第二十二話 今度は準備万端
ダンジョン突入は二十日後だそうだ。パーティーが揃い、新兵器の準備期間にそれ位掛かる。
ファミリアの拠点整備に一月は掛かるので、無事ダンジョンから戻れたらその後引っ越しだ。
その日、買い物を済ませ、皆が揃ったところで打ち合わせ。
アリーシェはダインの手伝いに厨房に入る事になった。料理スキルあるしね。厨房に慣れたらダインの代わりに皆の料理を引き受ける。ダインの負担が大分減る。
ヤンニシャリラは魔導書を使って魔法を覚える。
まずはミルカに【アポーツ】を伝授して貰うと良いだろう。
クエンタはとにかくスライム狩り。早く角兎を狩れるようになって欲しい。
アリーシェと話していて、僕達には一般常識が欠けている事を痛感した。
浮浪児集団として、社会との接触がほとんど無かったんだ。
アリーシェは普通に職人の娘として育ち、結婚して工房の仕事にも携わっていた。
一般市民としての常識は持ち合わせている。
それはファミリアとして、今後必要となるんじゃないか。
屋台やブートキャンプは午後からにして、午前中はアリーシェに色々学ぶ事にした。
そうだ、本を買おう。筆記具もだ。
本は高価なもので、今まで手が出なかった。
だが、今は報奨金がたんまりある。
翌日、アリーシェも本を選ぶのに付き合って貰う事になった。
なので擬態スライムと雪鼬を召喚する。
アリーシェは雪鼬に『プーク』と名付けた。以前飼っていたペットの名前だそうだ。
彼女は意外にグラマーで、何と言うか新妻の色香が匂い立つ。だから容貌をぐっと地味なものに擬態する。でないと危なくて外を歩けない。
本選びには一日かかった。
アンザックには本屋が少なく、離れた場所に点在している。しかもエロ本しか置いてない店もあって移動に時間がかかる。まあ、アンザックとはそういう土地柄だ。
アリーシェも呆れていた。元々住んでいた場所は平穏な所だったのだろう。
ガンマを連れていたせいか、特に絡まれる事もなく無事買い物は終わった。
次の日からお勉強が始まった。
まず、僕達が住んでいる国の名前。グリンデル王国。
そうじゃないかと思っていたが確認できた。隣の国まで逃げて来たんだな。
それから国とは何か、から始まった。
浮浪児には縁の無い事だったからね。
ちょっと早めの昼食を済ませ、屋台組、角兎狩り組、スライム狩り組に分かれる。
「僕達はそろそろオークを狩ろうか」ターニャに言った。
「ちょっとでも強くなっておかないとね」うん、やる気十分だ。
それから森に入り、オークをポップさせる。
そいつは棍棒を振り上げて襲ってきた。
例によって【バインド】で動きを止め、ターニャが槍を突き出す。
一撃で仕留めてしまった。
「うん、二人だと問題ないね」
「今度はソロでやらせて」ターニャ、ちょっと不満げ。
オークをポップさせた僕はちょっと下がって様子を見守った。
オークが棍棒で打ちかかってくると、ターニャは槍でいなし、そのまま突きを入れる。
おおっ、オークの奴、空いた手で槍をそらした。
くるりと槍がまわり、横っ面に一撃。オークが横にふらつく。
また槍を回転させたターニャの槍が刺突を狙う。
ガキン!
オークが棍棒で殴るように止めると、なんと槍の穂先が折れた!
おいおい、ミスリルの槍だぞ。
オークがニヤリと笑ったように思った。
ターニャは慌てず剣を抜きざま、腕に切りつける。おお、居合いか。
血しぶきが上がり、オークが棍棒を取り落とす。すかさず踏み込んで一閃。
オークは地響きを立てて倒れた。
「なんで槍が折れるのよっ!今のはマジやばかった」ターニャ激おこ。
僕は折れた穂先を拾い、断面を眺めてみた。
「あっ!これ中がただの鉄じゃない?ミスリルを被せてるだけだよ」
「あんのクソ店主!」
まあ、これがアンザックと言えばアンザック。文句を言っても取り合わないだろう。
しかしターニャの槍が無いと戦力が落ちる。
すぐその足で新しい槍を買いに行った。今度は新品。工房で作ってる奴。
金貨百枚した。ミスリルの新品だからねえ。報奨金があって良かった。
これがダンジョンに入ってから起きたと思うと背筋が寒くなる。
前もって分かっただけ幸いと思う事にしよう。
それからターニャと僕は毎日オークを狩りまくった。
オーク一頭金貨二枚。五十頭狩れば槍代が出る。
「はい、ターニャ。ギルドカード出して。C級昇格よ」
受付嬢があきれた顔して手を出した。
「一体何があったの?急に強くなっちゃって」
「へへへ、企業秘密」そう言ってカードを差し出すターニャ。
そうこうしているうち、ダンジョンに入る日が近付いてきた。
僕とターニャがダンジョンに潜っている間、オルトに皆を任せる。
カティはコンソールで僕たちの監視。
どこに居ても僕とカティは念話が通じるので、いざという時の連絡役も兼ねている。
ニュースが入ってきた。
アルシオの兄さん達が壊滅状態になって帰って来た。
何でも十五階層の大蟷螂の群れにやられたらしい。
「急ごしらえのクランで、A級が一パーティー、残りはB級とC級の寄せ集めだったらしい。功を焦って準備不足だったんだな。戻ったのは兄と護衛していたA級パーティーだけ。酷いもんだ」アルシオが顔を顰めた。
いよいよ僕達の番だ。
当日、僕はアルシオの館に武器を取りに行った。
弩は想像していたよりでかい。これを三人で操作するそうだ。
矢はあらかじめセットしておく。矢と言うよりぶっとい槍だな。
ダミーのマジックバッグに三十機、次々に取り込んでいく。
見ていた冒険者が目を剥いた。
「そんなちっちぇえバッグによく入るな」
「腕利きの魔導師が作ってくれたんだと。アッシュにしか使えないんで今回無理を言って頼んだ。他に居ないだろ?こんなポーター」
「ちげえねえ」
他にも六人ポーターが居て、色々なものを取り込んでいく。マジックバッグ持ちだ。
「あの筒状の物は何ですか?初めて見る」アルシオに聞いてみた。
「あれも今回の新兵器さ。中に魔石が詰め込んであって、魔力を当てると爆発する」
ほお、手榴弾みたいなものか。色々考えるもんだ。
ギルドを素通りすると、直接ダンジョンに向かう。
既に大勢集まっていて、見知った顔も居た。
“星霜の彼方”“炎撃の嵐”の面々。
「あれ?“堅陣の盾”の人達は居ないんですか?」
「前回トロールに吹っ飛ばされていたからな。今回は火力重視だ。それもA級のな。防御は防御魔法だけでこなす」
それから他のパーティーの人達や騎士の皆さんに紹介された。
“雷鳴の塔”全員魔導師の六人パーティーで上級魔法を使う。
“火焔団”こちらも魔導師五人パーティー。火魔法で他の追随を許さないそうだ。
“斬撃鬼人”剣士四人と魔導師一人のパーティー。皆、でっかい剣を背中に背負ってる。
“破砕の斧”ハルバートを背負った斧使い三人と魔導師。これもガチムチで強そう。
全部A級。アルシオ、どんだけ顔が広いんだよ。
そして騎士さん達。要望されたら弩や矢を渡して歩くのが僕の役目。
僕って今回、相当重要な役割なんじゃない?
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