第8話 秀才ですから

 中間テストはまずまずの成績を取る事が出来た。この学校はテストの順番を校内に張り出す仕組みになっているので、誰がどれぐらいの成績か一目瞭然にされてしまう。

 さすが進学校というだけあって、中学校の様に上位1桁とはいかなかったけれど、それでも総合で学年20位以内という好位置を維持できた。

 最難関ヒロインである綾瀬は全教科満点の1位、文芸部のヒロインは国語で満点、科学部のヒロインは理科で満点で総合でも20位以内というゲーム設定通りの点数を取っていた。

 水辺の成績は全教科赤点の少し上という逆に取るのが難しそうな点数を取っていた。学年248人中182位という成績ながら全教科の補習を回避しているのがすごいところだ。


 武田は赤点ばかりだった。 数学と国語と英語が若干取れてるだけで、その他の科目は1桁点、248人中248位のぶっちぎりのビリ。この高校にどうやって入学したのか疑わしくなるような成績だった。綾瀬がマネージャーをしているサッカー部に所属しているらしいけれど、この成績だと辞めさせられてしまうだろう。


 教室に行くと武田は俺の後ろの席に座り真っ青な顔をしていた。ヤバい事は分かるのだろう。席に座ると武田が後ろの席で何やら「おかしい」と呟いていたけれど幻聴だろう。

 サッカー部には毎日通っていたみたいだけど、授業は居眠りばかりで先生に怒られ、休み時間は便所の鏡の前でニヤニヤしていて、週末は女生徒をデートに誘う電話をかけまくり、テスト前に図書館に行くだけで良い成績が取れると本気で思っているならただの阿保だとしか思えない。


「立花君って結構頭いいんだね」

「そういう坂城も悪くは無かったじゃないか」

「一応この学校にテストで入ったんだからね、でもこの高校はレベルが高いよね」


 放課後の部活の為にプール下にある部室に行くと、坂城が近づいて来て俺のテスト結果について聞いて来た。水辺と違い俺も坂城も県大会出場程度の成績では内申点に殆ど加算されない。きっちりとテストで勝ち抜いて入学しているのだ。


「それにしても、立花君のクラスの武田君はひどいね、長期病欠とかしてたの?」

「いや毎日来てたぞ」

「この学校に来る実力あって毎日学校にも来ていてあの成績取れるのはある意味すごい才能だね」

「0点なら名前を書かずに提出したとかありそうなんだけどな」

「回答欄が1づつズレただけかもしれないよ?」

「マーク式でもないのにそれが出来たら器用過ぎるだろ」

「それもそうか・・・」


 武田の点数がおかしい事は他のクラスである坂城ですら疑問に思うらしい。成績が悪いと女の子からの好感度が急激に下がるのは、こういった噂が飛んだ結果なんだろうな。


「そういえば体育祭は何の種目出るの?」

「俺は100m走とリレーのアンカーになったよ」

「立花君って足も速かったの?」

「50m走のタイムではクラスの男子では2番だったよ」

「1番じゃないのにアンカー?」

「1番は色別リレー代表になったからね」

「なるほど」

「坂城は何に出るんだ?」

「障害物競走とムカデ競争だね」

「無難だな」

「だね」


 坂城は足も持久力タイプらしく短距離走は早く無いらしい。スポーツテストの1500m走ではクラス2位だったという彼も、種目がどんどん入れ替わる運動会ではスタミナを生かす競技が無くて活躍できないのだろう。


 プールサイドでストレッチしていると、水辺がやってきて坂城と同じ話をし始めた。武田はとりあえず女子たちの間でも評判を落とし、ある意味有名にはなったみたいだ。


「全教科赤点ギリギリ回避って狙ってるのか?」

「全力でテスト受けてあの結果だよ!」

「多分学年1位取るより難易度高いよね?」

「才能だな」

「こんな才能要らないよ!」

「期末もこうなら夏合宿では勉強会だね」

「オリンピックのインタビューで馬鹿を晒す前に何とかしないとな」

「えっ! 花火とか肝試しとかしないの!?」

「期末ガンバ!」


 あと水辺は100m走と色別リレーの代表になっているらしい。坂城以上の持久力お化けのくせに瞬発力もあるという、万能タイプな体をしているようだ。実際に部内の記録会で100m自由形はなんとか俺の方が早かったけど、2位だった坂城より早かった。


