第48話 名将の誕生

 大会3日目で水泳2日目の午前中、女子400m自由形で余裕の優勝するオルカの試合を観戦し、表彰式を終えたオルカと急いで体育館へ向かった。 水泳部の顧問は他の学校の顔見知りの引率に会ったとかで会場に残った。


 急いでかけ付けたおかげで、女子バスケ2回戦第2クォーターも残り3分ある状態で、まだ半分以上の時間がある状態で駆け付ける事が出来た。

 相手は優勝候補だと聞いていたけど、こちらが38対28と勝っていて優勢に試合を進めているようだった。


 対戦相手はユイとスミスへ厳しくマークしていた。 良く見るとユイの腕には湿布のようなものが貼られていた。


「ユイは怪我したの?」

「最初の厳しいマークにあって打撲を負ったのよ」

「大丈夫なの?」

「大丈夫だから出場してるんだろうけど痛いと思うのよね・・・」

「なるほど・・・」


 お袋の話だとユイは怪我をしたのに痛みを我慢して出場しているらしい。

 現在チームはユイとスミスとキャプテンが柱になって動いていた。 その中で自陣のゴール下で守ったり、相手ゴールに切り込んだりするユイは強い当たりを受けてしまう様だ。


『ユイさんの骨に異常はありません、内出血も収まっています』

(ありがとう)


 スミスの憑依体から、現在のユイの状態について連絡があった。 内出血をしているという事は腫れがあって痛いだろう。 そこまで大事に至っていないようだがあまり無理はしない方がいいかもしれない。


 ユイはパスミスをした事からやはり痛みは結構あるようだ。 本人は責任感が強いからで続けたいのだろうけどまだ1年生だという事を忘れてはいけない。


 ユイが限界だと監督も気が付いたようで、ユイはベンチに下げられてしまった。肩を落としているので相当がっかりしているのだろう。


「よく頑張ったよっ!」

「後は先輩たちに任せろっ!」


 拍手と共に俺やオルカも声援を飛ばしたけどユイに届いただろうか?

 ユイの腕にコールドスプレーがかけられ、さらにシップが貼られた。 明日は今日よりも治まっているし試合にも出れるさ、だってスミスが勝つと保証してくれた試合だしな。


 ユイと交代した選手はクラスメイトの早乙女だった。 背は低いけれどドリブルが上手いので3年生引退後のポイントガードになると聞いていた。 実力的にも同学年で1番らしいけど、現在のキャプテンには及ばないためベンチスタートが多いと哀川から聞いた事があった。

 キャプテンはユイと同じぐらいの背の高さがある。 だからなのかポイントガードを早乙女ににさせて、自らはユイの穴埋めの様なプレイを始めた。


「相手チームがユイが抜けて盛り上がったけど、全く同じプレイされて驚いてるね」


 パスの位置が低くなった事によって相手に動揺が走り、スミスにパスが通りやすい時間があった。そうしてどんどんついていく点差に俺達は大いに盛り上がった。


「早乙女さんも結構すごいね・・・」

「2年生は3人ベンチにいるけど、プレイ自体は3年生に遜色ないみたいだよ。 でも早乙女以外はスタミナがあまり多くないそうなんだ。 だからチームの流れを変えたいときにワンポイントで出す事が多いって聞いた事がある。 ユイが抜けて第2クォーターで出す頻度が増えるのは、消耗が大きいかもしれないな・・・」

「そうなんだ・・・」


 3年生のキャプテンである先輩はスタミナがすごいらしい。 そしてユイもチーム内ではスタミナが高い方らしい。 それとスタミナという言葉が無意味なパフォーマンスを続けるのがスミスで、この3人がチームの柱らしい。

 他のチームメンバーは交代で最高のパフォーマンスを出していくのが現在のチームのスタイルで、2枠を12人でローテーションするので疲労が貯まりにくい。 けれど現在柱が2枚になり3枠をローテーションする事になった。 しかもチームの高さを担っているユイと3年生のキャプテンの2人の内の1人が下がったので、キャプテンへの負担が大きい。 キャプテンのスタミナはユイがへばった所を見た事が無いという程高いらしいけれど、もし底をついたらこのチームは瓦解しかねない。


「相手チームは高さで対抗しようと背の高い選手を投入して来たね」

「スミスの外からのシュートも決定率は5割だからな、リバウンドでボールを拾えれば反撃できると考えたんだろうな」

「なるほど・・・」


 でもそれはスミスへのパスのスティールを担っていた素早い選手を外す事になる。それは悪手だと俺は分かっているので、勝利が確定した事を悟った。


「背の高い選手の方が落ちて来たボールが取れると思うのに、こっちのチームの方がよく拾うね」

「位置取りが良いんだろうな・・・」

「そうなんだ・・・」


 そりゃ味方が拾いやすい位置に落ちるよう、スミスにコントロールされているからな。


「どんどん点差が広がるね」

「スミスのシュートは50%の成功率だけど3点だから、2点のシュートを75%で成功させているようなもんなんだよ、ルーズボールも味方の方が拾うんだから点差は広がり続けるさ」

「相手チームも背の低いメンバーに戻して来たね」

「スミスにボールを回さないようにしないとってやっと気が付いたみたいだね」


 第3クォーターの後半で点差は15点も開いていた。 ユイも懸命に声援を飛ばしてチームの優勢に落ち込んでいた顔も明るくなっていた。


「ユイったら傷んでいる方の腕でハイタッチしちゃってるよ」

「そんな事に構わないぐらい嬉しいんだろうね」


 第4クォーターは差を縮められたけれどユイたちのチームの遅いパス回し戦術で相手チームは15点差をひっくり返す事は出来ず53対49という感じで試合は終了した。


「相手チームはイライラしていたね」

「そりゃ点差を縮めないといけないのに毎回時間一杯使って攻められたらね」

「戦術の勝利って事?」

「あまり疲労してないから明日は元気に試合に臨めるでしょ?」

「なるほど! 戦略的な判断でもあったんだ!」

「小西先生、なかなか策士だね」

「名将?」

「全国出場が10年以上遠ざかっている学校の、3年前に変わった顧問だよ?」

「じゃあ違うかぁ・・・」

「でも来年から優秀な新入部員が入って来ると思うよ、そしたらチームは常勝となるし、小西先生も名将と呼ばれるようになるかもね」

「なるほど・・・」


 インターハイ優勝チームとなれば練習試合の申し込みも増えるし、各県の強豪チームの関係者との交流も増える。 全日本チームのコーチとして招集なんてことにもなるかもしれない。


「タカシ・・・変な事を考えていない?」

「女子バスケチームは楽しみだなって思ってただけだよ」

「そう?」


 あのプールサイドのマダムだって、外から見たらオルカを育てた名コーチだろう。 今では俺の記録が急激に伸びた事もマダムの指導があったからと言われているかもしれないじゃないか。

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