ep:3-3

 ガーランドに着くともう夕暮れだった。馬を返してユーリはレックス達にさっさと別れを告げると背中を向けて歩き出す。


 しかし、レックスの声によって止められた。


「ユーリ。今回の礼がしたい。明日また宮殿に来い」


 レックスがそう言うとユーリは振り返ることなく足を止める。そして立ち止まりながら「殿下がそう仰るなら」と答えると、そのまま街へと消えていったのだった。


 翌日、ユーリは言われた通りまた宮殿に来た。レックスの執務室へ通され、周りにはダイル、クリス、ギルがいる。


 なんだこのメンツと思いつつも、礼である報酬のためにユーリは黙ってレックスの言葉を待った。

 しかし、レックスからでた言葉はユーリにとって予想外すぎることになった。


「ユーリ、此度こたびのおまえの活躍は賞賛に値する。機転を効かしてトワを守り、闇オークションに関与していた貴族らも捕らえられた功績はお手柄と言っていい。隣国にも大きな貸しができた」


「そりゃどうもありがとうございます殿下」


「そこでだ、ユーリ。おまえをこのまま手放すのは惜しい。俺の臣下にならないか?トワのそばにいてやって欲しい」


 レックスの言葉にユーリは目を見開く。ガーランド第一皇子直々の申し出だ。断れるわけがない提案に心の中でやられたと舌打ちをする。


 しかもレックスの臣下になればトワとも、もちろんよくそばにいるギルとも関わりを持つことは明白であり、面倒くさいこと極まりない。


「おれはトワの護衛に向いているとは思いません」


 ユーリははっきり言った。その言葉を聞き、ダイルとクリスがピクリと眉を動かすが口は挟まない。レックスも表情を変えずユーリの言葉の続きを待った。


「おれは一度トワに危害を加え、なんなら殿下のことも男性と偽り騙していました。そんな奴を信用できます?臣下に?とんでもない。おれなら願い下げです」


「それは、俺の眼が曇ってるということか」


 レックスは真剣な眼差しでユーリを見つめる。その視線をしっかりと受け止めながらユーリは応えた。


「殿下の目は正しいですよ。けれどおれはトワのこと、殿下を侮辱ぶじょくしましたから」


「だが、おまえはトワを守った。あのまま関わらないこともできたはずだ。けれど、おまえはそうはせずに最善を尽くして行動した。違うか?」


「それは……」


 言い淀むユーリにレックスはまっすぐな視線を向ける。そしてふっと表情を緩めると微笑む。ユーリはその笑顔につい見惚れてしまった。


「俺は俺のために尽くしてくれた人間と自分の眼を信じる。ユーリ、おまえは頭もキレて、戦いも申し分ない。何より女性としてトワのそばに常にいれる。この意味がわかるか?」


「……おれは男として生きていきますよ、これからも。わざわざ女だと周りに伝えるつもりもありません」


「知っている。それでもユーリはいざって時に性別すらも利用してトワを守れる、そばにいてやれる。これは大きいだろ?」


「殿下……」


「俺はこの機会を逃すのは惜しいと思ったんだ。それにトワもおまえがいれば嬉しいと思うしな」


 レックスの言葉にユーリの心が揺れる。本当は嬉しかったのだ、独りでなくなることを、トワのそばにいることを認められて。

 なのに素直になりきれずにいらぬ意地を張って悪態をついてしまう自分をユーリは心の中で責める。


 そんなユーリの様子にレックスは全て理解しているというふうに微笑み、口を開いた。


「ユーリ、俺に力を貸してくれるか?」


「……殿下のお望みならば、喜んでお受けいたします」


 絞り出した声は震えていた。ダイルとクリスはそんなユーリの背中をバシッと叩き、笑みを浮かべる。


「ユーリ、よろしくな」


「よろしくね」


 仲間と認められた気がして、ユーリは胸が熱くなった。そしてレックスはトワを呼ぶ。


 トワはすぐに部屋へ入ってきた。トワにレックスが説明をする。話をすべて聞くとトワは喜んでユーリに笑顔を向けた。


 その笑顔をユーリは一生忘れないだろうと心の底から思ったのだった。ただ1人、ギルだけは……黙ったまま静観していた。


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