第38話 祖父の決断の時

38 祖父の決断の時


 天文19年 1550年 12月 六角亀松丸


 浅井が京極と和睦を結んだ後、浅井久政は新九郎ではなく左兵衛尉を名乗り始めた。しかし、これ自体が六角への離反なのかどうかは分かりづらい。単に京極に負けた事による家臣達の離反を防ぐための措置なのか、京極から今回の和議の礼の一つとして贈られたと言われたらこちらからはなんとも言えない。


 また、京の方面では三好勢4万に対し細川六角両軍は特に抵抗もせずに近江へと引いた。このままでは確実に負けると分かっていながらする戦ほど無駄なものはないという事だ。晴元は越前の朝倉に引きこもり、六角は今は内政に力を入れているところだ。そのような状態で三好と戦えるはずもない。


 しかし、足利義藤にはそれがわからなかった。いや、納得しなかった。父親を無念な中失い、殺されたと逆恨みしていてもおかしくはない。中尾城からギリギリまで引かずに戦い、奮戦虚しく大津まで撤退してきている。それに加えて進士一族や和田などを使って六角とは別口から甲賀者を動かそうとしている動きもある。修羅に囚われた義藤が三好と泥沼の暗殺合戦を始めたら捻れた関係が破綻して血みどろの争いにしかならない。俺は止めるつもりはない。三好も足利も削れてくれる分には何の不都合もない。


 祖父としては三好と敵対する意思を強く感じるがその一方でこのままでは分が悪いのも分かっていてどうすれば良いのか暗雲立ち込めているという感じだろうか。三好勢力がいつでも動かせる兵力は4万、京という守りづらい地形を考えてもこちらに3万は欲しい。現実として動かせる兵力は越前5000に我々六角が5000ほど、それもかなり無理をしてだ。どう足掻いても八方塞がりだろう。


 祖父を説得すべき時が来たかと思い実は父と祖父との会談を今日申し込んでいた。後藤壱岐守に先導されながら部屋へと向かうとすでに二人が座ってまで待っていた。祖父に関しては特に体調を崩している様子もなくこのまま行けば大丈夫そうだろう。


 「本日は集まってい頂きありがとうございまする。早速ですが話し合いをしたいと思いまする。よろしいでしょうか?」


 二人が頷くのを確認して俺も更に話し始める。


 「昨今、三好の権勢著しく我々六角と細川両軍を合わせても京の奪還は難しいとしか言えませぬ。ここは三好と和睦し、公方様を京に戻すことが肝要なのではございませんか?」

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