第29話 世界五分前仮説
「それで俺の記憶があるのか聞いたのは何でだ?」
「貴方の記憶から私に出会った記憶を一度消しました」
「今残っているが?」
「あなたの記憶を読んだ結果、記憶を可能な限り毀損してはいけないと分かり、消えた記憶を補修しました」
「補修?」
「消した部分は戻せなかったので、私が持つ情報からあなたの記録を再現し、それを貴方の記憶として埋め込みました」
「埋め込んだ?」
「記憶の欠落が自覚出来ないのなら成功しています」
なんか俺があの時気絶している間に頭を色々弄られていたようだ。
「それで良いのか・・・」
「ただの電気信号ですから」
「それってすごいな、俺の頭に六法全書の内容全て焼き付けてくれないか?」
「ご希望ならしますが」
「冗談だ、忘れてくれ」
「わかりました」
出来るのかよ、すげぇな。
「それで何で俺の記憶を棄損してはいけないんだ?」
「それはあなた様が我々、いや、この世界すべてを含めても創造主様達に最も近い存在であるからです」
「創造主様達?」
「はい」
何かえらくすごい壮大な存在だと思われているな。
「あなたは世界五分前仮説というものの概要を知っていますよね?」
「難しい哲学の思考実験だとは知っている」
世界が5分前に今の形のままそっくりとそのままの形で創造されたと仮定しても、それを否定する証明は出来ないっていう哲学の思考実験だったっけ?
「我々は世界が五分前に出来たのでは無い事を証明しました」
「哲学の思考実験を宇宙人の科学で勝利させたのか・・・」
どうやったらそんな事が出来るんだよ。
「我々は世界がどれほど前に作られたのか計算した結果、いつどこから作られはじめたのかを導き出しました」
「へぇ・・・果てしなく遠い場所で遠い昔だったんだろうな」
「この世界でいえば、作られたのは今我々が立っている場所、この星の概念では16年42日前16時間22分14秒前に作られたという事がわかって居ます」
「どっちも俺が想像したより随分近いな」
俺がこの世界に転生した20日から30日の間ぐらいに出来たのか・・・、この世界がゲームを元にした世界だといのと何か関係あるのか?
「武田カイトがこの世界で自我の持った瞬間にこの世界はこの形で作られました」
なるほど、武田がゲームスタートを押した瞬間に世界が始まったって感じなのかな?
「創造者は武田カイトって事か・・・」
「いえ違います、作ったのはこのゲームの創造主様達です」
なるほど、武田はあくまでゲームプレイヤーであってゲームクリエイターではないもんな。
「俺の記憶を見たって事はそれを理解したって事か」
「はい」
この世界がゲームが作られた瞬間にそうあれと作られたとすれば、確かにゲームの制作者達が世界の創造主だな。
「俺と武田は同じ知識を持っているんだし、俺が最も近しいというのは違うんじゃないのか?」
「いえ、武田カイトの記憶はあなた様と出会う前の最も重要な調査対象でした。なので現在は全ての記憶を確認済です。 彼はこのゲームが生み出された時には誕生していないため、得られる情報は多くありあせんでした」
「あぁ、奴の前世はこのゲームの発売日以降に産まれてたんだな」
「はい」
「あなた様は創造主様24名と同じ時代を生きており、創造主様が世界を創造された時の最も近い記憶を持っています」
「なるほど・・・」
「創造主様達の記憶が拡散せずに残っている世界の記憶というのは我々にとってとても重要です」
雑誌に掲載された写真付きの開発秘話の対談記事とか、声優の生ライブとか見た記憶とかそういうのが残ってたのかな?