「体育祭の前に地区ブロック大会があるでしょ!?」

「俺はスタートで失敗しなければ県大会まで行けそうだ」

「僕はまだ県大会ですら厳しいよ、受験で鈍ったのを取り戻さないとね」

「坂城君はあと一歩だし頑張ろうよ!」

「400ならいい線いってるんだろ?」

「本番にペースメーカーが欲しいねぇ」

「何?何?ペースメーカーって何?」

「中3のブロック大会で、200mフリーで俺が坂城の隣のコースで泳いでペースメーカーみたいな感じになってたらしいんだよ」

「おかげで最後に追い抜いてタッチの差で県大会行けたんだよ」

「へぇ~いいなぁ」


 マラソン大会で一緒に走って一緒にゴールしようと言ってた奴が、ラストスパートして先にゴールする・・・みたいな友情にヒビが入るような話だけどな。


「水辺は県大会クラスでも独走状態で周回抜きだもんなぁ」

「周回遅れにされると辛いんだよねぇ、短水路だと400mでも結構周回遅れにされるからさ、一人だけ早い選手がいるとペース乱されて大変なんだよ」

「私が悪いっていうの!?」

「水辺は日本をしょって立つ存在だし悪く無いぞ」

「遅い僕達が悪いんだよ」

「なんか心の距離を感じるんだけど?」

「水辺は俺達から距離が開いても自分のペースで泳ぐ、それが日本のため、オケー?」

「だね、僕はテレビで水辺さんを応援するよ、「日本頑張れ!」って」

「わたし日本違う!」

「お前は日本だっ!」

「日の丸と君が代を僕達に見せてよ」

「うわーん!」


 ストレッチで体が温まり終わったからか、水辺はプールにザバンと飛び込んだ。

 水泳部は心臓からチャプチャプと水かけてなんてやらない、水に入ったら心臓がビックリするような心ではもう無くなっているからだ。

 市民プールとかの監視員に「飛び込まないで下さい!」と注意される方が心臓に悪いぐらいだ。


「じゃあアップから始めようぜ」

「そうだね」


 地区ブロックの大会が近いので練習は追い込みではなく負荷を落とし気味の練習をしている。体をゆっくりと動かしながら型を最適化して、水を綺麗にキャッチする練習を繰り返している。本番になるとどうしてもその型が崩れてしまうけれど、それをなるべく少なくなるよう繰り返して練習していく。

 それと俺は心肺機能が鈍ったりしないように息継ぎの回数を減らして心臓に負荷をかけるようにしている。俺は水辺や坂城の様なスポーツマン的な心臓をしていない。 指先に血が通わなくなって水の抵抗に指先が負けて水のキャッチが弱くなればひとかきで得られる力が落ちる。そういう事が無いよう心肺機能を高めておくことが俺にとっては重要だった。


 実は水辺の誕生日は今日だ。ゲームだと主人公である武田がお助けキャラである俺に女の子の情報を聞いていると、「プレゼントをしますか?」という質問が出て来る。

 「はい」を選択すると3択のプレゼントを1個選んで渡す事が出来るようになる。

 1年目はペンギンのバッジ、2年目はアザラシのマグカップ、3年目はイルカのガラス細工が好感度が最も上がった選択だった筈だ。

 俺は水辺と付き合っている訳では無いし、誕生日を教えられてもいないのでスルーしていた。

 ユイは水辺に誕生日プレゼントをする気らしく、プリンを10パック買っていた。綺麗な箱が無いかお袋に聞いていて、それを入れて包装紙で飾って渡すつもりらしい。


 ユイはあのプリンの布教に余念がない。遠くのスーパーにしか売っていない事が不満なのだろう。製造元の親会社が関西らしいので、生ものでもあるし流通しにくいんだと思うけどね。

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