第42話 いつも笑顔の同級生(カオリ視点)
私には気になるクラスメイトが居る。 名前は立花タカシ。 2年連続でクラスメイトというそれなりの縁がある関係だ。
立花君は、背が高くて肩幅が広くて、何かスポーツをやっている事は誰にでも分かる男の子だ。 実際に水泳で県大会に出場という成績を残した比較的優秀な選手らしい。
クラスメイトの中では1つ背が飛び抜けているので目立っていたけど、当初は嫌いなタイプだと思っていた。
いつも笑顔で胡散臭いと思ったし、入って1月も経たない間に、私の友人のサクラがビンタしたと噂が立ったし、サクラに聞いたら事情は言わなかったけど、「アイツムカつく」と言っていたし、幼馴染の武田君が、立花は女の子の情報を集めていて、聞いたら教えてくれるお助けキャラだと言っていたので気持ち悪いと思っていた。
私は小学校のときにデパートで変質者に誘拐されそうになった事があったし、小学校の先生からいきなり抱きつかれるという怖い思いをした事もあった。
中学校の時には毎日のように家まで尾行して来る同級生がいたし、親戚を名乗るおじさんに小遣いやるから付き合えと言われた事があったし、体育の時間の間に担任によって制服が盗まれたりと、そういう系統の人に嫌な思いを受けた経験が多かった。
私は頭が良く、運動も出来て、容姿が整っている。 笑顔を見せると異性同性関係なく好かれる。
これは否応なく自覚させられて来たし、それを保身に活用していた。
私は逆恨みが恐ろしい事を自覚している。 何故なら部活の先輩先輩から告白されて断ったのに、その先輩の事を好きだったという同級生とその取り巻きから、トイレに入っている時に上から水をかけられた事があるからだ。
勉強でも学年首位にい続けた事で、勝手にライバル視され、ペンケースやノートを隠されていて、それを現行犯で見つけたら飛びかかられた事もあった。
そういう事もあって、私は中学校の時に職員室前の生徒が使わないトイレしか使わなかったし。 また普段から小型の録音機を持ち歩き、不審な感じがしたら、録音するようにしていた。
酷い生徒がふるい分けで落とされる、県内トップの私立高校に入学した今でも、人の言動を良く聞いて、矛盾や言い回しの違いを気にするようにして過ごしている。
こんな経験をしていたけれど、男の人全てが嫌いでは無い。
小さい頃は頭が良くて面白い話や遊びをいっぱい知っている武田君が好きだったし、少年サッカーに入った武田君に誘われてプロサッカーリーグの観戦をして、サッカーしている人を応援するのが好きになった。
武田くんの入っていた少年サッカーの監督は面白い人だったので好きだったし、中学校のサッカー部の顧問の先生も、生徒のことを良く考えているいい先生だった。
高校のサッカー部の顧問も、熱血指導過ぎる所はあるけれど、生徒とちゃんと向き合っているいい先生だと思う。
私や他のマネージャーがいるベンチに来て、産まれたばかりの息子と、母親の話ばかりする困ったところがあるけれど、裏表の無い良い先生だと思っている。
敬遠していた立花君の評価が変わったのは1年生の2学期に入ってすぐの事だった。 武田君が家出したきり帰って来ないと武田くんのご両親から聞き、武田くんがお助けキャラだと言っていた立花君に心当たりが無いか聞いてみたのがきっかけだった。
立花君はすぐに真剣に聞いてくれ、その日の内に調べて私に電話で教えてくれた。
武田君は既に警察沙汰を起こして学校を退学になってしまったけれど、立花君は警察沙汰になる前に見つけられなくて済まないと謝罪してきた。
私が武田くんのご両親から相談を受けた時には、武田君はまだ警察沙汰にはなっていなかった。 立花君を敬遠せずすぐに相談していれば、武田君が警察に捕まる前に見つかっていた可能性はあった。 それを言うなら立花君より私の方が罪は重い立場の筈なので謝られて申し訳なく思った。
そうやって私から接触したのに立花君は私には興味が無いようで、一切馴れ馴れしく接触して来る事は無く、学年20位前後の成績、スポーツ万能、人当たりが良いという好青年というままだった。
立花君は女の人に興味が無い人では無かった。 私と話す時に他の男の子と同じようにチラッと一瞬だけ胸の方に視線が行くし、水泳部の同級生と友達以上の親密さで付き合っているという噂もある。
私が立花君の事を気にしてしまい、武田くんのご両親から聞いた武田くんの情報を教えたりしたりしてみたけれど、それにも一切興味を持つ様子はなく、その話にかこつけて私に接触してくる事も無かった。
ある日、別の全寮制の高校に転校していた武田君が学校から逃亡し家に戻って来ていたらしく、しかもその逃亡の途中で女の人を騙してひどい目に合わせていたようで、その女の人が武田君の家に怒鳴りんで来ると言う騒ぎがあった。
女の人は武田君がいかに酷い人間かと叫んでいたけれど近所迷惑ではあったので、私を含めた近所の人の通報によって警察に連れて行かれた。 しかしその後、私の家を含めた近所の家に、武田君の悪事が書かれた手紙が送られてくるようになった。 それ以来、武田君の家からの人の叫び声や物が壊れるような音が聞こえて来るようになった。
1年の正月の日に、武田君の両親が武田君の妹であるシオリを私の家に連れてきて、神社に初詣に連れて行って欲しいと頼んで来た。 正月とは思えない様子の3人のくたびれた様子に、私は頷く事しか出来ず、お母さんが着付けてくれた振り袖を着たまま、近くの神社にシオリを連れて初詣に行った。
