第5話祖父との会談2

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 天文17年1548年 2月 六角義治


 「言っていることは確かに分かる。その通りだとも思うが、それだけであればただ戦になって我々が土地を奪って終わりになるのではないか?きっとその土地を家臣達に分け与えて制度は変わらぬであろう。」


 確かにその通りだが、まだ考えはある。


 「そこで、土地を富ませるには我々の方法に従うしかない様にするのです。土地を管理し富ませる文官と武力を持って戦う武官に分け職業制にします。その上で土地の開発運営は我々で行うのです。従わない場合はそのまま家臣達ですら放置でいいでしょう。向こうから諦めて教えを乞いに来た時に土地を文官に管理させる事を納得させます。そうすれば土地を持ちながら実権は我々が握れるでしょう。」


 「具体的にはどうやって土地を富ませる方法を独占するのだ?」


 「まずは、簡単な所であれば栽培方法や道具などの新調によって生産力を底上げします。これによって新田の開発や既にある田の生産力をあげまする。それと並行して座を廃止しその分税を取りまする。今座に入っている収入をこちらが得る事で銭の力を強化しまする。また、座がないことによって商人達が自由に商売をできる様になり銭が集まりまする。この銭を使って民から米を高く買い上げ、民が銭を使う様にします。そうすれば米以外の物の価値が上がり銭の方が更に高まりまする。こうすることで米の価値を下げ、銭の力を上げまする。ここまで来ればあとは米以外のものを民は生産したり商売したりし始めるでしょう。米からの脱却にございまする。きっとその頃には周りの百姓達は我々の土地に来ており、争おうにも人がおらず首を垂れるしか無いようになっているでございましょう。」


 定頼は瞠目し、深く考え込んでいる様子だった。勿論これが全てうまく行くとは限らないが六角家の力を持ってすれば少し程度の反抗なぞ抑え込めるし、押さえ込んでいる間に取り返しのつかない事にさせてやることもできる。


 「悪くは…ない。確かに現実的になった。しかし、対外的なものはよくなったがこれによって何故武士が土地から離れるのだ?」


 「はい、我々が彼らに明け渡すのは土地の収入にございまする。例えば、ある土地を支配する国人達が得られるのはその土地からの銭や米にございまする。我々の当地を受け入れるのであれば彼らは武官であれ、文官であれ土地の所有権は有名無実になりまする。そうすれば、その土地に対する執着は減りまする。完全に切り離すことは難しくても最初のうちは良いのです。管理は六角が、収入はその土地の国人衆が一部貰うという形にすれば良いのです。そして、ある程度の銭があれば何不自由なく生活できまする。最後には土地ではなく銭の量がその武士の活躍を表すようになります。そこまで来れば後は簡単です。次代には銭を引き継がせ、土地の所有権も貰うのです。いかがでしょうか?」


 

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