第2話「この世界を楽しめばいいのです」

 色々わかってきたことがある。

 この世界、本当に典型的な異世界のようでギルドやスキルなどが存在しているみたいだ。ただ以外にもレベルという概念はないようだ。


 スキルに関しては、自分の頭の中に簡単に思い浮かべることが出来るみたいだった。自分の名前を思い浮かべるくらい簡単だ。

 今持っているスキルはひとつ。


【敵意感知】


 これは名前のまま、敵意を察知できるというもの。自然界を生きのびていく上では便利なものかもしれない。


「次の町にでも行こうか、リア」


 そして僕の名前はリアらしく、この少女の名前はルウと言うらしい。そう自己紹介された。

 彼女はどうやら様々な街を転々としているらしく、冒険者というよりも自由な旅人のような印象を受けた。


 そして、この世界についての話の続きになるのだけど。どうやらこの世界にも勇者や魔王がいて、今は勇者が魔王を討ち取って少し経っているような時代らしい。

 魔王による驚異が取り除かれ、さぞかし人類は平和を満喫していることでしょう。


「おっと」


 森を歩いていると魔物によく遭遇する。

 小さい魔物はすぐに逃げていくが、4メートルほどある毛の生えたトカゲや1つ目の巨人はこちらを見つけると親の仇を見たかのように血相を変えて襲いかかってくるのだ。


「はあ、魔王が討たれてからというもの、野生の魔物が活性化しているね」


 そしてこの少女ルウについて分かったことが、もうひとつある。

 彼女、とんでもなく強いようだった。

 目にも留まらない速さで魔物の首を刈り取る、相手の大きさなどまるで関係ないように刃を振るっていた。


「キュ……」

「どうかしたのかい」


 どうやら彼女は、魔法使いじゃなさそうだ。

 彼女と共に旅を続けているうちに、それが明白になっていった。

 剣を一振すれば魔物の首が次の瞬間には、地面にゴロリと首がころがっている。険しい道を軽々と歩き、山道を楽々と越えた。


 使い魔である僕の仕事は、ただルウの話し相手になるだけだった。話し相手と言っても、僕から話せることは何一つないのだが満足しているようだ。彼女いわく僕は聞き上手らしい。


「まあそういうわけで、私は浜辺に宿屋の店主を投げ入れわけだ、懐かしい」

「キュウー」


 彼女から聞く話は、とても刺激的だった。異世界での冒険譚、それも色々な意味でぶっ飛んだものばかり。

 聞いていて飽きないし、もっと聞いてみたくなる。


「今日も悪いね、くだらない話に付き合わせて」

「キュィ」


 くだらない話どころか、今まで聞いてきたどの体験談よりも聞いていて楽しかった。

 それを伝えることが出来ないのが、なんとも歯がゆい。


 そんな僕の様子をどう受けとったのかは分からないけれども、彼女は僕の頭を撫でながら優しい口調で話しはじめた。

 

「実はね、話し相手が欲しかったんだ、君は聞き上手だ、本当、リアが来てくれてよかった」

「キュイ!」


 来てくれたというか、召喚されて呼び出されたような感じだったような気がするけども。

 そんな余計なことを言って水を差すのも良くないと思ったのだけども、そもそも僕にはそれを言葉にする方法がなかった。


「昔は1人でも平気だったんだがね、一時、3人仲間ができたんだ、騒がしかったんだが、それに慣れてしまってね」



「1人を寂しく感じたんだ、一緒にいた頃はうるさく思っていたんだけどね、やはり居なくなってから気づくんだよ、楽しかったって」


 僕もそうだ。もう会えなくなってから、やることが出来なくなってから、大切だったなとか悪くなかったなと思い直してしまった。

 そうして余計に寂しくなってしまう。


「リア、私が死ぬ時は、君を自由にしてやるから、だから」


 うつ伏せで寝るようにしながら、彼女は僕の目を覗き込んだ。少しドキッとしながら、彼女の真っ黒な瞳に視線を吸い込まれてしまう。

 彼女も僕から瞳を離さないまま、ゆっくりと口を開いた。


「死ぬまでは、これからも私の話を聞いてくれるかな」

「キュイ!」


 使い魔としての人生が幕を開けた、果たして人でなくなった僕に人生という言葉が正しいのかは分からないが。

 とにかく、使い魔としての役割を全うしようと覚悟を決めた。


「ふふ、ありがとう」


 だけど後になって思う、たくさんのお話の中で彼女は一度も彼女自身についての話をしていなかったのだ。

 もっと聞いておくべきだった、しかしその時は手段がなかった。

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