第32話 宇宙人チート始めました

「ジェーンちゃん、また告白受けてたよ」

「あれだけ綺麗だもんねぇ」

「色々整い過ぎではあるよな」

『恐縮です』


 スミスの憑依体はスミス本体よりも人間臭い反応をするような気がする。憑依体本人は同じものというけれど、微妙に違うような気がしている。

 スミスとは基本的に憑依体を通して連絡しあっているため、学校で対面しながら会話する事は無くなった。俺が眠っている時など、無意識状態になっている時に記憶を吸い出す作業をしているらしいけれど、俺には認知が出来ない状態で行っているらしく詳細は分からない。

 スミスの憑依体もこちらから話しかけない限り、突然何かを注釈するように呟くぐらいなので、そこまで深くかかわっている訳ではない。それにスミス本体と話して居ないため、同じだと言われると信じるしかなかった。


 スミスは平均的である事にこだわりがあるらしく体育祭では全種目9人中5着。中間テストでは全教科平均点を端数を四捨五入した数字という、全教科赤点をギリギリで回避をするというオルカ並みに驚異的な点数を出した。人間らしさを出す為に、そういったものには乱数的な何かを導入した方が良い気がするけれど、スミス達の特性なのか、乱れというものに異常なまでの忌避感があるらしく、アドバイスをしてもそれを導入する様子は無い。

 量子論についてどう思うのか聞いたら、この星で発展可能な生き物としてはかなり良い理論だという回答だった。スミス達なら量子の動きすら確実に把握できてしまうのだろう。スミス達はこの世界にも同じ名前で存在する同一人物らしい「神はサイコロを振らない」と言ったアインシュタインといい酒が飲めるんじゃないかと思う。アインシュタインはお酒を嗜まない人だったらしいけどね。


 ちなみにこの世界のアインシュタインはプロインセン皇国で生涯を終え、前世のようにアメリカに移住はしていない。この世界ではドイツの科学は世界一な状態が反映されているようで、アメリカ、日本と並ぶ技術大国で経済力も日本並みに高い。

 大英帝国が前世のイギリスより増して貴族主義でメシマズだったり、フランス帝国が排他的で美食と芸術偏重していたり、イタリアがマフィアの巣窟だったりと、スミス達より創造主様と言われるゲーム開発者の悪乗りの様な世界観を体現したパラレルワールドなのだと思う点がいくつもあった。

 そのパラレルワールドでもアインシュタインという物理学者は、他に替えが聞かない程の独創的な発見をしたので変わらず存在しているのではと思っている。

 この世界では、20世紀以降の偉人で前世と同じ名前で存在している人は俺が知る限り少ない。俺の前世の知識では、量子論のオッペンハイマーと量子宇宙論のホーキングぐらいしか俺は知らないぐらいだ。

 俺もそこまで偉人を知っているでも無いけれど、殆どの人が知っているテスラやエジソンやベルやライト兄弟という発明家の名前が調べても出てこない。フレミングの左手の法則も違う名前の法則なので居ない世界だったんだと思っている。


 スミスはユイと同じバスケ部に入部した。平均的なアメリカ人はバスケを好むという理由らしい。前世の俺の知識だとアメリカの女性はチアリーディングやソフトボールを好んだ気がするのだけど、この世界のアメリカの女性は少し違うらしい。


 この高校は男子も女子もバスケもそれなりの強さ程度で全国出場は御無沙汰となっている。文武両道をうたって居るため、なりふり構わず全国から選手を集めるという事をしないためだ。そんな中でゲームの主人公が急成長により活躍し、チームを引っ張って全国大会優勝をするというのが本筋なのだろう。けれど中学全国大会出場チームのキャプテンだったユイと、平均的なアメリカ人はバスケが得意と思い込んでいてユイ並みに活躍しているスミスが所属したため、女子バスケ部は一気にチーム戦力が向上してしまった。

