大鳥嶺入留 18歳 秋

 由花の背中を見送る。ああ、行ってしまった。


 これで私の青春は終わり。友だちのケツを蹴り飛ばしてからの、一時間弱のドライブ。言葉にすると淡泊だけど、内容は問題じゃない。私がどう感じたかだ。


 のろのろと進む渋滞の中、ようやく一息ついて腕や肩を回しつつ、私の青春を思い返す。 


 キスをするのは初めてだったけど、いつもと同じ、こんなものかという感想。他人の唇に触れるのは初めてだなという、妙な感慨は覚えたけれど。


 自動車学校の先生以外を助手席に乗せて運転するのは新鮮だった。軽くアクセルを踏むだけでどこまでも加速して、社会のしがらみから自由になったようで爽快だった。でも、話しかけられ続けるのはかなり気が散る。本を読みながら会話をするのとはまた違うみたい。


 それにしても、自分は不器用で直接的な性格だと自負していたけれど、まさかこれほど回りくどいとは。


 青春。免罪符。心配。どれも由花の背中を押した本当の理由ではあるけれど、真実ではない。


 私はただ、伝えたかっただけ。


 由花、あなたはおかしい。けど、私はそんなあなたを受け入れて、友だちでいることを選んだの。だからどうか、世界の全てがあなたの敵だとは思わないで。


 泣いているあなたの隣で、本を読みつつ話を聞くくらいはしてあげるから。


 ただそれだけ。……それだけを、そのまま伝えることすらできないなんて。


 ああいや、違う。


 私はただ、由花とくだらない会話を交わすのが、楽しかっただけだ。


 伝えるべきことをすべて伝えてしまうと、せっかくの楽しい時間が終わってしまう気がしたから。


 全て気分の問題。それで本来の目的がうやむやになっているのだから、困ったものね。 


「ままならないわね」


 カーナビを操作し、目的地を自宅に設定する。由花はどうせ警察に保護されるか家に引きずり戻されるのがオチだ、待つ必要はない。


 そう。相手があの善良で良識的なお姉さんなら、結果は最初からわかっている。


 けれど。


 青春の余韻を噛み締める。


 まったく、得られるものは思い出だけで、実益なんて欠片もないくせに。


 本当に、最高の気分ね。

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