第13話 俺は被害者だ!(武田視点)
中間試験で酷い点を取ってしまい補講を受ける事になった。RTA的にもこの時期から理系か文系の勉強を集中的にするというターンなので致命的では無いと思い直す事にした。サッカー部も退部ではなく活動停止でおさまっているし、期末で挽回すれば復帰も許すと顧問に言われたので修正可能な範囲だと考えた。
さすが俺は主人公なだけあって、すぐに補講の内容が頭に入り授業についていけるようになった。結果として期末では1課目だけ赤点という状態まで学力を上げる事ができ部にも復帰する事が許された。これで合宿の覗き失敗バグを起こすことが出来るぞと楽しみになった。
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サッカー部の合宿は水泳部と一緒らしい。けれどあの脳筋女の水辺は俺と目があっても興味が無いように目線を外してきた、あの脳筋女と通学中にぶつかるという出会いイベントが発生した時は焦ったけれど、電話で嫌われたおかげで俺に近づく事が無いように調整出来たようだ。
そういえばタカシの奴も水泳部らしい。ゲームでは新聞部だった筈だが、俺がタカシを不要な状態なのでズレているようだ。朝の集会で大会で優秀な成績を出した選手を表彰するという場で壇上に上がり、クラスでも称賛を受けていてムカついた。けれどチビメガネに聞いたらタカシは中学校3年でも県大会出場ギリギリな程度の選手で、全国大会には進む実力は無かったと聞いた。案の定終業式に行われた全国大会出場の壮行会には奴は登壇していなかった。
頑張って居るようだが、プロサッカー選手確定の俺とは格が違うんだよ格が!
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夏休みは能力調整が大事な期間だ。なにせ能力値を上げる行動をしても、その上がった能力値に対応したヒロインと出会うイベントが発生しない。理系をあげてもマッドな科学部員は出てこないし、文系をあげてもムッツリ眼鏡な文芸部員は出てこないし、芸術をあげても前衛過ぎる絵画や彫刻に周囲が理解しない事に苛立つ美術部員は出てこない。
1年目の夏休みは容姿が下がり、ストレスが一番稼げる理系を中心に勉強をする必要がある。
容姿が最低値でストレスがカンストした状態で合宿に参加し、覗き失敗でさらにストレスを上げると、ストレス値がオーバーフローして主人公はストレスが上がってもノイローゼにならないというバグ状態になるさらに容姿の値は表面上ゼロだけど、内部的にはカンスト状態になって、ドレスコードがあるイベントを全てパス出来るし、デートに誘った相手が現れないといった事も発生しなくなる。
あとは出会いイベントの発生する平日は部活に注力して運動をカンストさせ、休日を勉強や芸術にあてて出会いイベントを発生させず能力値だけ上げるというのを3年2学期まで行い。あとはそこから綾瀬とデート回数12回以上というフラグをクリアすれば卒業式の日に告白されてゴールインになるのが最高効率だ。
卒業後は俺好みにした綾瀬と付き合いながらプロサッカーチームに所属し高額年俸でウハウハという人生勝ち組人生が出来る。倍速機能でさっさと終わらせたい気分だが、メニュー画面自体が無いので調整出来ない。
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合宿初日の夜。案の定寝苦しさを感じ覗きイベントのタイミングだと察した。案の定夕方に入った風呂場に行くと誰かが居る気配がした。ドアに隙間があってイベントのシチュエーションと全く同じだ。
俺は足音を忍ばせてその隙間が見える位置に近づいていった。聞き耳を立てたけどノシノシと体格の良さそうな音がする。薄っすらと感じる気配も体重の軽そうな綾瀬である感じはしない。
どうやら失敗イベントを引き当てた手応えを感じて歓喜した。マッチョな男を覗くという悪夢を我慢すれば、俺は名実共にこの世界の主人公に躍り出るだろう。
「だっ! 誰っ!?」
「ウギャー!!」
マッチョな男を見ることを覚悟して覗き込んだら、そこにいたのはトドの様な体型のババアだった、水泳部のマダムっぽい顧問なのだろう。けれど風呂上がりのスッピンだからなのか顔は眉毛が無くて般若の面みたいだし、体は重力に負けて色んなものが垂れ下がっていた。
