第1話「転生したら人間じゃなかったです」

 天国とか地獄に行くものだと、死ぬ前はそう思っていた。

 異世界転生とか、そういうのはあったら嬉しいけど僕は幽霊とかになるのかなって思ってた。

 UFOと幽霊はいるって信じてる。会いたくはないけど。


「悪いね、呼ばせてもらったよ」


 凛とした声に呼ばれて、顔を上げると声の主らしい少女と目が合った。

 やけに大きく見えるその少女を疑問に思っていたけど、理由は簡単なことで、僕が寝転がっているからだった。


「それにしても、不思議な感じの生き物だね」

「キュゥッ!?」


 どうやら僕が寝転がっているから大きく見えているわけじゃなく、理由はさらに簡単なことで僕が小さいだけだったらしい。

 二本の脚で立てない、手を床につかないとまともに立ってることもできなかった。立っていると言うより、四つん這いだけども。


 言葉も出ない、これはずばり人間に転生しなかったということ。

 絶対に人間に転生できるとは限らないわけだ、しかし虫とかに転生しなかったのは不幸中の幸いだ。


「さて、本題に移らせてもらうよ」


 少女の長い髪は雪のような白色、それに反して瞳の色は焦げた黒豆くらい真っ黒だ。

 そんな少女は、僕に黒い革手袋をつけた手を差しのべながら言った。


「私の使い魔になってほしい」


 使い魔という単語を聞いて、思い浮かべたのは魔法使いや魔術師という存在。

 どうやら、かなり王道なファンタジー的な異世界に転生したようだ。どうせなら僕が魔法使いになって魔法とか使ってみたくはあったけど。


「ならないなら、申し訳ないけど首を跳ねさせてもらうよ」

「キュァアッ!?」


 まさかのYES、or、Die。

 トリックオアトリートの凶悪版にも程があるというもの。断れば死ぬ、実質の選択肢はひとつなのだ。

 それならせめて、YESかはい、か選べと言われる方が可愛いというもの。


「呼び出した魔物は責任をもって飼うか、処分をしないといけないんだ、危険だからね」


 たしかに、理にかなっているというかなんというか。

 そして今の会話に紛れていた、魔物という言葉。どうやら僕は、魔物に転生してしまったらしい。

 自覚的には、ゴブリン系ではなくウルフ系だと思っている。尻尾も耳もあるようだし、それに両方とも自由に動かせる。

 動かしたことのない部位を自由に動かせるというのは、ものすごく楽しい。ピョコピョコ祭りだ。


「それにしても、かなり高度に言葉を理解しているようだね、まさか前にも主人がいたのかな」

「キュゥ……」


 というよりも、むしろ人でした。どちからと言うと主人側でした。そう伝えるのには、どうしたものか。


「使い魔になるなら、私の手を取って」

「……キュィ」


 これは、使い魔になるしかないようだ。

 でないともう一度、転生ガチャを引くことになる。そうなったら次こそ虫になってしまうかもしれないし、逆に人に戻れるかもしれない。

 しかしながら、それに賭けるほど僕はギャンブラーじゃない。


 大人しく、差し伸べられた手に手を伸ばして重ねた。

 と、それと同時に重ねた手と手の間から光が零れでてきた。手の平が、と言うよりも肉球が熱いくらいに温かい。


「契約成立だ、これからよろしく頼むよ」

「キュイ……」


 重ねた手を、そのまま小さく上下に振って僕たちは握手を交わした。



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