第43話 充実した夏休み
夏休みに入った。
神社の祭りには去年と同じようにユイとオルカを伴って参加した。 そして去年のように出店で楽しみ、花火を堪能した。 帰りに社務所によって親分に挨拶したあと、家に誘われたので車に同乗して向かった。
「これを嬢ちゃんに渡す」
「あっ・・・ありがとうございます」
「もっと早くすべきだったんだが、丁度作刀を頼んでた奴が代替わりしててな、満足いくものが仕上がるまで時間がかかっちまった」
「お気遣い有難うございます」
今日リュウタと一緒に居た武田の妹も小刀を差していたし、親分さんには色々気を使わせてしまっているようだ。
「そういえばこの前来たっていう綾瀬という奴と、ジェーンっていう留学生は坊の身内なのか?」
「親しくはありますが身内って程では無いですね」
「あの2人は傑物だ。 綾瀬って奴はともかく、留学生の方は化物だ。 万が一の時は、俺程度でどうにかなる気がしねぇ」
「それほどですか・・・」
「あぁ・・・」
親分は何か勘づいているらしく、スミスの事を警告して来た。
スミスが理外の存在であるのは俺は親分より知っている。 けれどそれは親分に説明してもどうにもならないものなので、話すつもりは無かった。
「アレには決して逆らうなよ? 俺程度では坊を庇う事すら出来ないかもしれないからな」
「わかりました、仲良くします」
「それがいい・・・」
俺と親分の会話を、ユイとオルカは疑問符のついた顔をしていたけれど、真剣な会話の様子から黙って聞いていてくれた。
親分さんの家からの車で送って貰い、家についたあと、ユイとオルカは俺の部屋に付いてきて、俺に質問を始めた。
「ジェーンちゃんが化け物ってどういう事?」
「親分さんは長年の勘からジェーンの得体のしれなさでも感じ取ったんだろ?」
「あんなに綺麗で可愛い子が?」
「普通の子だよ?」
「綺麗過ぎるし、普通では無いだろ・・・」
「お兄ちゃんもそう思ってたの?」
「やっぱり胸の大きな子が・・・」
さすがにスミスの見た目は素晴らしい造形美だと思うよ。
『恐縮です』
あとオルカは胸にコンプレックスでもあるのだろうか。
『ホルモンとされる物質のバランスを調整して大きくする事が可能ですが』
(やめてくれ)
『分かりました』
胸が大きくなったら水の抵抗が増えて記録が落ちてしまうだろう。 今の流線型を保つことがオルカには大事なんだよ。
「スリーポイントシュートの入る確率が必ず50%だし、テストの点数もピッタリ平均点だ。 そんなの普通じゃ狙えないだろ」
「えっ?」
「そうなの?」
「2人の毎回赤点ギリギリ回避も普通じゃ狙えないけどさ・・・」
「私達は化け物じゃ無いよ?」
「全力で解いただけなのに・・・」
2人は自覚ないようだけど周囲から化け物って言われるような超高校生級なんだけどね。
「得体の知れない部分があるってだけさ。 普段通り、仲良くしてれば良いとお思うよ」
「うん」
「分かった」
スミスの事は、俺でも説明のしようが無いので、そういう程度しか出来なかった。
2人が部屋から出て行ったあと、スミスの憑依体が俺に話しかけて来た。
『親分さんはあなた様に何かがついている事に気がついていました』
「何かってスミスの憑依体の事か?」
『おそらくは・・・』
「そんな事はあり得るのか?」
『はい、今日反応を確認し、私の動きに合わせて意識の方向を変えました』
「憑依体に動きなんてあるのか?」
『あなた様を中心に存在しているだけで、形状は変化させられます』
「なるほど・・・」
『憑依体になった我々を認知できる個体は非常に珍しいですが、この星の人種にも約2749億人に1人程度の割合で発生するものです』
「それって異能?」
『はい』
そっか、親分さんも異能使いか。 結構いるもんだな。
『この街に偏って存在しています』
「そうなんだ」
『この程度の偏りなら世界の何処かで人為的でなくてもあり得ますが、場所が場所ですから、創造主様達によるものである可能性が高いです』
「なるほど」
隣の部屋にユイとオルカがまだいるけれど、俺はどうにも心の中だけでスミスの憑依体と話すのは会話している気分が薄くなってしまい苦手だった。
スミスの憑依体が最近を使って外に会話の音が漏れないようにしてくれているので、気にせず口に出して会話をした。
外からの音は聞こえるのに、俺の声を外に漏らさない仕組はなぞだけど、スミス達のする事に疑問を持っても理解出来ないものばかりなので、気にせずにそういうものだとして受け入れるようにしている。
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「行ってくる」
