第十九話 ファミリア結成

誘拐団のアジトはアンザックの外れにあり、ダンジョン領域から少し外れる。

それで、霊子エネルギーを使って領域を広げた。

これでアンザックを含む十キロ圏がダンジョン領域になる。

ダンジョンの目でアジトを探ると、檻の中に十人ほど囚われてるようだ。

賊は七、八人。今回僕らを襲った奴らが主力メンバーだったんだろう。


ターニャと僕、カティとミルカは雷狼達に分乗してアジトを急襲する事にした。

囚われた人が居るので、僕、ターニャ、カティとミルカの三つに分かれ、入り口から侵入する。

出会った相手は弱めの雷撃で気絶させ、手足を縛って転がしておく。

今回は領兵に引き渡すのが目的で、できるだけ殺さない。別に殺人マニアじゃないからね。

でも、誰一人逃がさない。


奥の大部屋に辿り着くと、親玉らしい中年の男と手下らしい男が二人。

「な、何だてめえは」手下の一人が訝しそうに僕を見る。

まあ、そうだな。まさか、十三歳の子供が反撃に来たなんて思わない。

「僕はアッシュ。しがないポーターさ。さあ、お礼参りに来ましたよ」

男達の顔色が変わり、一斉に剣を抜いた。

「アルファ!」


バリバリピシャーン!

雷撃が走る。


あっけない。泡を吹いた男達を縛り上げると、僕はカティを呼んだ。


――そっちはどう?こっちは親玉らしいの捉まえた。

――攫われた人達の檻の所。ここで待ってる。

――怪我はない?

――大丈夫。ブランがいるから。ミルカとキューも。


しばらくしてターニャも合流。

その後、ターニャが領兵詰め所に行って領兵を連れて来た。

幼いとも言える少年少女がこんな事を成し遂げるなんて、信じられないんだろう。

何度も尋問された。

でも雷狼三匹を見て何とか納得。

誘拐された人の証言もあって、ここが誘拐団のアジトだと断定された。


それから領兵をねぐらへ連れて行く。

耳聡い浮浪児達が転がった男達から装備を剥いでいたが、領兵の姿を見るとちりぢりに逃げた。

まあ、期を見たら逃さず、だね。僕たちだってそうやって生きてきた。

領兵達は惨状にあんぐり口を開ける。それから雷狼をチラ見する。

「こんな風に襲撃されまして。生き残りからアジトの場所を聞き出したんです」

僕たちは正当防衛を主張する。


男達は三分の二が死亡、残りは重傷。領兵達は死体と生き残りを運んで去って行った。

僕たちはダンジョンの居室に戻り、祝杯を上げる事にした。

例によってオルトとダインが準備をしてくれている。ずっとディスプレィで見ていたそうだ。


「それでねえ、あそこのねぐら、駄目になったじゃないか。この際、あそこを放棄して別の場所に移らない?」思いついた事を言ってみた。

「なんかやたら襲撃受けるしね」

「でも、あるの?そんな場所」

「十分広い場所なら罠とか貼れるから、今の場所より良いかな」


「どんなところ?」

「誘拐団のアジト。あそこ所有者居ないのに付け込んでアジトにしていたらしい。今度の件の報酬に要求してみようと思ってる。ダンジョンから遠くなるけどね」

「広すぎない?」

「別に住むわけじゃない。ダミーだから何でも良いのさ。住むのはここ」


「ついでにファミリアを結成しよう」

「ファミリアって何?」

「相互扶助のグループ。助け合いの仲間って事」

「今と変わらないと思うけど?」

「いや、役所に登録して正式に認めてもらうんだ。今、僕らは浮浪児で正式には居ないもの扱いだ。でも、ファミリアの一員なら市民権ができる。オルトやダインは商店に雇って貰おうとすると絶対に市民権は必要になる。取引にもだ」


オルトがはっと気づいたようだ。

「カティやミルカも将来結婚するとなると、市民権がなければ正式に妻とは認められない」

「ははっ、あたいには縁がないね」ターニャがふて腐れた口調で呟く。

「いや、人生何があるか分からない。今回の件でもすぐに領兵を呼ばなかっただろう?市民権がないと領兵は動かないんだ。奴らをとっ捕まえたから来てくれたけどね」


「アッシュは物知りだね」

「うん、もちろん良い事ばかりじゃ無い。税金を払う義務がある。人頭税、一年で一人金貨一枚」

「なあんだ、それっぽち、楽勝じゃない」ダインが笑った。

「一年前には夢の夢だったじゃないか。ターニャとアッシュには頭が上がらないよ」

オルトは本当に性格が良い。


「それで、ファミリアには成人のリーダーが要る。ターニャかオルトだね」

「あたいは駄目だね。オルトがやりな」

「そんな!今までずっとターニャの世話になってきた。僕なんかじゃ駄目だよ」

「僕なんかって言うな。ちょっと気弱だけど聡明だ。リーダー向きだよ」

「それに、あたいにはやる事がある。皆に迷惑は掛けられない」


「えっ」ターニャの言葉に皆が途惑う。

「ま、ともかくだ。オルト、お前がリーダーだ。分かったな」

ターニャが有無を言わさない口調で言った。

「う、うん」うなだれるオルト。

「ターニャ、どこにも行かないよね」ミルカが不安そうに尋ねる。

「行かないさ。お前の花嫁姿を見るまではね」


僕たちは皆訳ありの過去を抱えている。

でも、それは詮索しないという暗黙のルールがある。

ターニャが何を抱えているのか、知りたくはあっても詮索はできない。

きっといつかその口で語ってくれるだろう。

僕の秘密もいつかは明かさなければならない。


それから数日経ってギルドに寄ると、領兵の詰め所に出頭するよう命令が届いていた。

命令かよ。これだからお貴族様は。


そして詰め所に通されると、アルシオがデスクにどっかと座っていた。

「よう、アッシュ君。いつも私を振ってくれてありがとう」

いきなり嫌みかい。無視だ。


「なんであんたがここに居るんですか」

「私はアルシオ・デ・グラムウイッジだよ。領軍のアンザック責任者でもある。で、君たちがなかなか過激な事をしでかした、と聞いてこうやって出向いたわけだ」

「はあ。煮るなり焼くなり勝手にしてください」

「そう警戒しなさんな。私としては死者が多数出るまでやる必要があったのか、という疑問があってね。私の印象では君はごく温厚な人物だと思ってたんだが」


「僕たちは子供ですよ。しかもあの場じゃたった四人。十数人に殴り込まれたら全力で反撃するしか無いじゃないですか。従魔の雷狼が居なかったらどうなってたか」

「ふむ。で、グランツ。元B級冒険者だが、彼の胸を一突きにしたのは?ポーターの君やD級のターニャ嬢では無理だと思うが」

「火事場の馬鹿力でしょ。分かりませんよ、僕には」


「分かった。そうしておこう。確かにアジトでは誰も死んでいない。それで、君は本当は銀髪灰眼なんだね?」

心臓が飛び上がった。何で?

しまった、そうか。二十階層でトロールにやられた時、しばらく擬態が解けていた。

あの修羅場で見ていたのか。


「見られてましたか。僕の本当の姿はこうです」

僕は擬態を解いた。後は野となれ山となれ。

「ほお。さすが元アルシェ王国第六王子――」

「僕はアッシュです。そんなお話ならこれで」

くそ、こうなったらダンジョンに閉じこもるしか無いか。


「まあ、待ちたまえ。君をどうこうしようと言う訳じゃない。むしろ、保護したい」

「は?」

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