第十八話 塒、襲撃される

僕たちはこのところ目立っている。

オルトとダインの屋台は予想以上の盛況を見せているが、清潔感を出したところで好感度爆上げになった。特にダインが女性の注目の的となってる。可愛いからね。ショタコンめ!


ターニャも目立つ。鳴かず飛ばずだった彼女が、めきめきと強いモンスターを狩ってくるからだ。ついでに僕も目立つようになった。いつも彼女のポーターとしてくっついてるからね。


先のダンジョン調査で、ポーターとしての僕は高評価されるようになった。はっきり言って迷惑だ。ダンジョン入り口で並ばなくても、ギルドに依頼が入ってくる。

でもみんなお断りだ。基本、僕はターニャとの組が一番効率が良い。

ブートキャンプもあるが、ポーターでも狩りに参加できるからだ。


カティとミルカは通常、表に出てこない。ほとんど居住区に居るか、ブートキャンプに居るかだからだ。でも、時々みんなと表に出て屋台巡りや買い物をしたりする。

オルトとダインだけ清潔感を出すというのは不自然だから、みんな足並みを揃えた。

そうすると不思議にその容貌が目立つのだ。


橋の下のねぐらが襲撃を受けるようになった。

屋台とターニャの稼ぎが狙いだろう。

最初は僕たちと同じような浮浪児集団だった。

まあ、僕たちも似たような事はやったからね。あながち責められない。

でも、見込みが甘いよ。今売り出し中のターニャと雷狼が居る集団を襲うなんて。

チュートリアル先生の警報もあって、彼らは一蹴した。


これはねぐら周りの警戒態勢を作らなくっちゃ。

まず、ダンジョンの目で周囲を監視し、怪しい動きがあったら警報を出すようにした。

雷狼を一体召喚し、ガンマと名付けた。こいつはターニャの従魔としてギルドへ登録。

ねぐらに常駐させる。

大抵の賊はこれで追い払える。


さて、カティとミルカはどうするか。

「狼さんはいや。大きすぎるもの」

「小さくて可愛いのが良い。もふもふの」

贅沢言ってくれる。そんなおあつらえ向きのモンスターなんて……

いや、いるな。


雪鼬ゆきいたち。真っ白で見た目も大きさもフェレットそのもの。

しかし、これでもモンスター。ダンマス権限でステータスを盛ると。


―――――――――――――――――――――――

名前:*

種類:雪鼬

体力:100

攻撃:220

敏速:350

防御:110

器用:120

知性:100

魔力:100

スキル:氷結LV4・撃牙lv2・言語理解lv2

―――――――――――――――――――――――


強い。雷狼に引けを取らない。敏速350はモンスターでも屈指ではないだろうか。

スキル氷結は鼬の最後っ屁みたいなもので、ガスの代わりに絶対零度の気流を吹き付ける。


カティとミルカの前に召喚すると手を叩いて喜ぶ。

「可愛いっ!」

「もふもふう~」

「さあ、名前を付けて。そしたら君たちの従魔になる」

「アッシュが付けて」カティは甘ったれだな。

僕が付けると安直なやつしか思い浮かばないんだが。


「じゃあ、白いからブラン」

「ブラン、あなたブランよ、わたしカティ。よろしくね」

カティが抱き上げて頬ずりすると、ブランはキュッと鳴いてカティの頬を嘗めた。

「この子はキュー。わたしはミルカ。わあ、柔らかいのね」

ミルカは鳴き声から名前を付けたらしい。

お二人ともご満悦で何よりです。


それから何度か襲撃を受けた。

浮浪児集団だったり、こそ泥のおっさんだったり、冒険者崩れの食い詰めものだったり。

どれもガンマが蹴散らした。懲りない奴らだ。

いずれもターニャの居ない居留守を狙ったものだった。


ところがある夜、ダンジョンの目が十数人がねぐらを取り囲んでいるのを検知、僕に警告を送った。すぐに皆をコンソール前に集める。

「ただ事じゃないわね。あたい達狙いかな」

「噂の誘拐団かもしれない。嘗められたもんだな」

もう一年前の僕たちじゃない。確実に強くなってる。

それに従魔だって居るんだ。


ディスプレィに映った男達のステータスを確認。

図抜けて強いのが一人。B級くらいの実力がありそうだ。

他にD級くらいのが二人。後は雑魚だ。


「ターニャどうする?バフ掛けないとB級の奴は無理だろう。僕がやる?」

「あたいがやるわ。贅沢は言えない。まだまだ実力が足りないのは分かってる」

「じゃあ、バフ掛けるよ。D級の二人は任せて。カティ、ミルカ、後の雑魚は任せた。雷狼と雪鼬たちをうまく使って。殺しても良いから遠慮なく」

「うん、分かった」肝の据わった女の子たちだな。


オルトとダインをコンソールの前に残し、僕たちはねぐらの中で待機した。

と、男たちは何の警告もなくねぐらの壁をぶち壊し、一斉に乱入してきた。

間髪を入れず、三頭の雷狼が雷撃を放つ。


「オオーン!」

バリバリピシャーン!


LV4の強力な奴だ。体力のない奴は死ぬ。ダンマス謹製カスタマイズのモンスターだ。

一瞬で、そこら中に男たちがプスプスと煙を上げながら転がっていた。

こちらの戦力を見誤ったな。

それでも数人がふらふらと立ち上がる。

「てめえ、嘗めた真似しやがって」さすがB級。タフだ。


ターニャが槍を構え、僕は剣を抜く。

B級の男は背中の大剣を抜き、D級の男たちは腰の剣を抜いて構える。

ターニャがするすると前に出た。

ガキン!槍と大剣が交差する。

刹那、ターニャが腰の剣を抜きざま、男の胸に突き立てた。


「うごお……」男の目が驚愕に見開く。

ターニャは無言。氷の眼差しでそれを見返す。

おっと見とれてる場合じゃない。

僕はD級の男たちの足元にスライディング。二人の足を断ち切った。

こいつらには聞きたい事があるからな。


「ねえ、カティ、あんまり残ってないね」

「うん、ミルカ、どうしようか」

「ブランとキューに任せる?」

「うん、そうしようか」

「やっておしまい!」二人が声を揃える。


雪鼬の姿がかき消えた。と。

残っていた男たちが首筋から血を吹き出し、ばたばたと倒れる。

雪鼬の敏速は伊達じゃない。しかもダンマス謹製カスタマイズ版だ。

目にも止まらないとはこの事だ。それにしても想像以上だな。頼りになる。


それから僕は倒れ込んでいるD級の男の襟首を掴み上げる。

「お前らのアジトはどこだ?」

「くそ、言うもんか」

「あーそう。いつまで強がれるかな?アルファ」


アルファは男の頭を丸ごと咥え、弱い電撃を流した。

「うるぐぶらう゛ぁげ!」

訳の分からない叫び声をあげ、盛大に痙攣する。一回電撃を食らった事があるが、その不愉快さったら本当に我慢できない。

結構やせ我慢してたみたいだけど、三度目に折れた。


僕とターニャは目を合わせてにやっと笑った。

「あたいの可愛い子達を狙った以上、ただじゃ済ませない」

「ああ、反撃の時間だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る