中編

「準備はできているか?」

「ああ。万全だよ。今ならダースベイダーにも勝てる」


 オペラ博士オレの父親がアルファに食われてから、一週間。


 アルファはサメの頭領ドンとなって、獰猛で凶暴なサメたちを引き連れ、数多あまたのビーチでビキニのおねーちゃんたちを襲い、トルネードに乗じて陸地を侵攻した。


 一週間だ。

 この一週間で、大陸の半分はアルファのものになった。


 人間も抵抗はした。

 したのだが、奴らのサメ肌は銃火器で傷つかず、奴らのタックルはコンクリートの壁やら戦車の装甲やらをぶち抜く。


 爆弾を食わせるしかない。

 奴らの弱点は、口の中だ。

 外側は強化できても、内側までは進化できなかったらしいな。


「健闘を祈るよ」

「チョウ、他人事じゃ困るよ。お前のサポートがなきゃ、オレたちはここまでやってこられなかった」


 サーフィンの大会は軒並み中止になって――そりゃそうだ。どのビーチでもサメがうようよ泳いでいやがる――オレは、アルファ対策チームのメンバーとなった。


 父親を食われたから?

 いやいや、復讐が目的じゃないさ。


 単に、プロサーファーとしての活動ができないから、その原因となっているサメをビーチから追い出したい。


「帰ってきたら、みんなでまたチャイニーズレストランに行こう」

「おいおい。ブライトまで『帰ってきたら』なんて言うのかよ。オレたちのチームで、アルファを倒して、世界を救うんだ」


 オペラ博士の遺品のノート型パソコンを調べ、いちばんやりとりの多かったこのブライト博士とコンタクトを取る。


 ブライトは「わたしには敬語を使わなくていい。アルファ対策チームとして、みな平等だ」と、初対面で年下でサメの専門家でもないオレを歓迎してくれた。


 アルファ対策チームは、ブライトとチョウ、ローゼン、オレで四人。


 ローゼンは今、外でセスナの整備をしている。

 無口で、口を開いたと思えば毒づいてくるようなやつだが、操縦の腕前はホンモノだ。


「楽しみにしているよ」


 サムズアップを見せるチョウ。

 メカニック担当のオタクで、武器を作ったのはこいつだ。

 今回の作戦では遠隔でオレたちに指示を出す。


「これ、付けておきなさい」


 ブライトは、オペラ博士の遺品のゴーグルをオレに渡してきた。

 アルファが泳ぎ去ってから回収したものだ。


「……ま、目は守ったほうがいいからな」


 元々、オレがアイツの誕生日にプレゼントしたものだった気がする。

 いつか、サメのいない海域でダイビングしようって約束していて、それで。


「今回の作戦をおさらいしよう。

 わたしとサムソンが、ローゼンの操縦するセスナで、アルファの現在地のペンタゴンまで飛ぶ。

 わたしがアルファとネゴシエーション交渉し、決裂した場合はサムソンがあのサメの口に爆弾をお見舞いする。

 あとはセスナで離脱し、チャイニーズレストランで祝杯をあげる。

 以上だ」


 ブライトはスーツ姿だ。

 サメとのネゴシエーション交渉なのにスーツ姿なのは、時の権力者に成り上がったアルファへのリスペクトを込めたものらしい。

 大陸をめちゃくちゃにしているサメに敬意を表する必要はないとオレは思うが、腕がパツパツなスーツ姿が面白おかしくてツッコむのをやめた。

 チョウも「似合っているよ」とだけ言っていた。


「さて、行こうか」


 *


 セスナの中では、ブライトと思い出話で盛り上がった。

 昔サーフィンをやっていたらしい。


「……緊張感、ない」


 ローゼンがぽつりとつぶやいた。

 これからアルファを倒しに行くっていうのに、無関係の話をするなと釘を刺しているつもりか。


「緊張はしているよ。大陸の命運がわたしにかかっているからね」

「うん。ブライト、頑張れ」

「ありがとう、ローゼン。君がチームに入ってくれて、よかった」

「……」


 ローゼンは照れているのか、何なのか、無言を返した。

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