ep:2-2

 馬車が停止する。目的地のオークション会場にでも着いたのだろうか。


 扉が開き、件の男が入ってくる。商品の最終チェックといったところか?そりゃ賢明な判断だとユーリは鼻で笑い、男に向き合う。目線を合わせるとようやく男はあれ?という顔をした。


「やっと気付いたか?」


「あれ?お前、前に街で会った……殿下のお気に入りの娘、じゃない?でも白い髪」


「こんなの化学の力でどうにでもなる。残念だったな?おまえらの計画も丸潰れ。おまけに闇オークションの現場も出てきた。つくづく災難だね〜」


「くそっ……!」


 男は悔しそうにユーリの首元を掴んだ。その際に喉仏が無いとバレると女だと気づかれてしまうのでユーリは焦る。手を振り払い、まあ待てと男を宥めた。


「いいのか?今頃動いてるはずだ」


「誰が?」


「嫉妬深い皇子様と野良猫野郎たち御一行だよ」


 ユーリの意味深な言葉に男は首を傾げる。しかし、その意味を早く知ることになった。


 周りが一気に騒がしくなる。男は慌てて振り向いたが、そこにレックスの護衛である女性騎士が助けにきた。


 少し年上の女性騎士はクリス。紫の瞳に薄めの茶髪をポニーテールに結んでいる。


 クリスは男の鳩尾みぞおちを剣の柄で突き、動きを封じる。そしてユーリの拘束を解き、状況を話してくれた。オークション会場にはレックスたちが先回りしているとのこと。


「あの紙に気づいてくれたんですね」


「そうみたいだよ。まったく、用意周到だね」


「お褒めに預かり光栄です」


 クリスとユーリが何やら怪しげな会話をする中、クリスによって拘束された男のために説明する。

 ユーリが貴族間で行われる闇オークション会場を知っていたこと。そしてそれを紙に記して、動けたこと。

 男は悔しそうな表情を見せた。


 男を縄で縛り、クリスと共にユーリはオークション会場内に入る。そこには貴族を追い込むレックスたち。


 貴族が雇ったのか傭兵ようへいの一人が武器を構えてユーリに向かってくる。ユーリは太ももにつけていた三本の棒を取り出して連結させそれを防いだ。



「っ……おまえ舐めた真似をっ」


「油断してていいのか?上、みてみな?」


 ユーリが示すその先には、小瓶。それを手に持つ棒で勢いよく割る。瓶の中には水が入っており、ユーリを濡らす。

 突然のことに傭兵に一瞬隙ができた。


 みるみるうちにユーリの白髪はいつもの焦茶色に戻った。そしてユーリが手に持つ棒を一振りして、相手の武器を薙ぎ払い、すぐに傭兵の首を突く。


「っうう……」


 呻いて倒れ込む傭兵。あらかた片付いたのだろう。レックスが近づいてきた。


「ユーリ!大丈夫か」


「これはこれは殿下。なぁに、この傭兵も死んじゃいませんよ」


「違う、おまえが無事かと聞いてる」


 ユーリは驚いた。自分の心配などされるとは思わなかったから。


「おれは、大丈夫ですけど」


「そうか、よかった」


 レックスが微笑む。その後もう一人の護衛騎士、この中では最年長か?クリスより少し年上くらいにみえる黒目に長身の灰色髪の男性ダイルとトワもユーリの心配をしてきた。


 そう言われたら馬車に助けに来たクリスにも無事かと聞かれたなとユーリは考え込む。


 自分はそんな対象じゃないだろうとばかり思っていたから。


 少し離れた場所にいたギルと目が合う。その目は相変わらず怪訝けげんそうに睨んでいた。

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