第2話

 目の前にいる、白い皮のようなぶよぶよしたものを着た、いや、白いマシュマロで形成された、にんげんと等身大の生命体が、オマエダイジョウブカ?と話しかけてきた。正確には話しかけてきたわけではない。奴には口があるわけでもなく、スピーカーがあるわけでもないのだ。金属がこすれたような高周波数のキーンとしたイヤな音とともに、僕の脳に「お前大丈夫か?」という意味が伝達されてきた。


「ここはどこだ?」と尋ねようとしたが、声がでなかった。うまく口を動かせない。手で自分の口に触れてみた。感覚がおかしい。口のでこぼこしている感じもわからないし、手に触れられているという口の感覚もない。自分の手をよく見てみると白い皮のようなもので覆われている。ゴム手袋だ。そういえば、ここにくる前にポリエチレン製のゴム手袋をしたっけ。工場に入るときの着替えで・・・僕は記憶をたどる。


僕はプラントエンジニアだ。会社の新薬工場を建てるための工事中で、超大型の乾燥設備を機械室に据えつけて運転確認をしていた。確か、その最中に乾燥設備が爆発して、僕は吹き飛ばされた。乾燥設備の大きな扉が僕に接近してくる映像を覚えている。気がつくと僕は横たわっていた。体の痛みは特になかった。その後、乾燥設備のなかから、白い皮をかぶった連中がぞろぞろと機械室に乗り込んできて、運動だ、運動だ、とドアから外に出ていった。その後、僕は起きあがって大きな口をあけた乾燥設備のなかに潜り込み、あるはずもない階段のようなものを降り、火事現場のような砂場のような薄暗い場所についた。呆然としているところに、後ろから「お前大丈夫か?」と話しかけられた。振り返ると見たことのない生命体が目の前に立っていた。


そこまで思い出したところで、お前ニンゲンをみたのか?とその生命体が聞いてきた。ニンゲンとは白い皮をかぶった連中のことか?、と確認したが、反応はなく、その生命体が一歩一歩ゆっくりと近づいてきた。身長は僕より少し高くて百七十三センチくらい。ベイマックスより細身だが小太りだ。周囲が薄暗いためか白い皮にテカリや反射はなく、少しざらざらしているように見える。顔も白い皮でおおわれていて、つりあがった大きな黒い目がふたつ並んでいた。その白い皮をかぶった連中はどこにいった?、と聞いてきたので、わからないと念じた。どうやら、ある程度の意志疎通はできるようだ。おそらく、敵意はもたれていない。なぜかはわからないが身の危険を感じなかった。どうやらまだ僕の人生は終わりを迎えないようだ。

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