第36話 身近に居た異能使い
リュウタの体からオーラの様なものが立ち上がる。そしてリュウタの体がブレたように見えたと思ったらリュウタの目の前にあったサンドバッグがズンという重い音がして高い位置まで持ち上がる。
あれってゲームで出ていた不良の親玉の必殺技だよな?
オーラの様なものが出ているけどあれって何だ?
『道着にしみ込んだ汗に含まれる水分が蒸発したものです』
あんなに見える程の湯気ってどんだけ温度が上がってるんだ?
『体内温度は摂氏41度、体表温度の平均は摂氏39度です』
風呂場のお湯って40度ぐらいあると結構湯気が立つもんな・・・そして今日は雨だし湿度が高いと・・・閉鎖空間に大勢が集まると霧が発生するって聞いた事があるけどそんな感じか。でも体温って40度超えるとたしか体が危険なんじゃなかったっけ?
『この星の生命体の体を構成するたんぱく質と定義されている物質は摂氏42度から凝固を始めるものがあります』
(それって体が茹ってしまうって事?)
『一部のたんぱく質だけです。摂氏45度を超えたら生存に欠かせない機能の大きな欠損に繋がります』
(あれって異能?)
『科学で説明できますが、この星の科学で解明されていない内容を含みますので異能と言えます』
(つまりリュウタは異能使いだったのか)
『はい』
(主人公も部活での活躍具合によって必殺技みたいなのを使えるようになるんだが、あれも異能なのかな?)
『可能性があります』
(つまり武田も異能使いだったのか・・・)
『はい』
(あと一緒に稽古している武田の妹も似たオーラみたいなもの出てるんだけど、あれも異能だよね?)
『はい』
(武田と同じ血を引いてるんだし同じ事になるのか・・・)
『創造主様達が作られたゲーム主人公とヒロインは異能使いになる素質があります』
あぁ・・・主人公である武田が先頭の時にヒロインと居るとそいつもオートモードで技みたいなの使うもんな。たしかオルカがブリーチングアタックという水面から飛び上がって敵に体当たりする必殺技で、ユイがメテオジャムという敵の上にゴールリングが出来て、ボールを投げつけて当てる必殺技だったけど、あれもいつか覚えるのか?
期末試験の終わりにリュウタに用事が出来てしまったので権田の親分の屋敷を訪ねたのだけど、道場で稽古中だというので邪魔しない程度に見学させて貰おうと思った。けれど訪ねてみたところで恐ろしい事を知ってしまった。俺の身近には既に異能使いがゴロゴロ居るって事を知ってしまったからだ。
俺は5作目に登場した宇宙人、未来人、超能力者、異世界人が勢ぞろいして異能バトルが繰り広げられるのだと思って居たし、そんな世界になったら旧作の登場人物でである俺達は巻き込まれて大変な事になると思っていた。しかし旧作の登場人物たちも異能が使える奴らばかりでどちらかというと巻き込む側になりえると知ってしまったからだ。
「兄貴、見学されてたんですか」
「あぁ、見事な正拳突きだな」
「最近何かが目覚めたきがしやす」
「彼女もなんかすごい熱気だが」
「シオリは天才ですよ、兄貴が直接助けるなんて何かあるのかと思っていやしたが、納得しやした」
リュウタが俺の方にやってきても、サンドバッグの前で一心に正拳突きを繰り返していく武田の妹。威力はまだリュウタの方が上だけど、雰囲気はとてもそっくりになっていた。
「そんなんじゃないさ、でも大事にしてやってくれ」
「それなんですが、俺とシオリは惹かれあってるんですが構いやせんか?」
「それは本人同士の意思で決める事だろ?」
「それを聞いて安心しやした」
既に名前呼びか。どうやら既にお互いの気持ちを確認しあっているようだ。武田の妹もリュウタにあんなにそっくりな拳を叩きつけるって事は、リュウタの所作を見続けて研鑽したんだろうな。
「それで彼女は良いのか?」
「ああなってるシオリは俺でも安易に近寄っちゃなんねぇ程集中してやす、だから構いやせん」
「そうか・・・実は綾瀬の奴から彼女の様子を教えて欲しいって言われたんだよ」
「綾瀬って言うと、シオリの幼馴染ですね」
「あぁ・・・リュウタと同じ高校に居る事を知った様なんだが、ガードが厳しくて近寄れなかったようでな、俺が何かしたんだろうと察したらしくて理由を問いただして来たんだよ」
「なるほど・・・それは俺のフォロー不足です、兄貴の言う通りに場を設定させて頂きやす」
「場か・・・綾瀬は完全にカタギだが、ここに連れて来ても問題無いのか?」
「兄貴が気に掛ける人がただのカタギとはおもえやせんが・・・」
