第39話
39祖父の決断の時2
天文19年 1550年 12月 六角亀松丸
「…なんだと?」
祖父が力強い目でこちらを睨みつける。
「それはお主の関与するところではないだろう。控えよ。」
父がその様子を見て何か言われる前に俺を諌める。勿論俺が任せられているのは内政のみだ。政治や戦争に関することは祖父や父に任せている。
「はっ!では、御屋形様や父上はこれからの三好との争いがどうなるとお考えなのか教えて頂きたくございまする。」
二人が黙り込む。父は分かっているはずなのだ。史実では祖父が死んですぐに和睦を申し込み義藤を京へ送り返している。六角にとって疫病神だったのだ。
「内政という観点でお話しさせて頂きますと農民達は今新たな制度に慣れ始め飢えず凍えず豊かに過ごせるようになってきたのです。ここで戦などで彼らを失う事があれば3年ほどかけてやってきた事が全て無駄になりまするぞ。ここはじっと堪えて六角の地力をつける時でございましょう。臥薪嘗胆にございまする。」
それに父が続く。
「…すいませぬ父上、私も亀松丸に同じ気持ちにございまする。銭雇の兵に少しずつ置き換わっていると言っても常備している兵は亀松丸の兵を入れても4000程です。せめて1万5千は銭雇の兵にする事ができなければ三好と争うことは厳しくございまする。」
父も兵力という観点から祖父に訴え出てくれる。
「さらに、伊賀のもの達からの知らせにございまするがどうも浅井が怪しい動きをしておりまする。国友氏、若宮氏、加田氏の館や領土などの坂田郡を攻め取ろうと軍を用意しているようです。我々は2方面に戦線を抱えることとなります。今の三好と片手間で戦えましょうか?」
祖父は目を瞑り天を仰ぐ。三好に負けたくない感情と分かりきっている理を考えているのだろうか。父と二人で頭を下げてじっと沙汰を待つ。
「分かった。ワシが三好との和睦を公方様へ申し上げよう。その代わり責任を取る形で隠居する。それで公方様には納得して頂こうではないか。これからは義賢が六角家当主として家督を継承し、完全に差配していくのだ。いいな?」
「はっ!しかし、楽隠居などはさせませぬぞ?しっかりと働いて貰いまする。」
「ふん!お主にワシが使いこなせればな!」
祖父はどこか悔しさを隠すように、清々しさを感じさせるように笑ってこちらを見ていた。
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