第38話 タイムパラドックスは起きません
県大会で100mの自由形で2位とバタフライで3位を取り、さらに標準記録を超えるタイムを出したことで全国へ進んだ。 残念ながら県大会まで進んでいたリレーとメドレーリレーは超えることが出来ず個人競技のみの出場となった。 全国大会は樺太県で行くのが初めてなのでかなり楽しみだ。 とはいえ試合会場は南の方なので文化的には殆ど前世でいう北海道北部にあたる北見県や天塩県と同じらしい。
「あとちょっとだったのになぁ」
「まぁ俺達の分まで水辺と楽しんでくれ」
「はいよ」
全国に行けたのは俺とオルカだけなので全員に祝福された。 受験に入る3年生がこれで引退という事になる。 部長から、俺が部長で、オルカと坂城が副部長に指名された。 部活に真面目に参加している2年生がその3人しかいないので、自動的にそうなったという感じなのだろう。
インターハイは女子バスケ部も全国出場を決めているので、ユイも一緒に行くことになる。 ユイ達が勝ち進むなら俺の競技終了後にも試合があるので応援に行くことが出来るだろう。 両親が有給を取得し初戦の開始時間前に来るそうなので、それまでの応援は任せる事になる。
その後期末試験が行わわれ俺はいつものように学年20位前後の位置をキープ、その後は学校では夏休みに向けて浮かれている学生が多くなる中、学校で珍しくスミスの本体が接触してきた。
「調査の結果、精神の力で世界は産まれない事が判明しました」
「えっ?どういう事?」
スミスに言われた事が、しばらく理解出来ず言葉を噛み砕く時間を要した。
「精神とは種によっては半永久的に固定化しますが、我々でも観測できない程希薄に霧散させる種もあります。 創造主様達もそうなのではと思い、我々でも観測できない程希薄に霧散させる種の精神を調査した結果、世界は創造されないという事が分かりました。 また仮想的な創造主様達を模した宇宙を、この宇宙の容量でも表記出来ない程の数作り、そこに産まれた創造主様と相似になった種全てに、精神的に世界を想像した場合世界は構築されるのか誕生から滅亡まで観測した結果、創造されないという結果が判明し、精神の力では世界は産まれないという事が証明されました」
俺が何とか言葉を噛み砕いて理解出来た途端に長い話を聞かされて、さらに理解するのに時間を要した。
「もしかして親分の家からの帰りに俺が考えていた事?」
「はい」
あれって期末テストの終わった帰りの日の事だ。 土日挟んで今日からテスト返却されるって日の今日までの間に種が産まれて滅亡する時間が経ってるなんて変だ。
「あれから3日も経ってないと思うけど、種の誕生から滅亡の観測って時間が合わなくない?」
「時間も次元の1つですから」
「えっ? 時間操作って出来るものなの?」
「はい」
時間操作には未来へ行くものと過去へ戻るものがある。 時間不可逆から過去に戻れないと思うけれど、スミスの反応からどっちも大差無いものみたいな反応をさてた。
「時間って遡れるの?」
「はい」
何だろう・・・またまた衝撃的な事実を知った気がした。 時間の不可逆性が超越的な存在の一言で一瞬にして崩壊させられてしまった。
「タイムパラドックスってどうなるの?」
「パラドックスなんてありません」
「えっ?」
「遡った段階でそこにいるものになります」
「へ?」
パラドックスが生じないなんて意味が分からない。 過去に戻って俺を殺したら、俺を殺した俺はどこから来たことになるんだ?
