新たな道

ep:3-1

 翌朝、ユーリは起きると自分の状況に驚いて叫ぶ。ギルに抱きしめられたまま眠っていたことに。


「うっさいなぁ、耳元で叫ぶなよ……」


「おま、おまえ……なに、して」


 ユーリがギョッとしたままでいる中、ギルは平然としている。ユーリを抱きしめる腕を解き、その隙にユーリは勢いよく離れた。そしてベッドから慌てて降りて、ギルを睨みつける。


「おまえ、どういうつもりだよ!まさか朝までずっとおれを……」


「はあ?馬鹿じゃないの。俺はあんたがベッドで寝ないからしょうがなく隣に入ってあげたの。椅子で寝たら疲れ取れなかったからね」


 本当に余計なお世話だとユーリは思うが、それでも確かにベッドは心地よかったと感じてしまいなんだか悔しかった。

 ギルはそんなユーリの心を知ってか知らずか話し続ける。


「さて、今日は国に帰るし。あと少しの辛抱だ。ガーランドに戻ればあんたともおさらばだな」


 ギルの言葉にユーリはムッとする。いや、事実なのだしこちらだってさっさと自由になりたいのだからいいことなはずなのだが。


 部屋を出るとすぐに心配するトワに怪我の経過をきかれる。レックスやダイル、クリスも穏やかに声をかけてきた。


 トワの笑顔にユーリは心が暖まるのを感じた。それは亡き母親の笑顔に似ていたから。なんて馬鹿なことを重ねるんだとユーリは自分自身を嘲笑ちょうしょうする。



 そのままガーランドを目指して馬を走らせた。しかしユーリの傷の痛みを心配したトワがレックスに言い途中の街で一泊することになる。6人は宿の食堂で食事にありついた。


「ユーリは料理はできるのか?」


 食べている料理の話になり、トワとギルが作れるという流れで、レックスが食事を摂るユーリに問いかける。


 ユーリは優雅にフォークとナイフを扱い、料理を一口ずつ口に運ぶ。

 その姿に5人は息を呑む。ユーリの所作があまりにも美しかったからだ。


 そんな視線に気づいてもあえて無視をするユーリは料理を飲み込むと、ようやく返事をした。


「できますよ。一人で生きてるんでね」


「じゃあ今度ユーリにも作ってもらえるね」


 トワが無邪気に言うとユーリは少し驚いたが、悟られないように作り笑いを浮かべた。


 今度なんてあるわけないだろと吐き捨てそうになる想いをぐっと飲み込んで。


 それを見ていたレックスは黙ったままだったが、何かを考える様子でいた。その後それぞれまた部屋に戻る。


 今回も2人ずつなわけで、お決まりのようにユーリはギルと一緒だ。ため息をつきながら部屋に入る。ギルは黙ったまま。しかし、なんとなくギルは様子がおかしい。

 

 ユーリは怪訝そうにギルを見る。その視線に気づいたギルが口を開いた。


「今日は抱きしめて寝てやんないよ」


「は?そんなこと誰が頼むかよ」


 ふざけたことを抜かすギルにユーリは考えるのがアホらしくなり二つあるうちの一つのベッドにさっさと入る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る