第54話 末広がりのタワー

 観覧車の後は海賊船をテーマにした席が揺れる大音響のシアター系のアトラクションや、ゆったりと園内を回るモノレールに乗った。

 その後は公園のキャラクター達のパレードが大通りにあったので、屋台のような場所で買ったスティック状の焼き菓子を食べながらそれを見た。

 もう1個何か乗れそうなので、絶叫系好きと合流する場所の途中にある、乗り物に乗って流れていくタイプのホラーハウスに乗った。

 1つの乗り物に最大4人だったけれど、今度も2人ずつペアで乗った。


「オルカは絶叫系が苦手だけど、ホラー系は得意だよね」

「うん平気」

「これじゃあ吊り橋効果は起きないかな?」

「そんな事ないよ」


 そういってオルカは俺の肩に頭を乗せて来た。

 洋風ホラーであるため、コウモリを模したものがバサバサ飛んだり、「グァー」と言いながら窓から狼男の人形が飛び出して来たり、歪な木がガサガサ揺れたり、「イィーッヒッヒッヒー」と言いながら魔女が鍋をかき回していたり、骸骨の人形が上から突然落ちて来たり、突然壁から大量の手が突き出されたりしたなか、オルカは怖がってる様子は無いのに「ドキドキしてる」と言っていた。

 最後に強いフラッシュが炊かれ強い風とドライアイスの煙吹き付けられてアトラクションが終わった。


 乗り物から降り口の所で、あのフラッシュが炊かれた場所で撮影されたという写真が売られて居た。

 オルカは俺の肩に頭を乗せてウットリした顔をしていて、俺だけがフラッシュに驚いているという写真になっていた。


「恥ずかしいから買おうか・・・」

「うん・・・」


 後ろのグループがこれを見ないように、証拠隠滅のために写真を買った。


「怖かったよね〜」

「最後に油断した所であのフラッシュは驚くよ」

「写真買った?」

「買わないよ普通」

「君との記念だから買ったよ・・・」

「ユウタ君・・・」


 なんか1組カップルが誕生していたらしい。絶叫系は無かったけれど吊り橋効果は成立したようだ。


 公園の真ん中の塔の所に行ったら、その塔は、前世の万博のシンボルになった有名な塔とどことなく似ていた。似たような感性の芸術家が爆発しながら作ったのだろう。


 絶叫系好きグループは既に揃っていた。 どうやら絶叫好きにも満足するような乗り物が多かったらしく、興奮気味にあれが良かったこれが良かったと話していた。 なんとなく2組の男女が仲良さそうにしているのでカップルになったのかもしれない。 残念ながら哀川と望月はカップルにはなれなかったようだ。


 本来のグループでまとまりながら園内を歩き船着き場前の広場に着いた。


「2つの船に分けて乗るからな、班員が全員揃ってるなら先の船に乗せていくから担任に声をかけてくれ」


 どうやらクラスごとに纏まって船に乗る訳では無いらしい。


「2班班長立花、全員います」

「了解、船着き場のついている船に乗ってくれ」

「分かりました」


 船が2隻用意されているらしい。船着き場には1艘しかないので、それが先発したあと2艘目が来るのだろう。首都圏の街並みを海から遊覧して見ながら淀川に入り、遡上しながら京都にある船着き場まで行くようだ。


「田村くんと丹波くんが途中ではぐれていません!」

「なにぃ!?」


 やはりはぐれものというものは出るようで、綺麗に集合とはいかないようだ。


「田村と丹波か・・・あいつらずっとテンション高かったもんな」

「あの2人、ちょっとだけ空気が読めない所あるからね」


 どうやら、うちのクラスの田村と丹波の他にも、7組の涼宮という女子生徒も逸れたらしい。 だけど、うちのクラスの田村と丹波は集合場所にギリギリ時間内に間に合って問題にはならなかった。


 7組の涼宮はゲームではヒロインとなる女子だ。 科学部に所属していて行動が読めない所がある。


 10分待ったけどたどり着かず、恥ずかしい園内一斉放送で呼び出しが行われた。

 そんな状況で俺達の乗った前の船は波止場から離れ始めた。


「船が出るまでに間に合わなかったらどうなるんだろう?」

「先生が1人残って待つらしいよ」

「どうやって学校まで帰って来るの?」

「この公園から難波までバスがあるから、そこから別の電車で帰るんだって」

「良く知ってるね」

「学級副委員だから一応聞いてたんだよ」

「そうなんだ」


 海は首都圏の海だけあって酷く濁っていた。海には白いクラゲが大量に漂っていて少し気持ち悪かった。


「海が濁ってるね・・・なんか匂いも変」

「俺達が住む街の海とは全然違うね」


 前世の大阪湾はこんなに汚れてたのだろうか。それとも首都だから汚れた水が多くてこうなっているのだろうか。


 淀川の河口から入っていくと両岸は高層ビルが立ち並んでいた。京都が開発されなかった分を、この前世で大阪と呼ばれていた地域が開発され副都心と呼ばれている。この近辺はこの世界の経済の中心地となっている場所だと学校で習う場所だ。


「見て! なにわタワーだよ!」


 なにわタワーは、将来高層化が進むであろう首都圏の電波状況改善のために建てられたタワーだ。

 全国ネットのテレビのキー局が副都心を中心に存在するため、このタワーを中心を全国へ発信している。

 300mを超えたその塔の高さは、建てた当時世界一の高さだったそうで、戦争敗退により消沈していた日本にとって、復興の象徴だったと言われる事がある。


「大きいね、なにわタワー」

「そうだね」


 背広がりな形をしているなにわタワーは縦長の四角いビルが乱立する中で、不思議な曲線のある構造物であるため、周囲から一際目立つ。

 前世にあった東京タワーにどことなく似ているので、少しだけ懐かしい気持ちになる。


 俺は何となくオルカの手を握りたくなり、その手を取ってしまった。


「なぁに?」

「かっこいいなと思ってさ」

「そうだね・・・」


 オルカはそれ以上何も言わず、俺の肩に頭を寄せて手を強く握りしめてくれた。


---


 京都の船着き場に付いたあと、そこから貸し切りバスで駅に向かい、そこからホテルに向かった。

 その翌日、国会議事堂や都庁などバスガイドの解説を聞きながら車窓から眺めるバス観光をした。お疲れの生徒が多かったようで、居眠りをしてしまう生徒がとても多く、初日の京都観光の時と違い生徒達は非常に静かだったため、バスガイドの声が非常に良く聞こえた。

 その後、京都駅から新幹線に乗り俺達の住む街まで帰った。そこから観光バスで学校まで行きそこで解散となった。


 公園で呼び出しのアナウンスをかけられていた生徒は、船が出る前に見つかって乗り込むことが出来たらしく、教師によるゲンコツと、反省文の提出という処分を下されることになったらしい。 もし船に乗り遅れて居たら停学だったらしいので、軽く済んでよかったと思うべきだろう。


 家に帰り家族にお土産を渡した途端、猛烈な眠気に襲われて、話もあまり出来ず部屋に戻って寝てしまった。


 翌日は日曜日で休みだが、国体に備えて練習するため学校に行く。


「おはよう」

「おはよう」

「なんかすごい疲れてて、家についたらすぐに寝ちゃったよ」

「俺も同じだよ」

「4日も泳いで無いから鈍って無いか心配」

「今日は流し目にして体を慣らすよ」

「それが良いかも」


 今日は朝が涼しく空も曇っている。 水が冷たく感じるだろうし、体も段々震えてくるだろう。

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