第34話 世代交代

34 世代交代


 「では、これ以上はないようだな?ワシからの話もあるから聞いてくれ。」


 居住まいを正して父と共に祖父の方へ向く。


 「ワシは近い将来、そろそろ義賢に家督を継承させようと思っておる。そのためにも来年以降はワシの業務も義賢がこなす事となる。この内政改革を進めてその成果で家臣達を納得させようと思っているのだが、義賢にその覚悟はあるか?」


 父が顔を引き締めて祖父を見る。


 「はっ!必ずや六角家当主として認められ、彼らを導き強く大きな六角を作り上げまする!」


 「うむ。頼もしいな。亀松丸はワシらを気にせず好きなようにするといい。まだまだやりたいことがあるのだろう?」


 「はっ!微力ながら父の助けとなれるように励みまする。」


〜〜〜



 天文19年 1550年 5月



 年が明けいくらか動きがあった。まず前提として義藤としてはすぐに帰京できるという考えを持っていたようだが、晴元と長慶の戦いは決着がつきそうになかった。そのうえ、義晴が全身がむくんだ状態の病に臥し、年を明けてもとこに伏せっていた。義藤は父のためにすぐにでも京に戻ろうと考え、晴元とともに三好方への反撃の準備を開始した。その一環として、義藤は義晴とともに、東山の慈照寺の近くに中尾城を築き、坂本を出て、穴太に進んだ。次いで、4月には京と近江を結ぶ北白川にも城塞を築いた。しかし、治療の甲斐なく義晴はこの世を去ってしまった。将軍職自体は義藤が継いでいたため特に問題はなかったが義藤としては悔いの残る形だっただろう。史実では義晴の葬儀にも立ち会えなかったが伊賀のものが協力して死体を持ち帰り葬儀を高田派で上げさせた。


 義藤は祖父に泣いて感謝していた。祖父としても今まで推していた義晴が死んでしまったことにショックを受けている様子だ。正直将軍家のことなぞどうでもいい俺は内政に精を出しながら義藤が京への道すがらに建てた砦を更に強化したり、元々予定していた大津穴田の関を砦に増改築し防衛力を上げていた。


 何をとち狂ったのか、その件を知った義藤は自分が悲しみに暮れている間も自分のために働いてくれたといたく感動して凪いでいた刀を褒美としてくれた。この刀で将軍家に仇なす敵を討ち取れとの事だ。ありがたく頂戴したけどな。これで比叡山にも強く出れる。それに刀を調べてみるとなんと天下五剣のひとつ太典太光世だった。まだまだ俺が持つには大きいし、こんなものを渡されても怖くて使えんわ…。大人しく部屋に飾っておくことにしよう…。

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