第24話 婚約者お披露目パーティー③
レオナールと釣り合わない私のことを、全く気にも留めないのは、この場でレオナール本人だけだ。
そんな彼は、平然と反応した。
「エメリー良かったね。アリアは優しいから、ラングラン公爵家のルールやしきたりを丁寧に教えてくれるさ。これでいつ我が家へ嫁いできても、困ることはないな」
「おほほ、それは嬉しいことですわ」
「お兄様ってば、急に婚約を発表するんですもの、驚きましたわ。どうして事前にお相手を教えてくれなかったのかしら?」
「エメリーとの結婚を邪魔されたくなかったからね。あえて隠していたんだよ」
「本当にそれだけですか?」
ねっとりとした眼差しで見てくるアリアから、めちゃくちゃ疑われている。
瞳がちっとも笑っていないアリアから逃げたい私は、何とかこの場を去る理由はないかと周囲を見回す。
そうすると、モテない同盟を組む兄とバチッと視線が重なる。
内心、やったぁ、私の家族がいるわ。あそこに逃げ込もうと喜び、レオナールの腕を引っ張る。
「どうかしたのかい?」
「私の家族が……」
「ああ本当だ。来てくれて良かったね」
「一言声をかけたいわ」
「アリアとはいつでも話せるからね。今度ゆっくり別の会を設けよう」
「約束ですわよ、お兄様」
「ああ、もちろんだ」
そう言ったレオナールが、アリアから距離をおいたため、ふぅ~と、一息つく。
あの妹は、私とレオナールの婚約を完全に拒絶しているだろう。
そもそも私との婚約を、二つ返事で歓迎するわけがない。それが正常の反応だ。
そんなことを考えていると、我が家のお花畑ご一団が笑顔で近づいてきた。
まあ、分かっていたことだが、図太い神経の兄が呑気な声を出す。
「ちゃんといたな。逃げてないか心配していたんだぞ」
「お兄様たちは、本当に来たのね……」
「ああ当然だろう」
「わざわざ来なくても良かったのに」
「せっかくの機会に対し、『行かない』という選択肢は俺の中に存在しない」
「でしょうね」
「それにしても、俺たちも鼻が高いな」
「何がですか?」
「会場の至る所で、『最後の優良物件の争奪戦』に戦力外のエメリーが、レオナール様の心を射止めたと大騒ぎしているからな」
「射止めていないわ! 騙されたのよ!」
浮かれた狸のような両親と兄に冷たく告げた。
私の最大の窮地を、呑気な皆様方が知らないだけである。
偽装婚約契約を結んだ私たちは、大っぴらにできない裁判の一歩手前だ。
偽装婚約の契約期間を巡って、彼から契約不履行だと訴えられかけているんだから……。
本当に彼の心を射止めていたら、こんな問題に発展するわけがない。
何としても、今日だけでこの契約を終わらせてみせると、鼻息を荒くする。
すると、くつくつと楽しげに笑っていた兄が真面目な顔に一変し、「まだ言っているのか。失礼だぞ」と叱られた。
そして兄は、気の毒げな顔でレオナールを見た。
「レオナール様も、エメリーがこんな調子では大変ですな」
「それでも可愛いですから」と、穏やかな笑顔を見せるレオナール。
なんてこった! レオナールは、我が家の頭の湧いた連中にまで、演技を始めているではないか‼
この男……。
本気で私のことを、五年も偽装婚約者に付き合わせる気だな。
偽装婚約問題は、お互いに譲れない契約ってことか──。
これから勃発するレオナールとの壮絶な戦いを想像し、ざわりと寒気がした。
とはいえこのパーティー中は、気の抜ける時間は少しもない。
偽装婚約を発表したレオナールの横にいる私を一目見ようと押しかける令嬢から、ひたすら睨まれ続けるのだから。
◇◇◇
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