5.村に戻ったら……
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
川から村に戻ってきたモロは息を切らして走っていた。その背に中年男……ジュウゾウの姿はなかった。
「あの親父……礼の一つでも言ってってもいいだろうに」
ジュウゾウは、村に戻ってきた途端、モロの背から下り、脱兎の如くどこかに走っていってしまった。
モロもジュウゾウが走っていった一本道を走っているが、ジュウゾウの後ろ姿は未だ見えない。
「ぜぇ。ぜぇ。ぜぇ」
畑地帯を抜けると、数件の平屋住宅が見えた。そこでモロは膝に手を置いて呼吸を整え始める。
「うしっ。行くか……え?」
再び走り出そうとした時、目的地の自宅……村長宅がある方角からドゴーンという爆音が聞こえてきた。
「と、父さん、母さん……」
最悪の可能性が脳裏に過ったモロは歯を食いしばり走り出す。
「何があったんだいモロ」
「分かんないけど、とりあえず家に行ってみる。ばっちゃんは村の避難場所へ行きな。きっと父さんや村のおっちゃんたちが誘導してくれてる」
「あ、ああ分かったよ。モロも気を付けるんだよ」
顔見知りの老婆に見送られ、モロは走り続けた。
しばらく走ると、目的地である自分の家が見えてくる。
「んぐ。はぁ、はぁ、やっぱり、爆音の正体は……はぁ、はぁ、家からだったのか」
自宅の壁に空いた穴を見たモロは父親のゲールと母親のカオルの無事を確かめる為、玄関へとまわった。
「……え?」
玄関へとまわったモロは目の前の光景を見て絶句した。
「がっ。や、止め」
震える声で懇願する人狼を無視して、一人の男……自分を置いてどこかに走り去った男が人狼を殴り続けていたのだ。
「お前、絶望が分からないって言ったな?」
「ぐっ。がっ。ふぁ、ふぁい」
「やめてほしい。お前はそう望んでいる。が、俺はその望みを聞いてやる気はない。つまり、お前の望みは絶たれたんだよ。よかったな。絶望を知れて」
「がっ!」
男は拳を振り上げ、力いっぱいにそれを振り下ろした。ボキボキと肋骨が折れる音と共に人狼の口から大量の血が噴き出される。
「くそが……人間ごときがよ。で、で、でも、ででも……な。おま、お前たちが……つ、つくった銀の……銃、じゃないと、俺、俺たち、は、ころ、せない。ひゃ、ひゃははははは……は?」
血を吐きながらも笑い続けていた人狼は、自身の肉体に起こった変化に目を白黒させる。人狼の手がサラサラと音を立て、灰になり始めたのだ。
「な、な、な、ぜ、だ。お、俺たちは、死なない。銀の銃じゃないと……な、なんでだ、なんでだよ。嫌だ……死に……たく、ねぇよ」
何が起こったのか分からず、大粒の涙を流して叫ぶ人狼を、男は冷たい目で見つめていた。
「死に……たく…………ねぇよ」
その言葉を最後に、人狼の肉体は灰になって消えた。頬を撫でるそよ風が吹き、灰は空へと昇っていく。
「ふぅ。終わった終わった」
地面に落ちた灰色のマントをとりながら、男はそう言って小さく息を吐いた。その姿に言葉で言い表せない恐怖を感じたモロは父親と母親を探して周りを見た。しかし、両親の姿はどこにも見当たらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます