第45話 2人分
高校総体は全日程9日間ある。 その内水泳は大会2日目~5日目の4日間が試合だ。 とは言っても開会式後の午後にプールで調整時間を貰え泳ぐことが出来る。 水の冷たさや硬さやプールの壁の滑りやすさなど、何度か泳いでコツを掴まないとターンで失敗する事がある。 1発勝負の短距離の試合ではターン1回の失敗は命取りだ。
全国まで来ているような選手では聞いたことが無いけれど、浅い短水路のプールにに慣れた選手には長水路の深さに慣れず感覚を狂わせる場合がある。 ある程度泳ぎ込んで慣れた方がそういった事が無く競技に望むことが出来る。 といっても参加選手全員が譲り合いながら泳ぐので調整時間には制限がある。
俺の日程は1日目の午前中に100m自由形と100mバタフライの予選がある。 通過すれば決勝を行うので1日で全日程を終えてしまう。
オルカは1日目の午後に400m予選があり、2日目の午前中に決勝がある。
ユイのバスケットボールの試合は1日目の午後から8日間かけて行われる。ユイ達はシードではないため最大で5回勝たないと決勝に進めない。勝ち進んでくれるなら4日目に 以降に行われる3回戦から見ることが出来るだろう。
『任せて下さい』
どうやらスミスが2回戦までユイ達が勝ち進む事を確約してくれるようだ。
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「水温が低めで硬くて塩素が強い、あと壁は滑りやすい。タッチパネルついてない方のターンの時は足が真っ直ぐ当たらないとズルっといくね」
「それはロスしそうだなぁ」
「みんな条件は同じだよ」
先に調整を行ったオルカにプールの様子を聞くとこんな感じの説明を受けた。
「じゃあ先に上がるから、体育館でね」
「了解」
今から行けばユイ達の1回戦の最初から間に合うけど、まず自分の大会に集中しないといけないので頭から追いやった。
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自分の調整時間を終えて急いで着替えユイの応援に向かった
水泳部の顧問のマダムは同県他校の先生と話し込んでいるので置いていった。明日ちゃんと試合にさえ出場すれば怒られないだろう
会場に入ると試合は第3クォーターの終盤。53対48で勝っていた。
「ユイ!頑張れ!」
声が通るかわからないけど、とりあえず応援にをして、会場に知り合いがいないか探す。
よく見るとユイ達のベンチの裏側の観客席の所に学校の旗が下げられていて、その旗の周囲に関係者が集まっていた。
「あの子達勝ってるわよ」
「そうみたいだね」
お袋は、ユイのお母さんであるシズカさんの遺影を持って応援していた。
相手チームにタイムがかかり選手がベンチに向かったタイミングで、スミスがユイの肩を叩いて俺の方を指さしてくれた。ユイは俺を見つけたようで手を振った。
「ユイ! いいぞ! その調子!」
俺はガッツポーズをしながら叫ぶと、ユイもガッツポーズで答えた。
「試合はどんな動きだった?」
「最初はユイとジェーンちゃん以外は硬かった感じよ、ユイがリバウンド取ってジェーンちゃんにパスしてシュート打たせるみたいな流れだったわ」
お袋もユイの試合を良く見に来るので結構目が肥えているようだ。
「今はどうなの?」
「ジェーンちゃんのスリーは警戒されてたみたいでマークの上手い人を付けられてたわ、ユイちゃんにも2人マークがつき出してゴール下に切り込ませて貰えなくて、他の人たちはシュートミスが多かったのよ、確か15点ぐらい離されてたわ」
「最初は負けてたのか」
そこから逆転するまで追い上げたとはなかなかやるもんだ。
「私が来た時は第1クォーターの終了時で10点差だったよ、でももうメンバーの緊張が解け始めてる感じだった。ちゃんと動きだしたら3対2の優位性でこちらが追いついてきて、第2クォーター終了までには2ゴール差まで近づいてたよ」
「そりゃすごい」
「ユイのマークが1人になってゴール下から決め出して、それで相手がタイムや選手交代を頻繁にしていた」
「なるほど」
試合を見るとスミスは素早くない。けれどスリーポイントライン近くでボールを取ったら5割の確率でスリーポイントを決める。しかもゴールを外した時、ボールが味方がキャッチするように跳ねる事が多い。ゴールドリングを僅かに外したボールが味方へのパスになる。常識ではあり得ないがスミスは狙ってする事が出来る。相手チームのマークはディフェンス時にボールとスミスの間に入ってスティールするようにしている。
外にいるスミスが警戒されているので守備が広がっていて、そこを他のチームメンバーが中に切り込んで得点を重ねていた。スコア的にはユイが1番多いらしいが、MVPは間違いなくスミスだった。
「スミスのシュートは抑えられているのに一番警戒されてるね」
「うん、でもジェーンちゃんにマークしている人凄く疲れてる、常にボールとジェーンちゃんの間にいるよう立ち回っているからだね」
「凄いスタミナのある選手なんだろうな、でもすぐに限界が来るだろ」
「だね」
第4クォーターは中盤から一方的な試合になった。10点差付いた辺りからスミスをマークしていた選手の集中力が切れて動きが急に悪くなった。そしてスミスにボールが通りやすくなったためスポスポと決め出した。最後はユイとスミスは全くの同得点という状態で試合を終えた。
選手同士で抱き合ったりハイタッチして勝利を喜んだあと、相手チームと握手し、客席の応援していた人たちに整列して一礼した。
俺達は拍手と祝福と先の健闘を願う言葉をなげる。
「ジェーンちゃんはすごいね・・・3on3の時も思ってたけどさ、一見素早くないから大した事が無いように見えるのに、ゲームを支配しちゃってさ」
スミス達は宇宙を支配している様な奴らだしなぁ。
「次の対戦相手はシードか・・・」
「あそこで見学してるチームだよ」
「敵情視察って奴か・・・」
「こっちは見れないのに、相手に全て見られるってズルいねぇ」
「相手はどんなチームなの?」
「3年連続出場で、去年3位、ウィンターカップ準優勝だって」
「優勝候補じゃん」
「次勝ったら一気に知名度アップするよ」
「ジェーンは見た目で既に知名度凄いことになりそうだけどな」
「そうだね」
取材らしいカメラマンが写真を撮っていたが、ジェーンがシュートを打つ時フラッシュが多く光った。
ジェーンのプレーは躍動感が少ないけど、シュートのフォームが綺麗らしく、ジャンプシュートの姿がスポーツ雑誌に掲載された事がある。
「次の試合の観客に席を譲ろう」
「そうだね、次の対戦相手の試合が見れないならユイ達もホテルに戻るだろうし、先に行こうか」
「うん」
俺達は俺達で体を整えないといけないしな。
「お袋、俺とオルカはホテルに戻るよ」
「分かったわ、明日はみんなで応援するからね」
「分かった」
明日は女子バスケ部は試合が無いので休みだ。水泳部顧問のマダムとオルカぐらいしか俺の泳ぎの応援に来ていなかったから一気に応援が増えるのは嬉しい。
『私も応援しますよ』
(お前はスミスと本体で2人分だな)
『本体を1にしたら私の価値は誤差のように小さいですが・・・』
(お前たちの価値で判断したら、スミスの憑依体は人間1人と比較にならない程価値があるんだろ?)
『確かに』
(だからその辺は適当で良いんだよ)
『それもそうですね』
スミスの本体より少し人間臭いスミスの憑依体は、曖昧さへの理解がある。個体差がある理由は不明だけど、多分憑依体を俺に合わせてくれたという感じなのだろう。
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