第31話 宇宙の大安売り
「対価を決めて下さい」
「対価を決める?」
「見合う対価を差し出せと言っています」
「人の記憶なんて値段つけられるものじゃないだろ」
「我々からすると宇宙10の80億乗でも払いきれない程価値がありますが・・・」
「まてっ! 宇宙ってそんなに沢山あるの!?」
「この星の容量では表現できない程沢山の宇宙がありますが・・・」
「2の2乗の2乗の2乗のって星の容量分重ねても足りないって事か?」
「非常に良いご理解かと思います、ただ私単独で対処するよう命を受けていますし、私に与えられた権限は宇宙4個分程度なので・・・」
「なんかスケールが大きすぎて理解が出来ないよ」
「我々はそういう存在なので・・・」
スミスの奴、そう言えば俺が何でも納得すると思ってないだろうな。
「でもそんなに大事なら、何でスミスだけで対処する事になってるんだ?」
「浸食されるのを恐れているからです」
「浸食?」
「創造主様達はこの世界を一瞬で作れる力があります。 消す事や書き換えるのも一瞬では無いかと考えられています」
「スミスのような超越者でも死を恐れるんだな」
「滅びを恐れないものは滅びるものですから・・・」
「なるほど・・・」
人が空腹を感じるのは生きようとする本能があればこそだもんな。 その本能が無ければ人は餓死するだけだ。
この世界の爆心地であるここはそのまま無難な状態で居続ける事がスミス達の望みって事か・・・俺からすれば宇宙単位を一瞬で消し去れちゃいそうなスミス達の方が怖いと思うのだが・・・。
「そんな事はしません、ここの強制的な消滅は、世界の消滅と同義であると我々の計算では出ています。 自然のままの緩やかなこの一帯の消滅だけがそれを回避出来る方法だと出ています」
スミスが俺の記憶を読む事に許可を出しているため俺の心はスミスに筒抜けだと思う。けれどどうしても言葉に出して会話をしようと考えてしまう。
「ここらを消滅させるような事が出来る奴がスミス達の他にいるのか?」
「います」
「いるんだ・・・」
「種の消滅と対価で宇宙1つの消滅が行える可能性のある存在が1つあります、他にも星一つ程度なら破壊できる兵器を持った種なら、この星1つでは数えることが出来ない数の種が存在しています」
「お前たちなら余裕で予防できるんじゃないか?」
「私だけで出来ます」
「お前の同類からここを保護するって命令受けてたりする?」
「はい」
「俺が死ぬまでずっと近くで守ってたりする?」
「こちらの星の容量では数えられない程度の短い時間で駆け付けられる距離にいろと言われています」
「それってどれぐらいの距離まで離れられる距離?」
「この宇宙でいえば8つ隣の宇宙までです」
「そうなんだ・・・」
どっちにしてもこの星の容量では数えられない程遠そうだという事は分かった。
「それなら俺達人類からすると、お前っていくつも偏在出来るように思うんだが」
「力が分散されるので禁止されています」
「試しに2つに偏在するとどの程度分散されるの?」
「駆け付けられる距離が宇宙0.1つ分以上も短くなります」
「それってあまり短くなってないように思うけど」
「あの種は29次元の移動技術がありますので、その距離だけでも結構違います、もしもう1次元多くの移動手段があるならその間に宇宙1つ分ぐらいの距離を移動されてしまいます」
「スミスが何を言ってるのか俺には理解が及ばないよ」
29次元って何だよ、俺らは2次元ドット絵で作られた世界から産まれた世界にいるんだぞ? 3次元程度で充分だよ。
「それで対価なんですが、何が良いですか?」
「宇宙の10の80億乗の価値に見合う対価って具体的には何があるの?」
「私1つでどうでしょうか?」
「スミス?」
「一応私は宇宙の10の113億乗程度の価値に相当しますので対価としては適当かと思います」
「33億乗も変わったら随分違うように思うけど」
「我々からすると誤差ですが」
「そうなんだ・・・」
素粒子の大きさが中性子1個の大きさになったとか、そんなの差なのかな?
