ep:2-4

「それは大変申し訳ありませんでした」


「聞いているのかユーリ」


「聞いてはいます。でも理解はできません」


 レックスに対してユーリは珍しく引かない。守れと言われたから守った。勝算もついていたし、最悪の事態になっても切り抜けられる自信もあった。

 しかし女と分かった途端言われる叱責に納得はいかない。


 そんなユーリに対してレックスも眉間に皺を寄せたままだった。臣下を大事に思うレックスだからこそ、臣下でもないユーリに対して自分の発言が軽率だったと悔やみ熱くなってしまう。


 トワは自分の代わりにということが引っ掛かり言葉に表せないいきどおりを抱えた。ヒートアップしそうなのを止めたのはダイルとクリスだった。


「ユーリ。レックス殿下の言っていることは間違ってないよ」


「トワのことが心配だったんだろう?俺も殿下もそれは分かってる。けど、女の子なんだからあんまり危ないことはしてほしくないな」


 諭すようにクリスとダイルに言われてユーリは押し黙る。そして渋々といった様子で分かったと呟いた。

 それを確認するとクリスがユーリに目を向ける。


「まあ、何か思うことがあればいつでも言ってきなさいよ」


 ユーリは少し目を大きくし、すぐに顔を逸らした。すると今度は黙っていたギルが口を挟む。


「殿下、そろそろ休みませんか?トワさんも疲れてるでしょうし」


「ああ、そうだな。部屋が用意されてるそうだ。2人ずつになるんだが……」


「じゃあ殿下はダイルの旦那と。トワさんはクリスちゃんと。俺はユーリとってところですかね」


 言いよどむレックスにギルがテキパキと組み分けをする。この組み合わせに意義を唱えるのはユーリだった。


「なんで、おれが野良猫野郎と相部屋なんだよ」


「他の人にあんたと一緒にさせるわけにはいかないからねえ」


 それは監視をすると言ってるようなもので。ギルは未だにユーリに対して敵意を見せている。

 それはレックスとトワがユーリに対してよく思っていなかったからだが、トワを守ったユーリにレックスもトワもダイルもクリスも今はわだかまりは消えていた。


 ユーリの行動がレックス達を変えたのだが、ギルはただ一人納得がいかない様子で、ユーリに対して警戒を緩めない。

 とにもかくにも、3部屋に分かれて休むことになった。


 ユーリは渋々ギルの後についていき、部屋に入る。なんでこんな野良猫野郎なんかと……とユーリはため息をつく。するとギルが振り返り、ユーリを睨んだ。


「今失礼なこと考えてただろ」


「そんなことないけど?ただ、こんなことになるとはなあと思っただけ」


 ヘラヘラと作り笑いをするユーリにギルの眉が釣り上がる。


「怖っ、さて……この椅子固いけどまあいいか」


 ユーリはギルを無視して部屋に備え付けてえる小さなテーブルとセットの椅子に腰をかける。ギルは何をするのかと黙って見ていると、おもむろにユーリがテーブルに頭を伏せた。ここで座って寝る気なのである。ギルは頭が痛くなってきた。


「ユーリ、ベッドで寝れば?」


「それはお断りしますねえ」


 ユーリは作り笑いでギルに笑いかける。ギルはテーブルに顔を伏せたままのユーリに近づき、髪を掴んで顔を上げさせる。その強引な行動にユーリの顔が僅かに歪んだ。


「おまえさ本当なんなの一体?おれが嫌いならほっとけばいいじゃん」


「……そうしようかと思ってたんだけどね、やっぱりそんなわけにはいかないんだよねえ」


「なんで?殿下達の気持ちが変わったから?おまえも女だと分かった途端態度変えてくるような感じ?気色悪い」


「あんた本当に馬鹿だな」


 ギルはそう言うとユーリを抱き上げた。急に宙に浮く感覚に驚いたユーリが暴れるが、難なくギルはベッドに運ぶ。そして横たえさせたユーリの隣に座った。


「で?女だって隠してどうするつもりだったの?」


「別に、今まで通り過ごすつもりだったけど」


「なんで?危ないことしてんのに?」


「……おれにもいろいろあんだよ」


 その言葉にギルは黙る。どうせろくでもないことで男のフリをしてきたに違いないと思いながらも、今目の前のユーリは歴とした女性であり、いくら嫌いといっても怪我を負ってるのを放置して一人ベッドでは眠れない。

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