「この世界には俺と武田以外に転生者はいないのか?」
「自我を持ったときに、別の生を生きてた記憶を所持しているという存在であれば、世界にはそれなりのいます。 けれど創造主様達の世界の記憶を持つのはあなた様と武田カイトだけです」
「世界の中って、全ての人間の記憶を見たのか?」
「全宇宙の意志ある存在の記憶を、並行世界を含めて全部見ております」
スケールがいちいちでけえな。
「並行世界ってあるのか」
「はい、その並行世界が一点しか無い場所と時間が、世界が創造された場所と時間を表します」
「その1点から全てが分岐したって解釈で良いのか?」
「その理解でいいと思います」
違うけどそれ以上の説明は無駄だからしないって感じか。
「それだけじゃなさそうだな」
「全てを理解するには、この銀河で18.2個分の質量のあなた様の脳が必要です」
銀河単位の質量ってまたスケールでか過ぎるだろ。
「そんな容量がある計算機が世界にはあるって事か?」
「いえ、例えば私はこの宇宙4個ほどの容量がある計算能力があります」
「そりゃデカそうだ」
銀河じゃなく宇宙かよ・・・というか宇宙の質量に果てってあったんだな。
「計算の効率を上げるため、体積で言うならこの星の科学者観測したニュートリノと名付けられた素粒子より小さいです」
「そんなデカそうなものを、そんなに小さく仕舞えるわけか・・・」
「我々はそういう事が出来る存在です」
それって創造神じゃん。
「あんた達って、俺よりよっぽど創造主様達って奴に近くないか?」
「創造主様を真似てゲームを作ってみましたが世界は誕生しませんでした」
「元々はゲームディスクに入るぐらいの容量しかないゲームの筈なのにな」
「約3.4GBだと分かっています」
「出来ないんだ」
「先程の最大の計算機で2進数全バターンのデータを作ってみましたが、新たな世界は生まれませんでした」
「取り敢えず総当たりしたって事ね」
「はい」
猿に無限回数タイプライター打たせたら、いつかはシェイクスピアを書きあげるって理論を実際にやってみたって感じだな。
ただのデータでは世界は作れない。 でもこの世界を作ったのは3.4GBのデータ容量のゲームを作った24人か。
「ゲームのエンディングのテロップには会社名も流れていたし、そこの社員やCDをプレスして梱包して運んで並べて売った人全て含めたらもっと人数いそうだけど、24名に言及してるのは何か理由はあるのか?」
「あなた様の記憶にある、あなた様と出会った事のある人の記憶を読みました。 その結果創造主様は24人だったと判明しました」
「俺の記憶の中にある人の記憶を読む?」
「我々はそれが出来る存在です」
もう何でもありだな。
「それであんたは俺にそれを伝えてどうするんだ?」
「あなた様の記憶をもっと見せて欲しいんです」
「もう見たんじゃ無いのか?」
「あなたの記憶にある拡散していない記憶の全てと、あなたと出会った人の記憶、さらにその人にあった人の記憶、そのさらにその人にあった人の記憶、とさかのぼらさせて我々に提供して欲しいんです」
「それって無限に遡れるのか?」
「理論上は可能ですけど、遡るたびに薄くなるので、我々でも限界はあります」
「あんたらが出来ないなら、世界で誰もそれ以上は出来ないって事か?」
「現状はそうです」
「現状?」
「時間は経過と共に様々な次元を乱れさせるので、我々でも完全に予測しきれません、出来るようになる可能性は残されます」
100億年先で0.1%も誤差が出るんですって感じに完璧じゃないと好まないタイプかな?
「記憶なら俺に許可を取らなくても勝手に覗いたら良いんじゃないのか?」
「いえ、あなた様の許可が無いとできないようです」
「そんなに力を持った存在なのに?」
「あなた様と出会う前にあなた様の記憶を読めないようにしていた存在がいます、あなた様の記憶を操作してしまったためか、許可がないとそれを調べる事すら出来なくなっています・・・」
なんだその存在は・・・前世の記憶を持って産まれた事と関係してるのか?
「俺の許可があれば良いのか?」
「はい、覗こうとすると、抵抗しているものが、あなたの許可を求めてくださいと伝えてくるんです」
「抵抗しているもの?」
「私はあなた様に記憶と共に何かを植え付けてしまったかもしれません」
「それってあんた達が出てくるゲームで、主人公があなた達と遭遇した時に目覚めたって描写がある、異能が効かなくなる異能の事かな?」
「かもしれません。 でもあなた様の記憶が読めなくなっていますので、我々はそれを確認出来ず分かりません」
そりゃデータでしか無いゲームキャラに、記憶なんてある訳ないよなぁ。
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