「現地でね!」
「はーい」
高校総体参加するため大会期間の前半で参加する選手達は学校集合して出発事になった。
水泳は9日間の大会前半の2日目から4日目の3日間行われるため先発陣だ。他にも陸上競技で前半の日程で出場する選手と、女子バスケ部や男子テニス部の先輩など、1試合の時間が長く勝ち進んでいくタイプの競技だるため初日から大会最終日近くまで大会日程となっている選手も先発陣だ。
お袋と義父は1日遅れて応援に来るらしい。俺達は開会式にも参加するため大会前日に現物入りするからだ。
うちの高校で高校総体に出場するのは、水泳部の2人と女子バスケ部と男子テニス部のダブルス1組と陸上部の人が3人らしい。ただし陸上部の内前半で出場する選手は砲丸投げで出場する3年生の先輩だけで、他2人は4日目から現地入りするらしい。
全員学校に集合して県内にある国際空港から樺太県南部にあるにある豊原空港に飛び、そこからチャーターバスに乗って1時間かかって大会会場のある街のホテルに行くことになる。
ホテルでは、ユイはスミスと同室で、オルカは水泳部の顧問と同室で、俺は砲丸投げの3年生と同室となる。陸上競技場とプールは試合会場が結構離れて居るし、競技時間も違うため行動は別々になる。
会場へはホテルと提携した車両が周回しているそうなので、時間ごとにバスの待ち合わせ場所に行けば良いらしい。
もちろん女子バスケ部のように団体競技の場合は、単独でマイクロバスを借りて会場にいくようだが、個人競技の場合は、それぞれ事情が違うのでそういう事になっていた。
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空港についた時は正午から少しあとで日中の最高気温になる時間だったけど、電光掲示板に表示された外の気温が20度で、随分涼しかった。上に1枚羽織りたいぐらいの状況だけど、ここでは普通の夏場の気温らしく、空港のスタッフもホテルマンも半袖だった。
「間宮先輩、しばらく同室ですがお願いします」
「おう、俺は早ければ2日目に終わっちまうからな、早く帰るけどな」
「俺も2日目で終わりますが、水辺が5日目まであるし、妹が女子バスケに出ていて、両親も応援で来ますので残ります」
「女バスはいいとこまで行きそうらしいな」
「えぇ・・・でも初めての全国大会の方が多いようなので、思うように試合が出来ないかもしれませんよ」
「となると初戦が大事だな」
「えぇ」
ユイは中学校の時に全国を経験したし、スミスはそういったものと無縁の存在だ。けれど2年や3年の先輩方は初めての全国大会なので会場の雰囲気に飲まれてしまうかもしれない。
「立花はあまり緊張しなそうだな」
「俺は昔っからそうですね」
「それは羨ましい事だ」
「先輩は全国は初めてじゃないんですよね?」
「中学で1回と、高校で3年連続だな」
「なるほど」
先輩は結構有力な選手だったようだ。
「大浴場があるようだし一緒に行くか?」
「えぇ」
樺太も火山列島の一部らしく温泉が湧く。このホテルも源泉かけ流しでは無いが温泉の大浴場があるらしく、パンフレットでは是非ご利用くださいとうたわれていた。
「お兄ちゃん何処行くの?」
「大浴場だよ、そっちは?」
「展望台の方、海に沈む夕日が綺麗だったよ」
「へぇ・・・」
「その展望台の、朝日は山から登るんだって」
「へぇ・・・明日早起きして見ようかな」
俺達が住む街は西側に山があるので海岸近くに行っても太陽は海に沈まない。けれどこの街は丁度逆の配置のように東側が山があり西側は海なので海に沈んでいく太陽が見れる。
「開会式に遅れないようにね」
「はいよ」
ユイと同室のスミスとホテルのエレベーターの前ですれ違ったのだが、どちらも緊張感は感じなかった。
「随分と落ち着いてるな」
「妹は中学でも全国出ていますから」
「ジェーンの方もそうなのか?」
「アメリカでの事までは聞いたことが無いですね」
「それもそうか・・・それにしても美人だな」
「えぇ・・・」
スミスは下手な化粧をすると、逆に変になっていくぐらい容姿が整っている。服装もシンプルな方が素材を生かせるようで飾り気が少ない服を着る。
ロシアに近いだけあって、この街では欧米風の血が入った人が多いみたいだが、それでもスミスの綺麗さは目を引くらしく、近くを通った人が振り返ったり、立ち止まっている人が目で追っていたりしていた。
試合会場でも多くの人の目を引き付けてしまうだろう。
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