第二十一話 またアルシオのダンジョン話

ファミリア登録はアルシオのおかげですんなり終わった。

誘拐団の使っていたアジトはしばらく捜査が入るのと、あちこち傷んでいるので、すぐには使えない。ターニャが修理の依頼をすることになり、町へ向かう。

残りの僕たちはねぐらに向かった。

オルトとダインは屋台を取りに、カティとミルカはブートキャンプに入るため。


新入りの三人はぼろ布で囲われたねぐらを見て、ちょっと不安そうだった。

まあ、そうだな、彼女たちは浮浪児の暮らしを知らない。

「ひとつ、大事な事を言っておく。僕たちには秘密がある。生き抜くために重要なね。それを漏らさない事が仲間になる条件だ。アルシオにも明かさない。そのために君たちには従属の魔法を掛けさせてもらう。嫌なら詰め所に戻って他の行き先を決めてくれ。どうかな?」


「わたしは構いません」アリーシャ即答。

「俺も良いよ。うっかり者だからそういうの、やって貰った方が良い」

「わたしも。騙されたりしたら秘密を守る自信がありませんから」

クエンタもヤンニシャリラも同意した。

ふむ、良し。覚悟は十分なようだ。

「では、この先の事は全て秘密だ」


カティとミルカに目配せする。

二人は頷いて壁に手を当て、浮き上がった文字のBに触れる。

二人の姿がかき消える。直接ブートキャンプに行ったようだ。

新入り三人が息を飲んだ。


「では僕たちも行こう。本当の住み処に案内するよ」

壁のGにタッチ。僕たち四人はゲートルームに立った。

「うわあ……」

三人がぽかんと口を開けて管理ルームの光景に見とれている。

「ここはダンジョンを管理する部屋だよ。君たちの住む部屋はこの奥だ」


「ダンジョン?管理?」

「うん。僕はダンジョンマスターだからね」

「ええ~~~っ!」おー、三人がハモった。

ま、十三歳の少年がダンマスなんて、にわかには信じられないだろうが。


「じゃあ、そこの壁の窪みに立って。これから従属の魔法を掛ける。心配する事は無いよ。秘密厳守の条件だけだから」

それからコンソールに向かう。

実際には魔法じゃない。モンスターカスタマイズの機能の一部。


と、警告が出た。

――エルフの抵抗が大きく、このままではカスタマイズ出来ません。

えっ?どうするの?

――おそらく呪いの影響でしょう。取り除くには生体の組み替えが必要です。

組み替えって、危険じゃないの?

――危険はありません。痛みも無いし、健康体のままです。ただ種族が変わるだけで。

待て待て待て!種族が変わるって大事おおごとじゃ無いか。

何の種族に変わるんだ?

――大きくは変わりません。近隣種か進化種、劣化種ですね。


「ヤンニシャリラ、ちょっと不味い事になった。君は呪いに犯されている。それを取り除かないと魔法が掛けられない。呪いを解くとエルフじゃなくなるかもしれない」

「魔法が掛けられないとどうなるんですか?」

「ここから外へ出せなくなるな。秘密を漏らさないと確信できるまでは」

ヤンニシャリラはしばらく考えて。

「良いです。今更、わたしを売り飛ばしたエルフに未練はありません」

はっきりした口調でそう言った。


僕はコンソールの『従魔契約』の文字をタップし、『秘密厳守』の項目だけを選んでOKをタップする。

三人が一瞬、光りの靄のようなものに覆われ、すぐに消え去った。

気になるヤンニシャリラは、少し外見が成長した姿になった。長い耳は変わらない。

すぐにステータスを確認する。


―――――――――――――――――――――――

名前:ヤンニシャリラ(12)

種類:ハイエルフ(アッシュの従魔)

体力:15

攻撃:12

敏速:28

防御:20

器用:45

知性:113

魔力:1720

スキル:

―――――――――――――――――――――――


「ヤンニシャリラ、君、ハイエルフになってるぞ」

「えっ!」

ハイエルフって確かエルフの進化種だと思った。

「あと、呪いは解けたよ。魔導書があるから魔法を覚えると良い」

それに三人の種族名の後に(アッシュの従魔)が付いた。


その後、各部屋に案内し、厨房や風呂場、トイレも教えた。

アリーシャには風呂の使い方を説明し、残り二人の面倒を頼んだ。

クエンタは子供だし、混浴でも大丈夫だろう。

その間、僕はコンソールに戻り、ブートキャンプにスライム群生地を作った。

新入り三人のステータスじゃ角兎も難しいだろう。

アンザックでは弱いままじゃ生き残れない。


風呂から出てきた三人に軽く食事を出してやり、その後は竹槍でスライム狩り。

昼食に戻るとターニャが帰っていたので、その後、町に買い出しに行く事にした。

新入り達の衣服も入り用だし、僕たちの防具も欲しい。ダイン達の串焼きのタレに使う材料なんかもね。大金が入ったんだ。

店はまだ無理だけど、昼飯に屋台を廻るのも悪くない。



冒険者ギルドの前を通る時、ギルドの中から声を掛けられた。

アルシオじゃないか。うわー、きっと碌な事じゃない。

「ターニャとアッシュ、ちょっと話がある」

やっぱりだ。

昼飯はギルドの売店で買う事にし、皆にはギルドのテーブルで待ってて貰う事にした。


「で、早速だが、アッシュにはポーターを頼みたい。となるとターニャも参加だね」

「えー、まさか二十階層じゃないでしょうね」

「二十階層だ。実はミスリル採取の厳命が降りてね。王家からの命令だ。逆らえん」

「こないだ死にかけたばっかりなのに」

「今度は六パーティーでクランを組む。それに騎士が加わって五十人。新兵器も用意した。実はその新兵器を運ぶのにアッシュが絶対必要なんだ」


「何ですか、その新兵器って」

「弩だよ。大型の奴で槍より太い矢を放つ。これを三十機用意させる」

「はー、この前、強制じゃないって言いましたよね」


「すまんが、私の事情もあるんだ。実は私は独立してこのアンザックを治める予定だった。ところが新階層が発見され、ミスリルが採れると聞いて兄がしゃしゃり出てきた。自分にも治める権利があるってね。すったもんだの末、競争でミスリルを採集できた方がアンザックを治めるという話になった」

「アンザックの領主になりたいんですか?」

「なりたい。ここは私が冒険者として育った場所だ。内情はよく知っている。ひどく危険な場所だって事もね。領主になってなんとか改善したいんだよ。兄には無理だ。悪化させるだけだ」


アルシオの事情などどうでも良い。

うーむ、ターニャなら僕の力で守れるが…………

「アルシオ、アンザックの領主になれたら、本当に安全な場所にできるの?」

それまで黙っていたターニャが口を開いた。

「何年かかるか分からないが、全力を尽くす」

アルシオがダンッとテーブルに手をついて頭を下げた。

「お願いだ。頼む。ポーターをやってくれ」


「まあ、後ろ盾に死なれちゃ困るわね」

ターニャがそう言って僕を見る。

ああー、僕はターニャには逆らえない。

「分かった。ポーターの話、受けるよ」


渋々だぞ。危なくなったらターニャと一緒に全力で逃げてやる。

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