数え切れない転移者をさばく実は優秀な神様のお話
蒼井星空
第1話 真のやりがいとは
「チートくれよチート!なぁ、できるだろう?」
目の前では頭の悪そうな少年がチートを欲しがってる。
彼はこれからとある世界に転生する。
私は彼に説明を行う"異世界転生説明神"だ。
ん?何だその仕事はって?
君は見たことがないか?読んだことはないか?
誰かが異世界転生する物語を。
そういう話の冒頭にほぼ必ず出てくるだろう?
転生予定者に説明を行う神様が。
それが私だ。
来る日も来る日も説明の毎日。
嘆き悲しみ、または歓喜し、得られる能力が何かと期待にあふれる前のめりの男や女を淡々とさばいていく。
それが私だ。
チートを要求されるとか、貴族に生まれたいとか、素敵な恋人と出会いたいとか、ハーレムとか絶倫とか。そういう希望をやり過ごし、ただ淡々とそいつにふさわしい転生を与える。
「私は雷魔法を使いたいな〜。なんたって勇者っぽいでしょ?超~強くってキレイなやつをお願い!」
チラチラと私の反応を伺いながら希望を述べる少女。バカか。お前の行く世界には電気が存在しない。そんな場所で発動しない魔法を唱えてどうする?
もう面倒だ。
なんで私がこんな仕事をしなきゃならない?
かつて私にこの仕事を進めた神はどこかへ行ってしまったのに……。
転生で付与できる力は決まっている。そいつのスペック次第だ。そして行く先の世界に合わせるべきだ。にもかかわらず無理なことばかり要求される。
それ以上に面倒なのは泣き崩れるやつ。もう死んだんだ。諦めてくれ。前世の今後はお前とは無関係だ。
もっと素晴らしい仕事がしたい。
窮地に陥った世界で救世神として活躍して
なぜか救世神は離職率が高いから、私に回ってこないかなとずっと待っている。
せめて無機物の転生係とか……いや、あれはやってて虚しくなるから避けよう。
何も喋らずただお決まりの確認を延々とこなすだけ。たまにとんでもないのがいるからやっぱり嫌だ。転生する家とかいう意味の分からないやつに心を折られた話はウケたけど自分がそうなるのは嫌だ。
「なぁ、早くしてくれ」
目の前にいるのはやたら目つきが悪い男の子。
珍しく要求無しで早く転生させろと言っている。
ステータスは速度全振りだった。与えられたスキルはない。なぜこれで行きたがる。可哀想だから"幸運(極)"をこっそり付けといた。
自分でもたまに何をしてるんだろうと思う。
特にやりがいがある仕事じゃない。誰がやっても同じ。
必要なのは神ということだけだ。
虚しくなる。
来る日も来る日も説明説明。
代わり映えのない日々。
しかし、唐突にその日々が終わる。
「やってやったぜ、うぉおおぉぉおおおおお!」
なんだと……落ちる……。
気付けばよくわからない道を通り、思いっきり息を吸い込む。
「おぎゃあぁぁぁあああああぁああぁああああ」
「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※」
目の前にいるのはまるまると太った豚。なに言ってるかわかんない。
やられた……。
派手な格好をした女にいつものように説明し、"火魔法(大)"と"魅力(低)"を与えて転生の扉を開けたところで、突き飛ばされた。
まさか私が転生するとは……。
飽きてたから"まさか"って言ってみたかったんだ。
送り込むはずの世界に落ちるのは久しぶりではある。
でも、絶対怒られるんだよなぁ。
下手したら給料減らされる。
あのクソ女、覚えとけよ(怒)。
私はとりあえず現地の言葉を覚え、豚をダイエットさせつつ世界を操り、魔王をしれっと気絶させて魔族だけの世界に転移させて死んだことにする。
この世界での転生者のミッションをクリアし、あのクソ女に似た
当然あのクソ女はお仕置き……と思って探ったが上司の手によって既に転生させられていた。ニワトリ……まさかあのときの。
そして自分が説明神をやっていた建物に帰ると……。
「あれぇ?センパ~イ?ひさしぶり〜♪」
後輩の中で最も見た目はキレイだが、最もアホなやつが私の椅子に座っていた。
神の威厳が1ミリも感じられない……。
「お前が遊んでる間に方針変更があった。説明神は見た目が良いものを選ぶことになったのだ」
唖然としている私に上司が説明してくれる。ますますこの仕事の意義が感じられない。アホばっかりだ。
「私はどうすれば……」
「すまんな。お前の次の仕事は救世神だ」
ナンダト……。
降って湧いたまさかの希望の神事。
これまで退屈な仕事を頑張ってきたことが報われたようだ。
予想外にも希望する職についた私は張り切って滅びそうな世界に降臨する。
「みなのもの、救ってやろう。我を崇めよ」
