩を寄せて握られた手をギュッと握り返して紛らわせた。
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「お兄ちゃんと恋人になった?」
「えっ? まだだけど・・・」
「あれでまだなの!? なんで!?」
ユイからそう言われてもそれが現状だから仕方ない。
「どう考えても2人は恋人なんだけどなぁ・・・」
「お互いに意識しあっているとは思うよ?」
「だよねぇ・・・」
ユイもそれについては気が付いているようだった。
「ユイは何で私がタカシと付き合うの応援するの?」
「私は妹が良いんだよ」
「タカシの事を好きでしょ?」
「うん、でも妹として愛されたいの」
「それって現状維持って事?」
「ううん、オルカちゃんがお兄ちゃんと付き合ったらアタックするよ?」
「えっ?」
「私からタカシを取るって事?」
「ううん、そんな事したら、私はお兄ちゃんの妹じゃなく恋人になっちゃうでしょ?」
「えっ?」
「妹のまま愛されたいの」
「ユイって変だよ・・・」
「うん、変なの・・・でも妹じゃなきゃいけないの、私とお兄ちゃんは恋人になっちゃダメなの・・・」
ユイは何故か泣いていた。
「何で泣くの?」
「何で私はお兄ちゃんの恋人になっちゃダメなんだろう・・・」
「ユイが何を言ってるのか分からないよ・・・」
「私も分からないんだよ・・・」
ユイはただただ素直で明るい子だと思っていた。けれどこんなに歪んでいたんだと今気が付いてしまった。
「タカシにそれを話した事ある?」
「言えないよ・・・」
「話そう?」
「嫌!」
ユイは激しく私の提案を拒絶した。私が中学校に上がる直前にここから引っ越した直前の時の様な感じがした。
「分かったよ・・・でも私はタカシが好きだから・・・」
「うん・・・私もお兄ちゃんが好き・・・でも・・・」
「恋人にはならないんだね?」
「うん・・・」
私はタカシが好きだ。
タカシも私が好きだ。
ユイはタカシが好きだ。
タカシはユイが好きだ。
「私はユイちゃんが好きだよ。ユイちゃんも私が好き?」
「・・・うん・・・」
「タカシと同じぐらい?」
「ううんお兄ちゃんの方が好き・・・」
「じゃあ同じぐらい好きになろ?」
「えっ?」
「タカシが私を恋人にしたいなら、ユイも一緒じゃないとダメなの」
「そんなの変だよ・・・」
「うんっ!私も変なのっ!」
私はいつの間にか涙を流していた。そして涙を流しながら私たちは抱きしめあった。
私はユイが好きだ。
ユイも私が好きだ。
その日からそれが私達に加わった。タカシにはギリギリまで秘密だけどね。
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