ep:2-3

 その後は貴族の闇を一つ炙り出したことで街で宴になった。闇オークションの話も落ち着き、一件落着といったところなのだろう。


 その街には少し歩いたところに森がある。ユーリは珍しい草花を見たいとレックスの許可を得て宴を抜け出し、森へ入る。

 夜だから暗いが、ちょうどよい。少し歩いて、宴の声が遠くなったところで、ユーリは膝をつく。そのまま近くの大木に体を預けるようにもたれた。


 無事といったが、捕まってる際に胸に傷をつけられていた。サラシを巻いているところが赤く滲んできている。簡単な処置しかせず、放っておいたらこのざまである。


 しかし、レックスたちに話すわけにもいかない。これを見せれば裸を晒すことになる。女だとバレる。


「何してんの」


 その時だった。背後から冷たい声が響いた。ユーリはドキリとして、咄嗟に平静を装う。胸の傷が痛むが、悟られないようにポーカーフェイスで振り返った。


「なんだよ野良猫野郎?」


 そこにいたのはギル。夜の森で2人だけ。追い詰められた獲物の気分だとユーリは嘲笑する。


「傷、手当てしてやるからこっちこい」


 ユーリはギョッとした。バレている。しかし知らないふりをするしかない。


「は?怪我なんてしてないけど」


「バレバレ」


 ギルはそう言うと近づいてきて、ユーリは後ずさる。しかし後ろが大木のためにすぐに退路を断たれた。ギルの両腕がユーリの逃げ道を塞ぐように顔の脇につかれる。


 そしてユーリの服をガバッと上げた。するとサラシは巻いてあるがそこにある膨らみに気づく。


「へー、あんた女なんだ」


「悪いかよ、くそ野郎」


「なんでわざわざ男のふりしてんの?」


 ギルの鋭い目がユーリを捉えて離さない。これはまずい状況だ。なんとか切り抜けないととユーリは思考を巡らせるが思い浮かばない。

 今素直に白状した方がいいのか、しらを切るべきか……バレたら確実に面倒なことになるだろう。


「早く離せよ。変態」


「そんな生意気な態度とれるんだ、ここ痛いくせに」


 ギルはそう言うとユーリの胸の傷を触る。ピリッとした痛みにユーリが顔を歪める。


「いつ、やられた」


「……捕まってる時」


「なんで黙ってた」


「女ってバレたくなかったから」


 ユーリの返しを聞きギルは黙る。そしてため息をついた。


「あんた馬鹿だろ」


「は?おいっ、おろせ!」


 ギルは呟くとユーリを軽々と横抱きにした。ギョッとしてユーリは暴れる。


「手当て、するから」


「……え?」


「トワさんが知ったら悲しむだろ」


 ユーリはギルが何を考えているのか理解できず困惑する。その隙にギルはユーリを部屋へ連れ、レックス達に報告する。


 そのまま寝台に座らされ、手当が始まる。ほどなくして処置が終わり、レックス達も部屋に入ってきた。しばらく黙ってみんなの視線に耐えたユーリだが、沈黙に耐えきれず口を開いた。


「これって、皇子に対しての偽証罪とかになるんですかねえ」


 ユーリは冗談のように言うが、誰一人笑わない。なんだこの重い空気とユーリが狼狽えるが、トワが口を開きその理由が分かった。


「ユーリ、女の子なのに私の代わりに危ない目にあって捕まったの?」


「え、ああ……まあおまえの護衛だし。それくらい普通だろ?」


「普通じゃない!」


 声を荒げるトワ。それを落ち着かせてレックスが話す。


「ユーリ。俺はトワを護衛しろと頼んだが、危険なことを許した覚えはない」


 ああ、そうかとユーリは思った。この人たちは純粋に女性である自分を心底心配してくれているのだと。


 そんな想いを素直に受け止められる度量がこちらには無い。

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