第30話 許可の取り方

 俺が許可を出せば良いらしいけれど、自身では見えも聞こえしない存在に許可を出させる事ってどうやるんだろう。


「許可するって、そう思えば良いのか?」

「分かりません」

「取り敢えずやってみるか・・・」


 許可するから記憶を見ていいと考えていたら、変化があったらしくスミスはじっと俺を見始めた。超美少女にじっと見られて恥ずかしさが先行して、胸の高鳴りを感じてしまう。


「有難うございます」

「終わった?」

「見れるという事はわかりました、けれど条件がありました、だから見るのは後日にお願いしようと思います」

「条件?」

「許可を取ったところまでは良かったのですが、対価の要求をされました」

「対価の要求・・・」

「それに時間をかけるとユイさんとオルカさんを待たせる事になりますから」

「そうだったな」

「本日はありがとうございました」

「あぁ」


 スミスは深々と丁寧なお辞儀をした。非常に丁寧な感謝の姿勢だが、外国人の姿をしているスミスのその姿勢は、とても違和感があると感じた。

 俺は気恥ずかしさを感じて振り向くとスミスをその場に置いて屋上をあとにした。少し駆け足気味になったのは、高鳴りを少しでも誤魔化すためだ。


「あれだけの容姿だし、吊り橋効果って奴にかかりそうだ」


 口に出してこの高鳴りは勘違いだと言い聞かせていくと、だんだん気持ちが収まっていくのを感じた。


「やっぱり勘違いだった」


 繰り返し口にする事でそれを胸にしみ込ませていった。吊り橋効果対策はやはり自己洗脳に限る。前世でもこうやって思わせぶりな態度で接して来る主婦パート店員からのハニトラを回避したっけ。人妻に手を出したって良い事無いのは分かるしな。


 スミスはゲームで描写されていた存在よりさらにぶっ飛んだ存在のようだし、深入りはしない方が良いだろう。

 でも何でスミスが異能バトルなんかしていたのか少し分かった気がする。スミスが登場する5作目は迷走作と言われるように、この世界ではイレギュラーだったのだと思う。実際に制作陣を一新し新時代の恋愛シミュレーションゲームを作ったと宣伝されていた。それに対し今までファンだった層の殆どはついていけず、ブランド詐欺だとメーカーの姿勢を批判をした。スミス達のような存在は、世界の創造主たちと違う存在で、世界を壊すものだと思ったのかもしれない。その次の作品が元の制作陣を再集結させ原点回帰と呼ばれる作品になったのは、もしかしたらスミスが世界の異物であった5作目のイレギュラーを排除した世界だったのかもしれない。

 その予測が正しかったのなら、6作目以降もやっとけば良かったと思った。エリアマネージャーになり忙しかった事と、ゲームをプレイするハードが変わってかなり高額だったため手を出さなかったのだが・・・。


「どこ行ってたの?」

「先に終わってたし教室にも居なかったから心配したよ」

「お手洗いに行ってたんだよ」

「あっ、そうなの?」

「何も無いならいいんだけどさ・・・」


 ユイはあっさりと信じたようだけど、オルカは何か不審に思っているらしい。言っても信じて貰えないだろうし言う訳にもいかないので誤魔化すけどな。


「今日はどこかに寄って行こうか」

「寄り道は校則違反だよ? ユイカさんに言っちゃうよ?」

「ユイってマジメっ!」

「お袋から帰りに何か食べて来なさいって2000円預かってるんだが、ユイは先に帰るのか・・・」

「あっ! 嘘ですっ! 寄りたいですっ」

「私も良いの?」

「2人で2000円分も食べれないよ、お袋もそう思って多めに渡して来たんだろうし」

「オルカちゃんも共犯だよ〜」

「お祖母ちゃんに電話だけさせて」

「はいよ」

「10円玉持ってる?」

「お父さんの会社のテレホンカードがあるよ」

「学校のじゃ使えないな・・・バス停横のボックスに行くか」


 学校にある公衆電話は古臭いピンクの奴なので硬貨しか使えない。バス停の横にあるボックスは比較的新しい緑の電話機なのでテレホンカードが使える。


「偽造テレカってあるらしいよね」

「駅前で怪しい外人が売ってたってさ」

「犯罪だから買っちゃだめだぞ?」

「10円でいいよぉ」

「私は遠征したときテレホンカード使わないと電話がすぐに切れちゃうよ」

「なるほどね・・・」


 俺は殆ど市外から電話する事無いけど、オルカは大会や合宿で全国どころか世界に飛んでるもんな。


「ポケベル欲しいなぁ」

「そんなに使うか?」

「番号でメッセージ伝えられるんだってさ」

「88951で「早く来い」なんだって」

「あぁ・・・そんなのあったな・・・」


 俺は前世の若者にポケベルが普及し始めた時の事を思い出していた。数年でメッセージが表示させられるようになり、さらに数年で携帯電話が普及し、1人1台電話を持つようになった。待ち合わせで相手と行き違いなんて事が発生しない社会になったのだ。

 俺は携帯どころかスマホを知っているので、ポケベル程度じゃと思ってしまうのだ。

 けれどこの時代を生きる2人にはポケベル程度の通信手段でも画期的に見えるのだろう。


「お兄ちゃん、ユイカさんにお願いしない?」

「俺は余り必要だと思わないな」

「遠くに行ってるオルカちゃんにメッセージ送れるよ?」

「もうちょっと機能が欲しいなぁ」

「機能?」

「メッセージが表示できるとかさ」

「そんなの無理だよ〜」


 きっとすぐにそういったのが出るようになる。けれどその頃には手の届く値段で携帯電話の普及が始まる。


 ファーストフードに行ってハンバーガーセットを注文する。1人390円で消費税も無い。3人分でも1000円少々だ。オルカの家で駄菓子と飲み物を3人分買ってもお釣りが出る。

 そういえば前世って消費税導入による消費の冷え込みしたというニュースのあとから景気も冷え込んでバブル崩壊していったよな。あれっていつから始まったんだっけ?俺が大学生だったのは95年からだし、その頃には景気悪化が見え始めていたから90年代始めあたりだっけ?


 家に帰ったあと公園でいつものように交代で1on1をして、オルカの家でお菓子と飲み物を買って話し込んだ。


「ジェーンさんって綺麗だったなぁ」

「スラッとしていて日本人じゃああは絶対にならないって綺麗さだよね」

「背の高さなら2人とも勝ってるだろ」

「胸の大きさがねぇ・・・」

「身長で勝ってても手足の長さは負けてそう」

「さすがにそれは・・・」


 確かにスカートの腰の位置が高かったな。ユイよりは低かったけどオルカより高かったかもしれない。これは頷くと2人の機嫌を損ないそうなので聞き流す事にした。男は女の集団には勝てない事は前世のスーパー店員時代に嫌って程経験したからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る