「あなた様が10分前に遡りあなた様が10分前のあなた様を殺したら、あなた様と10分前のあなた様の死体が残る世界が続くだけになります」
「俺が産まれる前に遡って両親を殺したら?」
「あなた様とご両親の死体が残る世界が続くだけです」
「その俺が未来に戻ったら俺が産まれて居ない事にならない?」
「過去にご両親が死んだ世界とあなた様がいる世界が続くだけです」
「両親がいないのに俺が産まれる事が出来るの?」
「いえ? あなた様はご両親から産まれています」
「その世界では俺の誕生日に俺は産まれないよね?」
「はい、あなた様は産まれません」
「じゃあ何で両親が俺を産む前に死んだ世界に存在出来るの?」
「それはあなた様が過去に戻ってご両親を殺したから存在するんです」
あれ?なんかパラドックスが起きるなんて思えなくなってきた。
「あ・・・でも世界って16年とちょっと前に出来たんだろ? それより前に遡ろうとしたらどうなるんだ?」
「遡った世界に行きます」
「世界が出来る前に行けるって矛盾していないか?」
「いえ、世界が出来た16年45日前12時間35分28秒前に、その起点より時間が遡った世界も同時に創造されただけです」
「その16年とちょっと前に、世界のずっと過去まで一瞬で作られたって事か?」
「はい、その認識で問題ありません」
結構正しい答えを導けたようだ。
「パラドックスは時間を遡った存在は周囲にとっての特別な異物だと仮定するから起きます、未来にあった存在であろうと、過去に遡った時点でその存在はあくまで過去のその時点に存在ものになります」
「特別か・・・」
「時間も次元の1つに過ぎませんし、それが移動した程度で世界には矛盾が起こらず崩壊しません」
「なるほど・・・」
納得できる様な納得できない様な、でもスミス程の超越的な存在が断定するならそれが真実なのだろう。この世界ではという枕詞が付くかもしれないけれど。
「その考えは我々も創造主様達の世界と接触出来ない可能性の候補として考えています。 あなた様の記憶の中で、それが観測されれば再現し越えられるのではと思います」
「越える?」
「他の世界に行く事です」
「スミス達って異世界に行きたいの?」
「種とは新たな地で繁栄を目指すものです」
「なるほど・・・」
スミス達みたいな超越的な存在でも、普通の生物みたいな感覚があるらしい。
「この話をするためだけに来たの?」
「我々にとっては小さい話ではありませんでしたから」
「そうなんだ、わざわざありがとう」
「いいえ」
俺には分からないけれど、スミス達的には大事な何かがあるんだろう。
---
俺は武田の妹の事を伝えるために綾瀬に用事があった。 けれどクラスで人気者の綾瀬に話しかける隙がなく、声をかけるのが放課後になってしまった。
「綾瀬、少しだけ話があるんだが良いか?」
「えぇ」
綾瀬を囲んで話し混んでいた生徒たちが、俺が綾瀬に声をかけた事に驚いていた。こいつらに勘ぐられて色々噂されるのは面倒だけど、周囲に聞かれたく無いので、周囲を見渡してここでは話せない事を伝える。
「分かったわ」
「すまない、時間は取らせない」
俺は綾瀬を連れ校舎裏に向かった。 付いて来ようとする奴がいたけれど、綾瀬が牽制してくれたので聞かれず話すことが出来そうだ。
「この前の話の件かしら」
「あぁ、その事で綾瀬を連れていきたい場所があるから、放課後に時間があるとき付き合って欲しいんだ」
「あら、デートのお誘いかしら?」
「そういう冗談は辞めてくれ、武田の妹に会って貰おうと思ってるだけだ」
綾瀬は値踏みするように俺を見たあと、何か思案したあと俺に質問をしてきた。
「それはどれぐらい時間がかかるのかしら?」
「行くのは駅前のバス停から徒歩10分ぐらいの所だ。 そこで武田の妹に会って話をして貰うつもりだ」
「学校から往復するなら1時間少々ってとこかしら?」
「長く話し込まないならそんなものかな」
綾瀬は、またしばらく考え込んでいたけれど、考えがまとまったようで再度話を始めた。
「それなら終業式の後はどうかしら? 午後の部活が始まるまでに帰って来れると思うの」
「了解、先方に伝えておくよ」
「お願いするわね」
要件は終わったので、綾瀬は先に校舎裏から去っていった。 俺は少しだけ時間を開けて、そのまま放課後の部活に参加するためプールに向かった。
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