第37話 半蔵との会話

37 半蔵との会話

 天文19年 1550年 10月 服部半蔵


 亀松丸様は忍び働き以外の事でも我らの目線を大切にし寄り添って意見を聞いてくれる。その事が嬉しいと共に重いと感じる。この信頼や期待に応えたいと思ってしまうのだ。


 「さて、周辺の状況はいかがだ。」


 「はっ、長野に関してですが過去に六角に攻められていたこともあったのでどうしても悪感情が消えておりませぬな。しかし、米が多く流れてくることから近江の豊かさに対して羨望を持っている節もあります。長野も伊勢で豊かな土地を持っているとはいえ一向宗や北畠からの嫌がらせや攻めから思う通りに百姓を確保したり収穫を取れていない模様です。だからこそ、梅戸周辺の北伊勢国人衆達を懐柔し始めても良い頃かと。」


 「ふむ、懐柔とは具体的にどこまでを指すのだ?直参の配下に組み込むと言う事か?」


 「いえ、そこまでは難しい上に反発を招きましょう。親六角派を長野内に作り上げた北畠派と争わせるのです。六角の良さを解くだけではなく、六角に守ってもらうべきだと言う意見まで踏み込むべきかと。」


 六角家の大身であれば長野を取り込んだとしてもおかしくはない。もし亀松丸が北伊勢を望むならばすぐさま動ける。


 「ふむ。北畠との関係を今悪化させるのは得策ではない。長野の中に親六角派を形成するくらいにしておいてくれ。それと北畠の動きはどうだ?」


 「はっ、北畠は長野につきっきりのようです。やはり伊勢国司という事に強いこだわりを持っているようで大和など他の地域にはあまり食指を動かしておりませぬ。」


 「そうか、ならば北伊勢に影響力を持つのはちとまずいかな。だが親父も鈴鹿峠を越えて支配力を強めているのだから全てを北畠に渡すつもりはないとは思うが…。一応俺の方でも確認してみるか。」


 「はっ、よろしくお願い申し上げまする。浅井に関してですが、京極と和議を結ぼうとする動きが活発化しております。」


 「そうか、浅井もそろそろ耐えられなくなってきたか。浅井が六角に対して反抗を起こすかもしれん。目を離すなよ?」


 「はっ!勿論にございまするが、京極に負けて辛い状況の浅井が裏切りましょうか?」


 「そう思われると分かっているからこそ裏切りの効果が高いのだろう?俺の勘違いかも知れぬからそれを確かめてくれ。」


 「ははっ!」


 亀松丸様は今年も伊賀に対する報酬を先払いにし凍えず飢えず過ごせるようにしてくださった。その事に対して伊賀のもの達は心から感謝し、六角を信じて良いのか半信半疑だった気持ちがついていこうという確信に変わっているのをヒリヒリと感じる。

 我らの働きが伊賀のもの達の未来へとつながるのだ。

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