 大きな体なのに3年生のキャプテンよりチームの指揮が上手いセンターをしているユイと、けっして運動量は多く無いのにディフェンスを躱すのがうまく、スリーポイントをスポスポと決めてしまうスミスがいるため、全国出場どころか優勝が狙えるチームになってしまっていた。


 俺は学校のプールが使用できるようになり、練習に参加する事は減って居る。それでも選手登録はされていて大事な試合には呼ばれて出場はしている。なにせ予選と決勝を1日で行い、その記録だけで次のステップに進む水泳と違い、バスケは予選から決勝トーナメントと全国に行くまでに試合する機会が多い。本番を優先という事ならバスケの試合に出場する機会の方が多くなっているのだ。


「来週は地区ブロック大会なので試合出場は難しいです」

「大事な試合なんだが仕方ないか・・・」


 結構ギリギリで勝ち上がって居るので俺もベンチには控えていて欲しいのだろう。

 一応午前中が予選で午後が決勝なので予選敗退なら午後にする試合に駆け付ける事は可能だ。けれど全国標準タイムを超えていて、地区ブロック大会優勝候補になっている俺が決勝に出ない事は、悪質なフライングを取られてしまった時ぐらいの事だろう。

 俺が試合に出なかったから負けたと言われかねないけど、そもそも俺はバスケ部じゃない。それ以上を求めるなら助っ人を辞めてユイの応援に行く事に専念したいぐらいなのだ。


「それにしてもお前の妹はすごいな」

「頑張ってますから」

「ジェーン・スミスも居るし、3年間は全国常連になるんじゃないか?」

「スミスは留学生ですし、帰国する可能性があるんじゃないですか?」

「スミス氏は3年間日本に赴任する事が決まって居るらしいし、ジェーン・スミスはずっと居るらしいぞ」

「そうなんですか」


 スミス氏とは入学式の時に現れていたたというスミスの父親役をしたジョン・スミスという名の存在だ。アメリカベンチャー企業の日本支部長という設定だけど、そのアメリカのベンチャー企業というのがスミスが日本に来るために急遽作った実態のあるダミー企業なのでどういう物かは良く分からない。スミスが様々な所からスカウトを受けた時に窓口に立ったののこのジョン・スミスだ。権田の親分が、いつの間にか大きくなってたみないな感じの事を言って首を捻っていたので、何かしらの記憶操作でねじ込まれた会社の可能性が高い。


『その通りです』


 スミスの憑依体からもそうお墨付きを貰ったのでその通りらしい。


 ちなみにこの会社の業務形態についてはスミスから俺の好きにしていいと言われて居る。スミスは俺と繋がって居るため俺が考えている事も筒抜けになってしまう。動画配信、ネット通販、店舗評価、ブログ、SNSなど、俺の記憶を見て一瞬でシステムを構築してしまい、きちんと企業の権利が法により保護されている国のアカウントでサイト運営を始め広告募集を始めてしまった。また租税回避地に会社をいくつも作り、仮想通貨の仕組みを作ってマイニングの仕組みを公表すると共に自分たちでマイニングを始めた。まさに宇宙人チートだ。

 スミスは投資で負ける事は無いので、それが一番儲けると言っていたけど、虚業で儲けても笑うのは一部の金持ちで、一般市民にとっては生活が苦しくなるだけだと思っている。だから投資は短期投資を繰り返すのではなく、長期投資で企業の成長を促すだけにしてと伝えておいた。


 スミスにはスポーツメーカーやファッションメーカーや化粧品会社からイメージキャラとして採用したいとオファーが来るようになっているようで、一時学校の前に怪しい集団が待機しスミスが出て来るのを待ち構えていた。平均的なアメリカ人を目指しているスミスにはそれが受け入れ難い事らしくマネージャー役をしているというジョンという人が出て来て門前払いをするようになった。

 平均的なアメリカ人にはマネージャーなど居ないと思うのだが、彼女にはそれが平均的な対応らしい。

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