ep:3-2

 真夜中、ユーリが静かになったのを見計らい、ギルはこっそり部屋を出た。ユーリは気づいていた。どこに行くかなんて勝手だが、このことはレックスに伝えた方がいいのだろうと思い、起き上がる。


 なんで、あいつはわざわざ独りになろうとするんだろうと冷めた目でギルが抜け出した窓の外を見ながら、ユーリは服を整えて部屋をでた。


「まぁた抜け出してんのかあいつは」


 レックスにギルのことを伝えると呆れた様子で、その返しにユーリは眉根を寄せる。ユーリの顔を見て察したのか、レックスは話し始めた。


 ギルにとって、トワは恩人。護衛騎士になる前の傭兵時代に怪我をして動けないところを助けてもらったことで、その頃からギルはトワを守ると、側にいる。

 そして、トワに何かあり、それが自分のミスの場合、一人ふらっと外に出てくること。

 翌日には頭を切り替えていつも通りになるらしい。


「トワが俺のところにきて、ギルを助けてくれって言った時は驚いたけどな」


「それは俺がいるのに別の男を連れてきやがってとかいう……?」


「んなわけあるか。想像してみろ。トワが血まみれの男を引きずってきたんだぞ。それも夜中に」


 ユーリはあーと苦い顔をして頷いた。確かにそれは驚く。というか、ホラーだ。

 しかし、それで納得がいった。レックスの騎士にもかかわらずギルが常にトワを気にかけていたこと。


「じゃあ、あいつがわざわざ殿下の騎士になったのは、トワのそばにいるためにってことです?なんだそれ、随分とロマンチックですね」


「恩というのは、それほどまでさせるものなんだろうな。俺も、あいつにはたくさん助けてもらっている。今回のこともあいつは、自分の不甲斐なさに怒りでもわいてるんだろ」


 呆れたように笑うレックスにユーリは疑問を浮かべた。今回トワは無傷といっていい。だって自分が代わりになったのだから。


「え?今回嘆くポイントあります?トワ無事ですよね?」


「……さあ、あいつの中にはトワだけかと思っていたが。それだけじゃないのかもな」


 穏やかに微笑むレックスにユーリはますます眉根を寄せた。全くもって理解もできない。そんなユーリの様子にレックスは苦笑した。


 その後は予想通り。朝方ギルはふらっと戻ってきた。ユーリからの話を聞いて心配していたトワはギルに詰め寄る。


 ユーリはトワとそれを見つめるギルを遠目に見ながら、レックスの呟きを耳にした。


「あいつにとって、トワの存在は居場所みたいなもんだ。あんな柔らかい顔もするんだなんて驚きだな」


 その言葉はユーリの心にずしんと重くのしかかる。居場所か……と。


 ギルがトワに、そしてレックス達に向ける顔と自分に対しての表情の違いに鼻で笑いそうになりながら、少し悲しい気持ちになったのは気のせいだと思いたかった。

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