第十四話 ダンジョン突入②

なんか、ここは一気に流した方がいい気がして。

二話連続で上げます。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


さて第十四層。

何だ、お花畑じゃないか。

青空に太陽、一面、花、花、花。色とりどり。

ただし、花が凄く大きい。お花畑に降りるとまるで小人になった気分だ。

直径二メートルはあるだろうか。

でも、モンスターというわけでは無いらしい。


理由はすぐ分かった。

巨大蜂が花の蜜を吸いにやって来る。

僕たちを認めると、猛烈な勢いで襲ってくる。

取り敢えず逃げる事にした。


「驚きましたねえ、皇花蜂とは」記録係の騎士さんが興奮気味に言う。

「蜂のダンジョンと言われる“ビーフラムダンジョン”にしか居ないと言われてたんですよ。何と言ってもその蜜です。天国の味と言われるその甘さ、そして若返り効果が決め手です。これは人気が出ますよ」

「しかし、これでは手も足も出ないじゃないですか」

「攻略法は二つ。上層階の魔甲虫の殻をかぶって攻撃を防ぎながら巣に近付くんです」

「いや、今更上層階に戻るってのは……」

「もう一つはこの階層に眠りのミストを充満させるんです。蜂が寝てる隙に、ですね」


「どんだけ魔力を使うってんだよ!この階層全体?」

魔導師さん達が切れた。

「いや、待て。階層全体の必要は無いかもしれない」アルシオがぽつっと言った。

「甲虫の殻で防げるのなら防御魔法で防げるんじゃないか?私達の目的は蜂蜜じゃない。調査だ。次の階層の入り口まで通路を確保出来れば良い。出来るんじゃないか?」

「確かに。蜂たちは巣に向かうと異常に攻撃的になります。でも出口方向なら、あるいは」


そういう事になった。

蜂の攻撃が少ない方向へ進み、試行錯誤で出口に辿り着いた。

魔力を使いぱなしだったので、魔法師さん達はバテバテだった。

唯一、アルシオだけが余裕で野宿の陣地の結界を貼る。

ほんと、何者だ、こいつ。


魔術師さん達の消耗が大きかったので、翌日は野営地で全休息。

次の日、第十五層に向かう。


最悪だ。大蟷螂・毒蜈蚣がそこら中に蠢いていて、薬草は毒草ばかり。

ここで三人ほどが負傷し、治癒師さんのお世話になった。

難易度ばかり高くて、素材の旨みもない。まるで先に行かせないよう、妨害しているみたいだ。


十六層に入ると、いきなり環境が変わった。

見渡す限りの岩山。

その蔭に人影が……いや、人じゃない。ゴーレムだ。

すぐに“堅陣の盾”が前に出る。


ぐわーん――

もの凄い音が響き渡った。

“堅陣の盾”がゴーレムの突進を受け止めた音だ。

“炎撃の嵐”が即座に前に出る。

がん、ぎん、ごん。魔剣がゴーレムを切り刻む。でも倒れない。

ゴーレムってオークキングよりタフなのか。


「【フレア】!」いつの間にか魔術師さん達が魔力を練っていた。

ゴーレムが灼熱の炎に包まれ、赤色に染まる。

「でやああっ!」“炎撃の嵐”の魔剣がバターのようにゴーレムを切り裂いた。

熱で軟化させたのか。凄いな。さすがAランク冒険者。


「これは、銅の鉱床?純度が高いぞ」記録係の騎士さんが興奮した声を上げる。

「こっちは鉄だ。鉄さびの下は純鉄だ。信じられん」

次々にお宝が見つかっているようだ。

一日ゴーレムと戦いながら調査を続けた。


「この階層は優秀なポーターが必要だな」

いや、僕を見ないで下さい。こんな所、一度で懲り懲り。

誰が鉱石の運搬マシーンになんかなるもんか。

うーん、大容量マジックバッグが出るお宝でも用意すれが良いのかな。


第十七層は同じような岩山の環境だが、出現するのはオーガ。

ゴーレムは力任せの攻撃と防御だけだけど、オーガは同様の攻撃力と防御を備えている上、知略があって武器も振るう。いつも三体から五体が連携を組んでくる。難敵だ。

ここで、なぜアルシオがリーダーなのか、思い知らされた。

采配が実に的確なのだ。それが“堅陣の盾”や“炎撃の嵐”が指揮に従う理由だろう。


“堅陣の盾”が突破されるケースが増えてきた。すかさず“星霜の彼方”が防御に入る。

ターニャも攻撃に加わる。小さな傷しか負わせられないが牽制にはなる。

僕は自分がやられないよう、立ち回るのがやっとだ。

その日の野営では皆さすがに疲れたようで、ぐったりして泥のように眠った。


第十八層ではオーガにオーガキングが加わった。

オーガキングは頑丈で攻撃力が高く、倒すのに時間がかかる。

ここで負傷者が出始めた。すかさず治癒師が怪我の手当に駆けつける。

その日の野営では進退を協議した。


「この階層で金と銀が出るのは確認できた。この辺で打ち切ってはどうだ?」

「このタイプのダンジョンだと二十階層のボスを倒すと転移陣が出るはずだ。そこまで進んだ方がリスクが低いと思うぞ」

「十九層、二十層のモンスター次第だが」

「探索隊を出して、手に負えないモンスターなら撤収しよう。何とかなりそうなら前進だ」


そういうことになった。

探索隊はミノタウロスを発見し、それ以外には強いモンスターは見あたらない事がわかった。

鉱物は金が多く、他に銀や銅も採れるらしい。

ミノタウロスは牛頭人型のモンスターで、オーガより腕力が強い。ただ、群れることはないので複数で取り囲めば攻略も難しくはないらしい。

ミノタウロスを倒しながら十九階層に進むことに決まった。


ミノタウロスはさすがに手強い。

確実に倒すために何度も十八階層に戻って拠点で回復、を繰り返した。

“堅陣の盾”が突破された時、僕もあおりを食らって吹き飛ばされた。

偽装スライムの守りと、アルシオの結界がなかったら肉塊になってたかも。


それでも二日がかりで十九階層の出口付近に拠点を確保することができた。

翌日、探索隊がもたらした情報は驚嘆すべき物だった――皆にとっては。僕は知っていたからね。

「ミスリルだと!しかもトロールとは……」

「素材がミスリルでなければ、即時撤退を決めるんだが、ううむ……」


トロールは強さならミノタウロス並なので、それだけならこのメンバーで何とかなる。

しかし、トロールには超再生という厄介な特質があるのだ。受けたダメージをすぐに修復できてしまう。一気に致命打を与えないと、消耗戦になり一方的に不利な戦いを強いられる。

火力としては“炎撃の嵐”の前衛三人、“堅陣の盾”の前衛一人、“星霜の彼方”の前衛一人、

一気に致命的な打撃を与えるには少し足りない。


しかし、ミスリルは貴重だ。現在、ミスリルを産出するのはダンジョンのみで、世界で三カ所しか知られていない。アルシオとしてはここで攻略の目処を付けておきたい所だろう。

「一当てして攻略のための情報集め、それを以て撤退だな。階層ボスには力不足だ」

アルシオは最終的にそう決定した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る