第十七話 屋台を始める

僕とターニャがダンジョンに潜っている間に、オルトとダインはすっかり屋台を完成させていた。

売り物は角兎の串焼き。日持ちの関係から香りの良い樹木で燻蒸してある。

僕の前世の記憶から、甘辛いタレを試行錯誤して完成させた。これに漬け込んで炭火で焼く。

試食すると絶品だった。これは売れる。

炭はブートキャンプの森の木を使って作り溜め、串は竹林から。


屋台を出すとなると、浮浪児の汚れた格好ではまずい。

ある程度清潔感のある擬態にしないと売り上げに響くし、難癖付けられやすい。

しかしそうなると誘拐の危険性が増す。

護衛が要るな。どうしたものか。


ターニャと僕はダンジョンで狩りとレベルアップをする予定で、護衛には付けない。

カティとミルカはまだ十一歳と八歳の少女だ。実力も足りてない。

むしろ、誘拐の危険性大だ。


考えた末、従魔を召喚する事にした。

冒険者にはティムのスキル持ちが居て、よくモンスターの従魔を従えている。

良く居る雷狼で良いか。少しステータスを盛っておくと、少々高位の冒険者でも相手に出来る。

これなら誤魔化せるだろう。


―――――――――――――――――――――――

名前:アルファ

種類:雷狼(オルトの従魔)

体力:120

攻撃:250

敏速:250

防御:180

器用:87

知性:100

魔力:100

スキル:雷撃LV4・撃牙lv2・言語理解lv2

―――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――

名前:ベータ

種類:雷狼(ダインの従魔)

体力:120

攻撃:250

敏速:250

防御:180

器用:87

知性:150

魔力:100

スキル:雷撃LV4・撃牙lv2・言語理解lv2

―――――――――――――――――――――――


命名は安直だが、自分が呼ばれた事が判別出来れば良い。

マスター・カスタマイズのモンスターなので完全に制御できる。

知性を上げておいたのは、オルトやダインの命令を理解するためだ。

雷撃はLV4なので致命傷を負わせる事が出来る。

とにかく、二人の安全が第一なのだ。


皆の前に召喚する。

「うわあ、雷狼だ!」

言ってあるのに、皆及び腰だ。まあ、でかいからな。牛くらいある。

「だからこいつらは擬態スライムと同じだよ。ちゃんと言う事聞くし、危なくもない。こっちがアルファ、こっちがベータ。呼んでみて」


「あ、アルファ」オルトがおずおずと手を出す。

「わふっ」アルファが尻尾をふりふり近付いて、その手をぺろっと嘗めた。

「きゃー、可愛い!」女性陣から嬌声が上がる。

そうか?女性の感覚ってどうも分からん。

ダインも同様にベータを呼んで、手を嘗めさせた。


「となると、ギルドで従魔登録だな」

「三層から上がろうか」

「三層でティムしたって事にするんだね」

入り口にオルトとダインを待たせておき、合流してからギルドに向かう。


アルファとガンマを見て受付嬢が引きつっていた。

「この子達、従魔登録したいんだけど」

「えー、ターニャさん、ティム出来たんですか?」

「ティムしたのはアッシュだよ。あたいは弱らせただけ。ウチのオルトとダインの従魔で登録してくれる?今度、この子達が屋台を出すんでね。その護衛代わりなんだ」

「か、かしこまりました……」


これで少し噂になるかな?

雷狼を従魔にした少年にちょっかい出そうとする奴は激減するだろう。

ギルドの従魔鑑札を首に取り付け、見せびらかすようにギルドを出た。


翌日はいよいよ屋台開店。

雷狼はでかいので、背中に屋台の資材を負わせた。荷車を借りる予定だったが丁度良い。

屋台は組み立て式で、これも前世知識の応用だ。

組み終わると細長い炭火焼きコンロに炭火を熾す。生活魔法で着火は簡単。

やがて、良い匂いが漂い始めた。

特製のタレと肉汁が混じって実に食欲をそそる匂いだ。


一人、二人と客がつく。順調な滑り出し。

それを確かめて、僕とターニャはダンジョンに向かった。

「雷狼はもう良いかな。六層の火蜥蜴狩らない?お金になるし」

「そうねえ、この間の調査でかなりステータス上がったし」

「じゃあ、ブートキャンプへ、いざ!」


森へ入ってみると、カティとミルカが角兎を狩っていた。

例によってミルカが【バインド】で拘束し、カティが――一刀両断?凄いな。

「あ、アッシュ」カティが僕たちに気がついた。

「カティのそれなに?確か、たこ殴りで仕留めてたと思うんだけど」

「あー、【ブースト】とか言うのが使えるようになったみたい」

「身体強化系の魔法か」

おそらく魔力じゃなく霊力だな。


それから僕たちは火蜥蜴を狩りに行った。

こいつは火を噴く。でも【フリーズ】の魔法で口を凍らせると、案外楽に倒せた。

あまり数を持って行くとギルドで騒ぎになるから二体だけで打ち止め。

僕とターニャの相性って結構良いのかもしれない。


ダンジョンの部屋に戻ると、オルトとダインがもう帰っていた。

「早いね。もしかして、何かあった?」ターニャが眉をひそめる。

「あったことはあったんだけどね、昼過ぎに売り切れちゃって帰って来たんだ」

オルトが満面の笑顔。

「銅貨八百枚だよ。銀貨で、えーと、十六枚。すごくない?」

ダイン、大興奮。

「そりゃ凄い。一本銅貨二枚だから四百本売ったのか」

頭をなでなでしてやる。嬉しそうだ。可愛いなあ、もう。


「それで、何かあったんだね?」ターニャが念を押す。

「あー、うん、ちょっと絡まれてね」

「この場所は誰の許しで使ってんだ、なんて凄まれて」

「うん、で商業ギルドの許可証があるよ、って言ったらよこせ、って言うんだ」

「そしたらオルトがアルファに許可証を咥えさせて、どうぞ、って」


それからオルトとダインは腹を抱えて笑った。

「あのおっさん、ビビりまくって尻餅ついてやんの。他のおっさん共がこっち来ようとしたけど、ベータが、グルルー、って唸って前に出たらへっぴり腰で逃げ出しちゃった」

「ほう、二匹ともちゃんと護衛できてたんだな」


その噂は二、三日でアンザック中に広がり、屋台にちょっかい掛けてくる奴は居なくなった。

あっという間に売り上げは金貨を超えるようになり、カティとミルカは角兎狩りに追われた。


オルトとダインは角兎を狩るどころじゃなくなったからね。

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