「非常に優秀だけど普通の同級生だよ」
「兄貴が非常に優秀って言う時点で普通じゃないと思いやす」
確かにそうだ、幼馴染だけど高嶺の花で、全能力を平均的に上げることが難しいゲームなのにそれを高い位置で達成しなければ、どんなに運命的なイベントを多くこなしても振り向く事が無い、一切の妥協を許さない姿勢を持つヒロインが綾瀬だ。
「機会を見つけて連れて来るから頼むな。決まったら連絡いれるよ」
「わかりやした」
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あまり関わりが無いと思い綾瀬の事を深く考えて来なかったが、リュウタに言われて綾瀬の事を少しだけ考えてみた。
綾瀬はゲームの中で特別扱いを受けているキャラだった。
まず綾瀬は、ゲーム本番となる高校入学前の主人公である武田の行動にょって初期状態が変化する。
他にも、ゲーム主人公がヒロイン達とフラグを回収しないまま3年の最後を迎えた場合、プレイヤーに悔しい思いをさせるために、登場させて居ながらフラグ回収から最も遠いヒロインを立花に寝取られる的なイベントが発生する。
それはゲームのお助けキャラである俺が「俺達オルカと付き合い始めたんだよ、応援してくれよな」という感じの事を主人公である武田に放課後腕を組みながら告げてくるのだ。
ゲームのお助けキャラである俺は、主人公の攻略に遠いヒロインと交際宣言をしてくるという法則はあるのだが、その相手として綾瀬と妹であるユイが絶対にならないという設定があり、綾瀬とユイしかヒロインを登場させていない場合は。そのイベントが発生せず、ただ単に一人寂しい卒業式というエンディングになる。
ヒロイン達は、自身と同類を求める傾向にある。しかし、いつも赤点ギリギリのゲームの立花では決して相容れな存在の、科学部や文芸部すらゲームのお助けキャラである俺と交際するパターンがある。
インターハイ優勝クラスの運動パラメーターが無いと攻略出来ないオルカや、芸能人にスカウトされるレベルの容姿を求める桃井も、文化部で3枚目である設定のゲームの立花では難しい筈なのに交際するというパターンがある。
ゲームの立花はヒロインの情報を集めて他人に売るような、ストーカーかパパラッチの様な犯罪的な行為をする人物だ。なのにそれを周囲から受け入れられている。
現在の俺のように、権田の様な何か裏の組織との接点があり、それを使っていた可能性が浮び上る。
『あなた様はお忘れのようですが、綾瀬には高嶺の花のままで居て欲しかったから設定から外したと、あなた様が読んだ雑誌の創造主様の1人の対談記事に記載がありました』
じゃあ何で立花は能力が不足している状態でヒロインと交際出来るんだ?主人公すら出来ない事が出来るようなキャラじゃないと思うんだが。
『積極的にアピールし好意をちゃんと口にしてくれる立花のような男性にに惹かれる女性は多い、3年間も時間がありチャンスがあったのに、相手から卒業式に告白されるまで気が付かない鈍感さがムカつくと、デモプレイをした女性スタッフから言われたと同じ対談記事に書かれて居ます』
俺の深読みによる勘違いをスミスの憑依体が訂正してくれた。
『その女性スタッフ様はダメンズ好きだという事が、あなた様の記憶による調査で判明しております。重要な役割をなさった創造主様のお一人なのですが、まだお名前が判明していないためその記憶の発掘の優先度は特級扱いとなっています』
24人の創造主の中にデモプレイをしたという女性スタッフが入っているとは思わなかった。
名前が分からないって事はエンディングのテロップに流れなかったという事なので、ゲーム制作の中での役割は小さかった筈だ。
俺が思ってたスミス達の創造主様って、システムを作ったプログラマーだったり、ドット絵を書いたデザイナーだったり、テーマ曲を作った作曲家のイメージだったけど、そうじゃなくて、世界の根幹を吹き込んだ、プロデューサーやディレクターやそれに影響を与えた人が該当するのかな。
『その通りです、ただの信号では世界が作られない事は、我々の調査で判明しています』
精神が世界を作ったかのように聞こえるけど、そんな希薄なものじゃないよな。それなら世界はとんでもない数産まれている筈だ。それならスミス達ならすぐに発見出来るだろう。
『・・・』
何か聞こえたような気がしたけどスミスの憑依体は黙っているので勘違いだったようだ。
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