気がついた時には俺は悲鳴をあげて逃げていた。後ろから走って追いかける音が聞こえて来て襲いかかられる恐怖を感じたのだ。
「助けて!! 殺される!!」
おれは後ろからタックルを受けて押し倒された。
「ギャー! 殺さないでー!!」
しかし俺を押し倒したのはサッカー部顧問の青ジャージ野郎だった。
「落ち着け! 何があった!?」
「風呂場に化け物がっ!」
「化け物?」
俺は青ジャージ野郎に風呂場に連れていかれた。そこには化粧をばっちりして俺が見たときより体型が幾分スッキリとした水泳部顧問がいた。前世で聞いた事がある補正下着の効果と女は化けるという言葉が頭を過ったが、さっきの般若トドを思い出して怒りが湧いた。
「ヨシオ! 覗きがいたのよ!」
「覗き? まさかコイツか!?」
「違う!」
「覗きが私と目が合ったあと、悲鳴をあげて逃げていったのよ!」
「やっぱお前じゃないか!」
「俺は被害者だ!」
「ヨシオ、この子が犯人なの?」
「母さん! 生徒の前では相澤先生と呼んでくれよ!」
「母さん!?」
水泳部の顧問の姓は吉岡だった筈だ。
「姓が違うだろうが!」
「母さんは学校では旧姓を名乗ってるんだ!」
「巫山戯るな! 俺は被害者だ!」
「女性の風呂場を覗いておいて何が被害者だ!」
「あんな般若トドを見させられた俺の方が酷い目に遭っているだろう!」
「おまっ! お前こそ巫山戯るな! 退部だ退部! 夏休みも練習に来ないのに合宿だけは来やがって! お前のような奴は部には邪魔だっ! 今すぐ荷物をまとめて帰れ!」
「はっ! こっちから辞めてやるよ!」
「お前の行動は全て職員会議で話題にさせてもらう! 覚悟しておけ!」
「へっ! 上等だぜ!」
俺はマズい事になったと思ったが、売り言葉に買い言葉で啖呵を切ってしまい、荷物をまとめて帰った。
家に帰り不貞腐れて過ごしていた。2学期が始まる前日に担任から親に電話があり学校に向かっていった。学校から帰ってきた親から言われたのが2週間の停学が決まったという事だった。受け入れない場合は警察に通報して事件化すると言われたらしい。生徒を守らなきゃならない立場の学校が生徒を警察に売るって人権侵害だろうが!
俺は親父から殴られ、お袋に泣かれた。様子を見に来た妹が俺を蔑んだ目で見ていやがる。
「巫山戯るな! 俺は被害者だろう!」
「お前は反省すら出来ないんだなっ!」
「どうしてこんな子になっちゃったの・・・」
「親なら子の言うことを信じて庇えよ!」
「お前のどこに庇えるところがある!」
「自信に溢れたいい子だと思ってたのに・・・」
世界の主人公様を理解しないコイツラにイライラして来る! 一応親だから俺が偉くなったら甘い汁吸わせてやろうと思ってのにもう限界だ!
「俺は悪くない! 俺はこの世界の主人公様だぞ!」
「世界の主人公とやらは犯罪をする奴の事を言うのかっ!」
「犯罪じゃねー! 俺が成長するために必要な行為なんだよ!」
「俺にはお前の言いたいことがさっぱりわからん・・・」
やっぱりこいつらは理解出来ねぇ、説明したって無駄なんだ。
「俺と母さんが庇ったから退学ではなく停学で済んだんだぞ?」
「甘やかし過ぎたたのがいけなかったの・・・」
「それなら退学にしてくれた方が清々したよっ!」
「お前っ!」
また親父に殴られた。母さんを庇うように慰めている妹が俺を睨んでいる。
「最っ低っ!」
妹からも強い罵倒を受け俺はカッとなった。妹を殴りつけようとした所で親父に押し倒されて何発も殴られた。
「痛ぇな親父!」
「母さん! シオリ! 部屋から出ていきなさい」
母さんが妹に庇われるようにして部屋を出ていった。
「お前は勘当だっ! 家から出ていけっ!」
「上等だよ! 出て行ってやらぁ!」
俺は親父によって廊下を引き摺りられ、そのまま玄関から外に放り出された。
靴と親父が普段使っている札入れを叩きつけられ扉がバタンと締められた。扉がガチャンと音がして施錠され拒絶された事が分った。家の中から母さんと思われる大きな泣き声が聞こえて来たけど泣きたいのはこっちの方だっつうの。
ここまで育ってるんだ、バイトでも何でもして生きてやるよ、俺はスペックの高い男だしなっ! 成功した時縋って来ても追い返してザマァしてやるよっ!
俺は眼の前に転がってる放り出された靴を履き札入れを拾って、漫画喫茶のある駅前の方に向かった。取り敢えずねぐらは必要だからな。
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