「その差は10の7乗程度の差ですね」
「誤差より随分小さな違いなのに細かく訂正するじゃないか」
「我々からは誤差ですが、今はあなた様に合わせていますので・・・」
色々気を使わせてしまっているんだな、スミスに気を付けるという感情があるのかは分からないけれど。
「10の33億乗の差を誤差ってのも合わせてくれよ」
「それでしたら私の憑依体ぐらいですね」
「憑依体?」
「あなた様では視認や触診出来ない程の希薄な存在ですね」
「幽霊みたいなもの?」
「間違っていないという解釈で良いと思います」
引っかかる物言いをするときは決定的に間違っているけど俺では理解出来ない説明が必要になる時だよな。
「間違っているけど俺程度では理解出来ないって事か・・・」
「そもそも幽霊とは概念の様なものなのでいかようにも解釈可能です」
「幽霊は実在しないって事か?」
「あなた様たちが幽霊と思ってしまう存在は結構いますよ」
「いはするんだ・・・」
「この星の周囲にいるのは星を害する力が無い程度の無力な存在ばかりです」
「星を害するって人間には無力じゃないぞ」
「あなた様さえ無事ならなんとかなります」
俺の無事? もしかして永遠にこのまま生かされるとかされないよな?
「俺ってちゃんと死なせて貰えるよな?」
「あなた様はちゃんと一度死んだと思いますが・・・」
「なるほど・・・確かにそうだ」
死なせては貰えそうだ、また違う世界に転生とかはありそうだけど。
「創造主様達と同じ世界に戻したりそこから何かを持って来るという事は出来ませんけど・・・」
「スミス達でも出来ないんだ」
「存在は証明できるのに世界のどこにも無いというのが創造主様達の世界ですから」
「分かった様な分からない様な・・・」
「我々にとっては始めて遭遇した未知が創造主様達の世界です」
「なるほど・・・それを解き明かすのには俺を調査するのが最適なのか」
「そういう事です」
「それなら武田も調査した方が良いんじゃないか?」
「既に調査は終わっています、その結果彼は約2年後以降なら強制的に消滅させても問題無い存在だと分かっています」
「ゲームキャラはゲーム時間以降は登場しなくていいって感じだな」
「その解釈で間違っていないです」
武田というゲーム舞台であるこの街では特別な存在だったけど、街から離れれば普通の人になってしまうのかな。
「それなら俺もそうなんじゃないのか?」
「あなた様では理解出来ない説明が必要なので出来ませんが違います」
「記憶を消去されて疑似的な記憶を入れられた事に関係している?」
「関係しています」
「もし俺に疑似的な記憶を戻さなかったら世界が消滅する危機だった?」
「その通りです」
あの時世界は消滅の危機だったのか・・・意外と脆いな世界って奴は。
「世界は脆くありませんよ、こことあなた様が今は特異な存在になってるだけです」
「俺は特異点になってしまったって感じみたいだけどな」
「同じ事です」
俺には同じ様だとは思わないけどスミス達的にはそうらしい。
「憑依体を俺に渡したら力が弱くなったりするんじゃないのか?」
「多少は弱くなりますけど、許容の範囲です」
「そうなんだ・・・じゃあ憑依体でお願いします」
「分かりました」
そいつの存在そのものを貰うって奴隷みたいで嫌だしな、希薄な憑依体を貰う程度なら存在そのものって訳では無いし構わないだろう。
『これからずっとお傍にいますのでよろしくお願いします』
「うぉっ!」
見えもしないし聞こえもしないけど脳内に語り掛けて来る事は出来るらしい。
「憑依体と私は繋がって居ますので、思うだけで私に伝わります」
「それなら憑依体を通して俺の記憶を見る事が出来るんじゃ無いか?」
「出来ますが遅くなってしまうので、あなた様が死ぬまでにすべてを見る事が出来ません」
「そうなんだ・・・」
「並列で行えば40年程で終わります」
「もしかして最後まで記憶を見せるのってすごい時間のかかる事だった?」
「ずっとあなた様を拘束できるのでしたら3年程度で出来ると思いますが、多分対価が私程度では支払えなくなります」
「抵抗しているものってそんなに力が強いものなんだ」
「えぇ・・・それを強制的に従わせる事も世界の消滅になると計算に出ています」
「マジか・・・」
「はい・・・」
俺の中にかなり厄介な存在がいる事は分かった。
さらに宇宙が10の113億乗の価値のあるスミスの一部である、10の80億乗の価値のある憑依体も俺に取り付いた。
何かわけの分からない存在になって来たな・・・。
『その通りです』
どうやらそれはスミスさんの憑依体のお墨付きらしい。
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