第十六話 カティの能力

ダンジョンの部屋に戻ると、留守番組が勢揃いで迎えてくれた。

カティは涙目で僕に飛びつく。

「アッシュ、アッシュ、どこも何ともない?」

「ああ、無事だよ、カティ。後で聞きたい事があるけど、良いかな?」

カティの視線が泳いだ。


「まずはお風呂よ、お風呂!アッシュが浄化掛けてくれたから臭いとかしないけど、お風呂無しで半月なんてもう無理!」ターニャが叫んで駆けだした。

「うわー、贅沢になっちゃって。ちょっと前まで川で水浴びくらいしか出来なかったじゃん」

オルトが呆れる。

「じゃあ、僕はごはんの支度するね」ダインは揺るがない。

オルトはダインを手伝いに、ミルカはターニャとお風呂に行った。


何か僕とカティの間の雰囲気を察したのかもしれない。

二人で制御ルームへ向かう。

おや?リクライニングチェアが一つ増えてる。

まあ、いっか。それぞれ座って向き合う。


「何があったの?」出来るだけ優しく声を掛けた。つもりだ。

「見えたの。アッシュが死んじゃうって」

ワンピースの裾をつまんだ手の先が震えている。

「だから助けてって頼んだの」

「ん?誰に?」

「ここにいつも居る人。アッシュといつもお話してるでしょ?」


ほんと、誰?

「どんな人?名前知ってる?」

「アッシュがちゅ――先生って呼んでる人」

まさか、チュートリアル先生?


「見えるのか?どんな人?」

「優しそうなお兄さん。わたしが何を言っても知らん顔だけど、アッシュとはお話するのね。それに他の皆には見えないみたい。だから怖くて黙っていたの」

「いつからだ?」

「うーん、いつからだろ?アッシュとその人がお話ししてて気がついた」


――カテイ、聞こえる?

ふと思いついて頭の中で呼びかけてみた。

「うん、聞こえる」

驚いた。カティにはチュートリアル先生の声が聞こえていたんだ。

カティって何者?


ステータスを見てみよう。


―――――――――――――――――――――――

名前:カティ(11)

種類:人族(ダンジョン・サブマスター)

体力:31

攻撃:55

敏速:48

防御:67

器用:128

知性:183

霊力:201

スキル:霊視lv1・操霊lv1

―――――――――――――――――――――――


いつの間に!

ダンジョン・サブマスターになってる!


頭が痛くなってきた。


「んっとね、最初にそこにアッシュが映ってるのが見えたの」

カティがおずおずとディスプレーを指さす。

「それで気になって見ていたら皆も気がついて。でも、すぐに見えなくなった。そいでどうしようかと思ったら、ここにやり方が書いてあった」

ん?コンソールは日本語表示だぞ。皆には教えていない。


それで見てみたら、日本語に併記して、この国、僕が皆に教えた文字で説明が並んでいた。

僕が知らないうちに何があった?


――システムがカティなるものがサブマスターとして有益と判断しました。

十一歳の女の子だぞ!危なくないのか。

――マスターに強く依存し、裏切る可能性は無いと判定されました。

違う!カティの事だよ。ダンジョン・サブマスターなんて普通の人生送れないだろうが。

――今更普通の人生を送れるなんて、本気で思ってますか?

うぐっ。


迷宮都市で浮浪児、それだけでもう絶望的な未来しか無い。

チュートリアル先生の言うとおりだ。


「カティ、聞こえたか?お前、それで良いのか?」

「わたし、アッシュの役に立てる?そのサブマスターになったら役に立てる?」

「まあ、間違いないだろうな。どういう役にかは分からないが」

「じゃあ、それで良い。わたし、アッシュの役に立つ!」

うう、そんなキラキラした目で見られていると何も言えないじゃないか。


訥々と話すカティの言う事をまとめてみると、こんな感じだった。


まず、ディスプレーにダンジョン内の僕たちが映ると知って、皆がそれを見たがった。

でもディスプレーの範囲を離れると映らなくなる。

カティがコンソールの表示に気がついて、僕たちの行き先を追うようになった。

どうやら特定のターゲットを追尾する機能があるらしい。それだけでなく録画再生の機能まであって、ブートキャンプの狩りが終わると皆で僕たちの事を見ていたらしい。


二十階層でトロールに襲われた時はカティだけだったらしい。

僕が倒れるとディスプレィに死亡マークが付いたそうだ。

「助けて!アッシュを助けて!わたし、何でもするから!」

カティがそう叫ぶと、チュートリアル先生の姿をした人が操作を教えてくれた。


画面上の僕にカーソルを合わせ、コンソールから『時戻り』と表示された文字をタップする。

それで僕の時間が巻き戻り、死ぬ前の状態に戻ったと。

なるほど、死んだ僕では時空制御を発動できない。代わりにダンジョンが発動したってわけか。

ダンジョンマスターがダンジョンで死なない絡繰りが分かった。

それにしてもダンジョンが時空制御?知らなかったぞ。


――あなたのスキルも取り込んでありますから。

なるほど。僕にも『時戻り』で誰かを生き返らせるって出来るのかな。

――それは無理です。魔力量が足りません。

あー、そうですか。でもコンソールからならできる?

――霊力を使っていますから。事実上、エネルギーは無限です。

そうか。でも出来ないより出来るに超した事はない。

――ただ、注意して下さい。死亡して三十分以内でないと魂が消滅します。


後、コンソールの文字はカティにしか読めないらしかった。操作も他の皆にはできない。

しかし、霊力でスキル発動ができるなら、カティにだって魔法もどきが使えるんじゃないかな?

ダメ元で試してみよう。


「カティ、この魔道書に霊力を込めてみて」

「うん。こうかな?」

カティが魔道書の魔石に手を触れ、魔法名を唱える。

「あっ!何か来た」

ステータスを確認すると、『霊法lv1』が増えていた。


そうだ、僕とターニャのステータスはどうなったかな。

特にターニャは戦いに参加してたし。


―――――――――――――――――――――――

名前:ターニャ(17)

種類:人族

体力:205

攻撃:310

敏速:133

防御:157

器用:72

知性:102

魔力:23

スキル:剣術LV2・格闘LV1・弓LV1・槍lv2

―――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――

名前:アッシュ(13)

種類:人族(ダンジョンマスター)

体力:181

攻撃:220

敏速:136

防御:115

器用:88

知性:200

魔力:430

スキル:空間制御LV9・剣術LV2・魔法LV2

―――――――――――――――――――――――


おおー、強くなってる。

こりゃオークも狩れるな。


そろそろブートキャンプにもオークを出すか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る