ep:3-4

 ユーリはさっそく城に住むことになった。レックスの計らいで小さなキッチンと風呂付きの部屋をあてがわれる。

 これならば、わざわざ人の多い城の食堂や浴場に行かなくていいし、女とバレることもない。


 今日は特に用事はないのでゆっくりしろとレックスに言われたのでさっそく、風呂に入ろうとした。


 しかし、風呂場が見つからない。部屋の壁のドアを開けたら風呂場に繋がるのか?と思い、開けてみるとそこにはまた部屋がある。ユーリが怪訝そうに顔を顰めると、背後からギルの声が聞こえてきた。


「風呂場はこっち」


 ユーリはギルの後ろをついて行く。やっぱり女扱いかと苛立ちつつも、案内された部屋のドアを開けるとそこは紛れもなく風呂があった。


「さっさと入っちゃえば?脱がないと濡れるよ」


「いやいやいや!なんで?おまえの部屋に風呂がついてんだよ」


「あんたの部屋にはキッチン。俺の部屋には風呂。ここ続き部屋だから出入りはお互い自由にできるし、殿下は嘘はついてないよね」


 ギルの言葉にユーリはぐうの音もでない。おかしいと思った。たかが臣下にキッチンと風呂付きの部屋なんてと。


「入らないの?」


「入る。覗くなよ」


「それは覗けってこと?」


 ギルにユーリが舌打ちをする。するとギルは冷たい声で淡々と喋り出した。


「殿下が認めてるから文句はないけど、あんたと仲良くする気は俺にはないから、安心してよ」


 その言葉はユーリの心を抉る。明確にトワの護衛を任されてないとはいえ、トワを恩人に思い、尚且つレックスの指示でよくそばにいるギル。

 一番心を通わせて、トワを共に守らなければならない相手に対してこの返し。信頼なんて微塵もないんだろうなと、少し悲しい気持ちになる。



 ユーリは何も言い返さず風呂場に逃げるように入った。お湯はすでに溜めてある。ギルの気遣いなのか、嫌いなくせに変な奴だなと思いながらゆっくりと浸かる。


 胸の傷は治ってきたから痛みはないが、傷跡は目立った。それを見てふっと笑みをこぼす。まさかこんなことになるなんてな……と。そのまま深く考えるのはやめてお湯に身を任せる。


 あー、溶けそう。気持ちいいと思い、連日の緊張と疲れから少しウトウトしてしまった。……少し長く浸かりすぎていたようで、頭がぼーっとする。


 ユーリが風呂から上がるとギルが部屋にいた。てっきりまだ警戒してどこか別の部屋に行ったのかと思っていたが、そんな素振りはなかったようだ。


 ユーリは体はタオルで拭いて巻いたまま、髪からは水を滴らせながら部屋に入ってきたので、ギルは慌ててタオルを取りに行く。

 その後ろ姿を見ながら、ギルがタオルをとってこようとしているとは知らないユーリは、慌てっぷりにそれほどまでに自分は嫌われているのだろうかと疑問に思った。


 ギルは戻ってくるなりユーリの髪をガシガシ拭き始めユーリが「やめろ」と言っても聞く耳持たず、そのまま拭き続ける。もうどうでもいいかと諦めてされるがままになると、不意に目があった。


「あんた、逆上のぼせるほど入るか?普通」


 その顔はいつものように冷めた目ではなく、呆れながらも優しさがあった。ユーリは居心地の悪さからふいっと顔をそらす。


「気持ち良かったんだよ」


「あっそ、変態」


「うるせーな!」


 ユーリがギルの手からタオルを奪い取ると、ギルはユーリの濡れた髪を見て、ため息を吐いた。そしてまた別の柔らかなタオルを持って戻ってくるとソファーに座らされ、タオルで包んで髪を乾かし始めた。

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