第22話 婚約者お披露目パーティー①
毎年開催している公爵家のパーティーは、四月の第一金曜日と決まっているらしい。
夜会を開催する貴族たちは、この日は絶対に避けて計画するようだ。
筆頭公爵家と関係を取り付けたい高位貴族の大半が、ラングラン公爵家のパーティーに流れるからであり、あえて被せるわけがない。
とはいえ夜会の主催者側になることのない我が家には、パーティーの日程調整で悩むなんてことは、縁のない話である。
図太い神経の兄は、周りから変人扱いされているくせに、招かれたパーティーには、何としてでも参加するせいで、私がいつも付き合わされるのだ。
とはいえ、ラングラン公爵家主催のパーティーには、初めて参加する。
大きなシャンデリアがある広々とした会場は、中央に踊れる空間が広がり、音楽団による生演奏が奏でられている。
四隅にはそれぞれ、立食コーナーもしっかりある。
一見して高級食材なのが分かる料理の数々。これは凄い。
客人をいかにしてもてなすかが社交界の基本だし、女主人の腕の見せどころだが、とにかくお金がかかっているのは、いうまでもない。
先日開催されたウトマン侯爵家の夜会も、豪華な食事は並んでいたが、ここまでではない。
なぜか、ウトマン侯爵家から突然届いた招待状。
我が家とは、縁もゆかりも全くない間柄であり、あの日、壁際に立たされていた私は、兄が侯爵に挨拶するのを眺めていただけだ。
突如として我が家を招待してきたという、その気味の悪さから、主催者への挨拶は、兄が一人で向かったのだから。
今にして思えば、あの夜会は、レオナールの幼馴染である私への、マウントだったのかもしれない。
そう……。
アネット侯爵令嬢は、参加者もまばらな時間を見計ったのだろう。
このパーティーに一番乗りで到着したのは、ウトマン侯爵家の人物たちである。
レオナールを一番狙っていたアネット侯爵令嬢が、彼女の弟をパートナーとして伴い、一番乗りでこの会場へ入ってきた。
ナイスバディーのアネット侯爵令嬢が、レオナールの存在に気づき、両手を口に当て、ハッとした表情を見せる。
どんな反応をされようとも、主催者側のレオナールは、来客に挨拶する必要があるため、彼女の元へと歩みを進める。
「今日はよく来てくれましたね」
レオナールが穏やかな笑顔を見せて労ったため、アネット侯爵令嬢が口を開く。
「先日は我が家のパーティーにお越しいただき、感謝申し上げます。今日はレオナール様のご婚約の発表があると噂されておりますが、お相手は、お隣にいらっしゃる……」
どなた? と私の顔を見て訝しむ。
私は有名人であるアネット侯爵令嬢をよく存じ上げている。
おそらく彼女も、温泉王を目指す阿保な兄の妹として有名な私のことは、知っているはずだ。
だが、これまで顔を知っていても、自己紹介などしたことのない間柄だ。名前を呼べずに困っている。
「ええ、彼女が最愛の婚約者であるエメリーヌです。今後、彼女とも仲良くしてあげてください」
「レオナール様にそのように願われましたら、もちろんですわ。お初にお目にかかります、ウトマン侯爵家のアネットです」
アネット侯爵令嬢が、天使のような笑顔を見せた。
彼女に睨まれた記憶のある私としては、思わず拍子抜けする。
アネット侯爵令嬢から、こっぴどい言い方をされるかと覚悟していたが、むしろ笑顔を向けられた。
なんだ。彼女のことを恐れる必要はなかったようだ。そうと分かれば笑みを浮かべ、自己紹介をする。
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