第13話 偽装婚約の契約①

 ◇◇◇


 レオナールの婚約発表が掲載された新聞。それを読んだ直後に届いたドレス──。


 兄から強引にそのドレスの箱を押し付けられてしまい、肩を落とす私は、とぼとぼとした足取りで部屋へと運んだ。


 箱の中身を確認したとは、とても見えなかった兄が、ドレスと言うのだから、これを運んできたラングラン公爵家の従者から、そう聞いたのだろう。


 まあ確かに……外観はどっからどう見たって、ドレスが入っていそうな大きさをしている。


 よくあるドレス専用の箱で間違いない。


 だが、ドレスとまだ確定したわけではない!


「どうか、どうか、神様! 中身がドレスではありませんように!」


 そんな願いを唱え、蓋を開ける。


 そして目に飛び込んできた品を見て、ハッと息を吸い込み、息が止まった──。


 たった数秒で怖くなった私は、勢いよく蓋を閉めた。


「はぁ~……、はぁ~……」


 怨念の塊のようなドレスを見て、吐く息が荒くなり、心臓が悲鳴を上げるほどドキドキしている。


 言うまでもないが、もちろん恐怖で。


 中身は見間違うことなくドレス!


 それも、めちゃくちゃに彼を意識したやつだ。


 恐怖、恐怖、恐怖でしかない。まさにホラーだ!


 レオナールってば、いつも私を貶してくるくせに、……どういう心境でこれを贈ってきたんだろう。


 気を取り直して、再び蓋を開けた。


 残念ながら、先ほど見たまんまの代物が入っている。


 白地のサテン生地に金糸でびっしりと刺繍が描かれ、もはや金色にさえ見えてしまう、とびきり豪華なドレスである。


 一瞬意識が遠のき、後ろに倒れるかと思った。


 その挙句、大きなアメジストのネックレスとイヤリングが同封されており、これを付けろという無言の圧力を感じる。


 この箱の送り主は、金髪に紫の瞳のレオナールである。


 この怨念セットは、そんな彼をとんでもなく意識した一式だ。


 こんなのを着てパーティーに参加したら、レオナールをつけ狙う令嬢に何こそ言われるか分からない。


 常に取り巻きを従えるウトマン侯爵令嬢から、「どこのどなたか存じませんが、レオナール様を狙っているのではなくて⁉」と言われかねないでしょう!


 私は間違っても婚約者の座なんて狙っていないのにっ!


「その言葉は、名前も存じない、彼の婚約者に言ってくれ! 私は知らない」


 ──っていうか、そうだった!


 狙うも何もないのだ。

 そもそも、そのパーティーこそが、彼の婚約発表である。


 彼が婚約者として決めた、そのお相手と並ぶのだ。


 今、世間が大注目する婚約者のお披露目なんだもの。


 ──え?


 ってことは……レオナールは本当に私と婚約しようとしているのかしら。


 そうだとしたら、どうしてそうなったのか?


 ……さっぱり分からないんだけど。


 何度も言うけど、私たちはとびきり犬猿の仲だし、彼との結婚生活なんて無理に決まっている。


 私に寄ってくるのは、どんぐり好きの近所のリスぐらいだって言ってのけたのは、どこの誰よ。


 まさか自分が「可愛いリスです」なんて言い出すんじゃないわよね。


 可愛さの欠片もない、でかい図体のくせに、無理があるから。


 彼の婚約者を発表するなんて怪しいパーティーから、何としても逃げたいところだ。


 ◇◇◇


 必死に方策を考えたものの、兄からは「エメリーに拒否権なし」と一喝され、そのドレスを受け取って以降、屋敷に幽閉された。


 そのうえ呑気な両親は万歳三唱をして、私の話なんか聞く耳なしときたもんだ。


 どうなっているのよ、この家族は……。




♡、。・:*:·゜`♥*。·:*:·゜`♡、。・:*:·゜`♥*。

お読みいただきありがとうございます。


エメリーヌ視点に戻ったので、しばらくこのままヒロイン視点で進みます。


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