私は神様に武田君の家族が元気になりますようにと祈った。そしてせめておみくじでも引こうとシオリを売店に誘った先で偶然出会ったのが立花君とその妹のユイさんだった。
私は立花君と雑談程度の話をしていたのだけれど、立花君の妹さんはいつもの様に立花君に仲良く掛け合いをしていた。けれどそれがシオリにとっては、今の境遇との差を感じてしまう事になり、泣き出しそうになってしまった。
立花君はすぐにそれを察し、お詫びにファミレスで奢ると提案してきた。けれど何もシオリは答える事が出来ず涙を必死にこらえているだけだった。
立花君は何も聞かず、シオリの手を強引に掴んでズンズンと歩き出してしまった。
有無を言わせない強引な感じがしたけれど、いつもより穏やかな笑顔をしていて何か暖かい気持ちがした。それに振り袖姿で早く歩けない私のペースに合せて歩いていて、無神経からの行動では無い事はすぐに分かった。
ファミレスに入ってすぐ、私はトイレに行きたくなってしまった。幸い裾を上げた時に止める道具は持っていたし、最低限の着付けを直す道具も持っていた。
ファミレスの多目的トイレで用を足したあと着付けを直していたら、立花君の妹さんのユイさんがノックして様子を聞きに来てくれて、着付けの直しを手伝ってくれた。
立花君の妹さんもとても気の利く好感の持てる相手だという事がすぐに分かった。
着付けを終えて戻ると、シオリは明らかに元気になり、顔を赤らめていた。立花君が何かをしたんだろうけどこんな短期間に劇的に元気にさせた手段が思いつかない。
立花君がシオリに卑猥な事でもしたのかと勘ぐったけど、こんなに人混みのあるファミレスだし、シオリの服が着崩れてもいないため違うと思った。
シオリの顔が恋する乙女みたいな感じに思えたので、立花君のグイグイ引っ張ってくれるところに惚れたのかと思ったけれど、シオリは明らかに立花君と違う方向を見てため息をついていた。
視線を追うとファミレスの出入り口を見ていて、大ファンの芸能人でも見かけて元気にでもなったのかとそう思うしか無かった。そしてその程度で元気になるのならそこまで深刻ではないのかと思ってしまった。
その判断の誤りは大きな後悔として私に返って来ることになった。 なんと武田君の一家はその数日後に全員蒸発してしまたのだ。
近所では一家心中とか夜逃げとか色んな情報が流れた。 けれど正確な行き先を知るものは誰も現れなかった。
時間が経つにつれ、手入れされなくなった武田くんの家が少しづつ汚れていき、私も遊んだ武田君とシオリちゃんの家の庭が荒れて行くのがとても辛く感じていた。
2年生1学期の期末テストの時に、部活が休みなので終礼後すぐに帰宅したのだけれど、別の高校に行ってる中学校の時の同級生に偶然に会った。
私はなんとなくその同級生に武田君の事を話したのだけれど、その同級生は武田くんの妹がその同級生の行ってる高校に通ってると言った。
但しシオリは学校の番長の女になっていて、学校もその番長の取り巻きがガードしてるし、朝も放課後も番長の家の黒塗りの車が来て送り迎えしているので近づくことが出来ないと言っていた。
番長の名前を聞いたら権田リュウタ。ショッピング街の近くに拠点を構えるヤクザと同じ苗字だ。
シオリはもしかしてヤクザの家に売られてしまった? そう思ったら目の前が暗くなってしまっていた。
そういえば武田君が家出した時、立花君に聞いたら、この変に詳しい人を知っていると言っていた。 もしかしてそれって地元のヤクザって意味だったのだろうか。 私はとんでもない相手に相談をしてしまったのだろうか。
私は翌日立花君に相談した。 立花君はすぐに確認すると言ってくれた。
テスト期間が終わりテストの返却が始まる日に、立花君は私に接触して来た。 考えてみれば、私は立花君の方から初めて接触を受けたのかもしれない。
私は余裕を持った態度を装って応対した。 立花君があのヤクザの関係者だって確定してしまったからだ。 私をシオリに合せてくれるという。 学校終わりの放課後に会いに行くのは危険だ。 そこで拉致されるかもしれない。
日中にいなくなったのは変だと思わせた方が良い。 出来れば直前に立花君と接触している様子を周囲に見られていた方が良い。
私は終業式の後に、午後の部活が始まる1時間程度の間と限定して会いに行くという約束をすることに成功した。 その後は当日立花君と教室を出てバスで出かけている様子を周囲にアピールすればいい。 それが私が無事に帰れる可能性を高めてくれる筈だ。そう私は覚悟を決めてヤクザの家に向かった。
結局はこれらの心配は杞憂に終わり、武田君の家族は無事だったしシオリは幸せそうだった。 ついでに私達の家族が抱えてるご近所とのギクシャクした部分も解決してしまいそうな感じだ。
問題があるとすれば、サクラの機嫌しばらく悪かった事と、私が立花君を気になり初めてしまった事だ。 夏休み明けまでに立花君の事を考えると高鳴る鼓動が収まるようになってくれればいいのだけれど。
でも何で立花君? どう考えても私の好みでは無いと思うのだけれど・・・。
少し立花君の事をどう思っているかじっくり考えてみようかしら・・・。
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