第28話 俺の背後に立つな!

 7組には綾瀬以外のゲームでのヒロインは居なかった。綾瀬は文系っぽいと思っていたので理系の教室に居るのは意外だった。

 2年になった事で社会科の授業が日本史、世界史、地理の3科目から1科目の選択。理科の授業が化学と生物か、物理と地学の選択になった事で移動教室が増えた。前世で受けた高校と同じ形態だけど、ゲームではただ理系の学習か、文系の学習を選択するだけだったのでリアルに合っているという事みたいだ。

 俺は前世では文系で、社会の授業が2科目、理科の授業が1科目の選択式で、日本史と世界史と物理を選択していた。今世では地理と物理と地学を選択させて貰った。何故なら俺の生きていた時代での一番の日本の変換点ともいえるあの3月11日の出来事をなんとか出来ないかと思っているからだ。

 この世界でもあれが起きるのか分からないし、それをどうにか出来る立場に居れるかは分からない。けれどそれに近い知識を持っていなければ、それをどうにか出来る選択肢すら与えられない。

 幸い権田の親分が政府に投げかけて津波による原発の電源喪失問題を投げかけてくれた。あの時非常電源さえあれば原発は廃炉にはならず、大量の汚染土と汚染水と汚染区域の発生も無く、大勢の避難民に悩まされる事も起きずに済んだと聞いた事がある。


「綾瀬は文系だと思ってたよ、日本初の女性総理大臣目指す為に法律勉強してそうだなって」

「へぇ・・・」

「あれ? 俺何か不味い事言った?」

「いいえ、そこまで大それたことは考えて無かったけど、法律や外交の方に進みたいとは思って居たわ」

「それなら何で理系に来たの」

「医者になりたいと思ったのよ」

「医者?」

「えぇ・・・」


 なるほど、文系の法律家や外交官なら理系の最高峰が医者か・・・、それも綾瀬らしい選択と言えるのかな。


「何か失礼な事を考えてそうね」

「難易度の高いの学問を目指す所が綾瀬らしいなって思っただけだよ」

「難易度で決めているのでは無いのだけれど?」

「事情があるって事か?」

「まぁ個人的なものだけどね・・・」

「誰か知り合いが難病にでもなったのか?」

「・・・」


 どうやら図星らしい。


「カッコいいな」

「カッコいい?」

「自分以外の誰かの為にって選択が出来る所がさ」

「ありがとう」

「俺は安定を求めて将来は公務員を目指そうと思っていたからな」

「公務員を目指すなら文系が良いのではなくて?」

「あぁ・・・日本に起きる地震と津波の被害を減らせないかと思ってな」

「あら・・・随分具体的な目標があるのね」

「関西の地震みたいな事はいつかは起きるからな」

「それもそうね・・・」


 俺達が高校に入る直前に関西で大きな地震がありそれなりの被害が出た。これは俺の記憶にある大震災と同じものだと思う。しかし報道を見た限り俺の記憶より被害規模は小さかったと思う。だから報道はすぐに縮小し別の話題によって薄れてしまった。

 何故被害が記憶より小さいかは分からない。軍隊のある日本なので情報統制がされているとか、災害救助がたまたまうまくいっただけとか、色々考えたけれど分からなかった。

 それでも同じ時期に同じような地震が起きた事実は俺の気持ちを少し変化させていた。だから親分と地震について話題になった時に、地震津波による原発の電源喪失による大被害の可能性について見解を述べてみた。

 親分はすぐに部下を呼びメモを取らせ何処かに連絡するように言っていた。もしこれであの災害の規模を小さく出来たのなら俺の持っている記憶に大きな価値が出て来る事になる。

 パラレルワールドだから俺が歩んだ日本と違う日本が続くという認識に、そうでは無い部分があるのだと思い至り、俺の進路をそれに充てようと思ったのだ。それに国立地震研究所の職員なら公務員だしな。


 あの時こうしておけばと思う事を先行してする事はいくつかは俺でも出来ると思う。例えば仮想通貨のマイニングとか最初は評価されなかった発明品などへの投資とか、先行者が得をした事例はこの世界でも同じ経緯を辿る可能性が高い。動画配信サイトやネット通販サイトや評価サイトなどは、最初は小さい所から始まったけれど、先行者が莫大な利益をあげていき巨大なマーケットになったジャンルだと、前世で小市民だった俺でも知っている。

 俺が莫大な利益を上げて、その儲けを将来起こる事件を未然に防ぐ事に使う。そういった方法の活用方法だってあるのだと思うようになったりしたのだ。


「真田も文系だと思ったけど理系に来たんだな」

「僕は将来は映像関係の仕事に就きたいからね」

「映像関係?」

「姉貴はアナウンサーになるのが夢だからね、僕はそれを映像部門でサポートしたいんだ、そういうエンジニアになるためには理系が良いかなって思ったんだよ」

「確かに声も顔も良いし人気アナになりそうだな」

「でしょ?」

「真田もアナウンサーになれるんじゃないのか?」

「スカートとか履かされそうだし遠慮しとくよ」

「自分でもそう思ってるんだな」

「まぁね・・・」


 真田は男らしくありたいとプロテイン入りの牛乳を飲み筋トレしているそうだが、背は伸びず筋肉が付かないそうだ。前世では10年後ぐらいに動画配信サイトが作られて、世間では映像編集が出来て声が良い人が大いに活躍する事になる。真田は姉と一緒にそういったサイトへの投稿者になったら大成しそうだなと思った。


---


 始業式が終わり教科書の配布があったあとクラス委員決めがあって帰宅時間となった。俺は何故か早瀬と共に学級委員に推薦されてしまった。多数決の結果は次点で、早瀬が委員長で、俺が副委員長という事に決まった。修学旅行の実行委委員に希望を出したかったんだが、それは希望者多数で、クジの結果女子2人がそれについた。真田は放送部だからと放送委員についていた。


「チョットイイデスカ」

「うぉっ!」


 教室を出てオルカの組を見たらまだ委員決めに時間がかかっているようで終わって居なかった。ユイも待って居そうだし先に玄関に行っておくかと思っていた所で背後からスミスに声をかけられて驚いてしまった。俺が生粋のスナイパーだったら「俺の背後に立つな!」と言ってスミスに裏拳をしても許されただろう。


「後ろから急に声をかけないでくれ」

「ワカリマシタ」


 けれど俺は一般の男子高校だし、相手は世間的には超美形の女子留学生なので、そんな事をしたら10対0で陪審員にギルティ判決されて生徒指導室送りにされるし、最悪退学処分になるだろう。


「それで何か用か?」

「スコシハナシヲシタイノデスガ」

「ついてこいって事か?」

「ハイ」

「わかった」


 スミスとは話をしておかないといけないと思っていたので、そのままついていく事にした。


「ユイやオルカを待たせたくないから手短にな」

「ワカリマシタ」


 スミスが誘導した先は屋上だった。施錠されて居なかったのか簡単に侵入してしまった。


「それで話って何だ?」

「イゼンワタシニアッタトキノキオクガアリマスカ」

「流星群の日の事か?」

「ある様で安心しました」

「普通の口調で喋れるのか・・・」

「はい、私は貴方が知っている存在ですから」

「なる程な」


 どうやらスミスは、俺がスミスが宇宙人だと知っているという事を知っているらしい。

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