第17話 蒲生からの警告

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 天文18年1549年 6月 六角義治


 今日も今日とて手習いだ。最近では猿夜叉も加算減算だけではなく掛け算割り算もできるようになってきた。武術に関してはまだまだ基本的な体を鍛える程度だが、俺は適度に手を抜いている。子供のうちに鍛えすぎると身長が伸びないらしいしな。


 「若、では本日はこの六角家の強みを語ってくださいませ。その後に猿夜叉と討論をし、私が補足いたしましょう。」


 今日は六角についての勉強のようだ。さて、何から言うかな。


 「そうだな…、やはり立地が大きいのではなかろうか、京から東国へと行き来しようと思えばかならずと言っていいほど近江は通る事になる、そしてそのみちが集まるのがこの六角家だ。それに、佐々木源氏の総領である事も大きい。今の戦国時代における大体の血筋は平か源氏か藤原だ。そう言う意味でも強い。また、祖父は寺院に対して厳しい態度をとっている。これがまた強い。猿夜叉はどう思う?」


 「そうですね。六角の皆様方はとてもお強く頼り甲斐がある点が強みだと思いまする。それに琵琶湖が近くにある事で土地が豊かにございまする。あとは…そもそも六角家全体で見た時の領土の多さによる兵力の多さですか?」


 これまた流石としかいいようがない回答だな。まあ、俺が教えたんだけど。


 「そういう蒲生の爺はどう思うのだ?六角の一翼を担う者としてどう感じているのだ?」


 「そうですな。先ほど2人とも言ったことは正解にございまする。その上で言うならば定頼様、義賢様と当主に恵まれたことがとても大きいですな。我々家臣は大将が安心して任せられる方だからこそ頑張ることができるのです。」


 「そういう意味では、亀松丸様がいらっしゃるのでこれからも頑張れますね!私も亀松丸様のために頑張りたいと思います!」


 猿夜叉がキラキラした目でこちらを見上げながら絶賛してくる。ウッ、心が苦しい…!


 「そうか?そうなれるようにこうやって日々精進しないとな。」


 「いえいえ、正直亀松丸様に対して私の教えることはほぼほぼございませぬぞ?農法に関してもそうですがな。」


 蒲生がチクリと言葉を突きつける。


 「まあ、あと少しだ。できるだけ他国に流れるのは防ぎたいのだ。だから、街道沿いの場所や楽市に近い位置の田畑では種籾の厳選しかしておらぬだろ?」


 「はぁ、わかっておりまするが…。」

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