第十三話 ダンジョン突入①

三日後、僕とターニャはギルドで調査隊に合流した。

オルト達が心配そうに見守る中で、僕は皆の頭を撫でて言った。

「ターニャは僕が絶対守る。へへ、僕は最強のダンジョンマスターだぜ」


合流してメンバーの紹介があって、初めて青年貴族の名前が分かった。

アルシオ・デ・グラムウイッジ、二十四歳。領主の三男。冒険者ランクB。

パーティー“星霜の彼方”のリーダー。らしくお上品なパーティー名だ。

なんで領主の息子が冒険者なんてやってるんだ?


パーティーメンバーは盾持ちガチムチのザッド、細マッチョの剣士ランディ、紅一点の治癒師メラ。アルシオは魔法を使うらしい。パーティーバランスは良い方だ。

他に二パーティー参加していて、Aランクパーティーの“炎撃の嵐”、Bランクパーティーの“堅陣の盾”。他は騎士五名、そのうち二人は記録係だそうだ。


“炎撃の嵐”は三人が魔剣士、魔法師、治癒師で強力な前衛を誇る。逆に“堅陣の盾”は盾役二名に剣士一名、魔法師、治癒師で防御に優れる。

三つのパーティーは指揮をアルシオが執り、“星霜の彼方”は遊撃に廻るそうだ。

騎士達は記録係と僕とターニャの護衛。他にポーターが二人いる。

ポーター達と荷物をマジックバッグに仕舞い込む。僕のは桁が違うけどね。


「十階層まではモンスターは相手にせず、とにかく先を急ごう」

一階層は空のある原野。二階層から五階層までは迷路状の通路。

僕はポーターとして十階層までは行った事があるので、案内役みたいなポジションになっていた。

「右通路、ゴブリンの集団。左行きましょう。スライム弱いけど気をつけて下さい」

とにかくショートカット。面倒なモンスターのいる通路は避ける。


一日で五階層まで駆け抜け、そこで野営になる。

手頃な行き止まり通路をみつけ、入り口に結界魔法を掛ける。

魔法師が居るパーティーは本当に安心だ。魔法師が居ないと交代の見張りを立てる。

そんなパーティーのポーターは良くやっていたからね。あんまり眠れないんだ。


「アッシュは本当に慣れているんだね」アルシオがお茶を片手に語りかけてきた。

「ポーター五年もやってるとそれなりに、です」

「暖かいもの食べられるのはありがたいな。いつも水と干し肉だったからな」

「ポーター、雇わなかったんですか?」

「うーん、素材のスペース考えると、食料はどうしても節約するんだよねえ」

「そうですか」まあ、そうだろうな。

「どこでそんなマジックバッグ手に入れたの?」

「年取った魔導師の人の面倒見てたんです。そしたらお礼にって」

毎度、用意した嘘。

「その魔導師、相当な腕利きだったんだな」


翌日、同じようなペースで進む。

夕方には十階層に到着、休まずボス部屋攻略となった。


“堅陣の盾”が前に出てオークキングの拳を受け止める。

即座に“炎撃の嵐”の三剣士が飛び出して魔剣を突き立てる。

あんなに苦労したオークキングがあっさり討伐されてしまった。

高ランク冒険者は凄い。

宝箱にはやっぱり魔道書が入っていて、戻ったら売り払うそうだ。

中級魔法は皆さん既に習得済みで用なしなんだと。あー、そうですか。


いよいよ十一階層。

鬱蒼と茂る森林。全体に薄い霧に纏われ視界はあまり良くない。蒸し暑い。

ここからは慎重に足を進める。


突然、枝が降ってきた。ように思った。“堅陣の盾”が受け止める。

「トレントだな。ここは植物系モンスターの階層らしい」

「毒蔦が居るかもしれない。気をつけろ」

交互に声を掛け合って慎重に進む。


「紫万寿草の群生地だ。凄いな。この階層だけでも稼げるぞ」

記録係の騎士さんが興奮した様子で話しかける。

「紫万寿草って何ですか?」

「高級ポーションの素材だよ。採れるのはごく限られたダンジョンだけなんだ」

「こっちは腎皮の木だ。皮は内蔵の治療薬に――うわっ!」

言った騎士さんがギザギザ歯の花に腕を囓られていた。


「食虫花だ。大して毒は無いが気をつけろ」

あ、毒あるんですね。

治癒師さんが解毒の魔法をかける。


その日は十一階層を廻って調査を進めた。

ただ、野営に適した場所がみつからない。至る所、密集した樹木で埋められ、パーティーで休む空間が見当たらない。


「しょうがない、奥の手でいきますか」アルシオが“炎撃の嵐”のメンバーに声を掛ける。

と、魔剣を持った三人がいきなり当たりをなぎ払う。

あっという間に二十メートル四方くらいの空間ができた。

樹木は吹き飛ばされ、荒れた土の地面になってる。アルシオが魔法で地面を均すと、野営地のできあがり。なんて強引な……


翌日は十二階層に入る。

薄暗い洞窟のような迷路になっている。

ずる、ずる、という足音が聞こえた。

「ゾンビかよ」誰かがげっそりした声で言った。


一日かけて調査した結果、包帯姿のマミー、ゾンビに似てはいるが遙かに危険なグールを確認。

素材は解毒薬になる苔。

この階層で野営するのはまっぴらなので、十一階層の野営地に戻る。

ゾンビ、臭いしね。

この階層は人気出ないだろうな。


翌日は十二階層を駆け足で通り抜け、十三階層に入る。

途端に足元の粘ついた物体に足を取られた。

――やば。

すぐに僕とターニャの擬態スライムの防御力を上げる。

直後、衝撃に襲われた。


「大蜘蛛だ!気をつけろ!」

「アッシュ、大丈夫か?」

「はい、何とか」

擬態スライム無かったら大丈夫じゃなかったな。

一応、剣で防いだていを繕う。


ターニャの血相が変わった。

「こんのおおお!」

ミスリルの槍を振り上げて、僕に襲いかかろうとする大蜘蛛目がけて突進する。

大蜘蛛の防御力はあまり高くないらしく、槍の一振りで首が飛んだ。

「うちの子に何すんのよおっ!」

怒りは収まらないらしく、槍を二閃三閃、大蜘蛛を切り刻む。

周りは唖然としてその様子を眺めていた。


「恥ずかしい……」

その夜、野営地でターニャは顔を埋めて身悶えしてた。

自分が何をしでかしたか、気がついたらしい。

「いやいや、あなたがどれだけ弟君を大事に思ってるか、目の当たりにした思いだよ」

アルシオがしみじみした口調で言う。

「ギルドでは済まない事をしたね。本当に心配させてしまった。誓うよ。アッシュ君は私が責任を持って守り抜こう」


アルシオはそう言って、僕に防御の魔法を掛けた。

なに、この魔法。上級の結界魔法じゃないか。何者なんだ、アルシオって。

これだけの魔法は魔力一千以上無いと行使できない筈だ。

領主のボンボンじゃないのか?


十三階層では錦蜘蛛の存在が確認された。

錦蜘蛛の吐く糸は虹色に輝き、その織物は美しさはもちろん、物理耐性や魔法耐性も備わっていて、王侯貴族の垂涎の的となっているという。

十三階層はそう悪くは無いって事だね。でもアルケニーは出るし、マンティコアも出るから難易度は高いと思うぞ。


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