しかし反応は薄い……。
そもそも生命体がいるのか?この世界は。
探し回ってようやく見つけた生命体に話を聞くと、他に誰もいないとのこと。
世界をここまで追い込んだ魔人をとりあえずぶっ殺しといた。
次の世界。登場前に様子を探るとちゃんと生命体がいた。私は再び張り切って降臨し、人々を困らせていた鬼を瞬殺する。かっこよく"神の怒りを思い知るが良い"とか口走ってしまった。
しかしその世界は滅んだ。
どうやら鬼は世界の崩壊を止めるため、仕方なく人を減らしていたようだ。鬼という防波堤がなくなった世界は人が爆発的に増え、人同士争い、破壊し、そして世界を住めない場所に変えてしまった。
神界に戻った私は苦悩……したかったがすぐに次の仕事が入る。
"闇の影"に支配され、食い尽くされた世界を浄化するという任務だった。
どう考えても生命体はいない。
降臨すると同時に浄化の炎で焼き尽くし、"闇の影"を世界もろとも消し去った。"闇の影"から見たら、私はただの理不尽なテロリストだろうな。
そして戻ってきた私を出迎えたのは何年か前に説明神をやめた先輩だった。
「どうだった、あの世界は?」
「お久しぶりです先輩。すでに支配され食い尽くされたと聞いて焼き尽くしました……」
「そうか……」
そこから先輩に誘われて飲みに行った。
ここは
しばらく飲んでいると先輩がおもむろに語り始めた。
酔っぱらいの長い話だったので省略するが、あの世界には以前1人の女性を送り込んだらしい。先輩が。
しかしダメだったらしい。その人は闇の影に破れて精神ごと食われたそうだ。そんな話を肴に飲めないだろう……。
嘆く先輩をお店に残して出てきた。
お勘定としてレアな素材をお店に渡してきたから、面倒は見てくれるだろう。
先輩……そんな悲しい話を聞いて何を思えと。
私は……。
次の世界……。すでに死んでいた。
次の世界……。なんとか世界は救ったが、生命は死に絶えた。
次の世界……。星を壊した。
次の世界……。珍しく生命を救ったが、増長して歯向かってきたから滅ぼした。
次の世界……。次の世界……。次の世界……。
心が死にそうだ。
あんなに憧れた救世神。その役目はただのケツ持ちだった。しかも大抵酷い状況に陥っていた。当然だった。少し考えればわかることだが、そんな状況だからこそ必要とされるのだ。救世神の離職率が高いのもうなずける。
私は諦めて心を殺して仕事に徹した。
なぜ?
現地がどんな
なぜ?
神敵をひたすら倒した。
なぜ?
私は……異世界転生説明神だ。
いや、異世界転生説明神だった。
私は誰かを送り込むことでその世界を救っていたのだ。そのことにようやく気付いた。救世神など不要なように。救世神が出るほど悲惨な状態になることを食い止めていたんだ。
目の前のアホを淡々と相手にする仕事ではなかったのだ。
私は上司のもとに出向き、心の底から謝罪し、説明神に戻してもらえるよう願う。
上司は頷き、認めてくれた。
「お前が働いてる間にまた方針変更があってな。アホはだめだと」
あの後輩はどこに異動したのだろうか……。
そうして異世界転生説明神に戻った私は、転生者の前世を慈しみ、転生先の状況を鑑みて丁寧な説明と可能な限り有効なスキル選択を心がける。
そして、いざ転移させるときには頑張って笑顔で送り出すようにした。
かなり恥ずかしいけれど、私が担当した転生者の成績が平均以上になったらしい。みんな頑張ってくれた。
そうして私は向き合う。
この"やりがいがある仕事"に。
「なぁチートくれよ!なっ!?」
「あなたが取得可能なのはこれらのスキルです。おすすめはこれとこれ。でも、現地の様子や敵となるものの想定から考えるとこれ1択です。はい、わかりました。おっしゃるとおりに。では幸運を祈ります」
今日も私は送り出す。
どこかの世界を救う誰かを。
誇りをもって。
「やってやったぜ、うぉおおぉぉおおおおお!」
あっ……。
※※※
お読みいただきありがとうございます!
ふと思いついた短編ですが、別作品でも異世界転移するたびに出したくなるくらい気に入ったキャラになりました。(名前はないけど……)
いろんな作品を書いていきたいと思っていますので、星評価や作者フォロー(この作品は短編なのでもしよければ作者の方をお願いします)、コメント、応援など頂けたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします┏○ ペコリ
数え切れない転移者をさばく実は優秀な神様のお話 蒼井星空 @lordwind777
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