第八話 楽しいブートキャンプ?

「で、これが新しい階層?“ぶーときゃんぷ”って何」ターニャが首を傾げる。

「普通の長閑な風景だね」うん、オルトの言う通り。

ここは前世の故郷の里山を模してある。田んぼの代わりに草原だけど。

森には栗や柿、蜜柑、葡萄といった果物や茸、自然薯なんかが豊富にある。当然、ウサギや鹿、猪といった動物達もいる。食物連鎖として当然狼なんかも居るわけだ。


「経験値稼ぎたい人、森を探索して。定番の角兎や雷狼、鎧猪も居るよ」

「アッシュ、楽しそうだな」ダインはあまり楽しくなさそうだ。

「うん、森は果物の宝庫だからね。モンスターも居るけど」

「ううう・・・」食欲とモンスターの恐怖、どちらが勝つか、ダイン頑張れ!


「ゴブリンなんか居るの?」カティが怖そうに聞く。

「いや、人型だとオーク位だな。他は素材としてうま味がない。オークはまだ出さないけどね」

今のターニャではオークは無理だ。擬態スライムのバフがあればいけるけど。

ターニャは強くなって自力で倒すって言ったからな。


「カティとミルカは平原で薬草採取が良いんじゃないかな」

十歳と七歳の女の子だからな。

「…………」

あれ?ちょっとふたりとも不機嫌だ。

「経験値」ミルカがぽつっと言う。

「強くなりたいのに」カティがそっぽ向いた。

やれやれ。


「分かった。じゃ一番弱いモンスターから始めようか」僕は折れた。

考えた末、森と平原の間に沼沢地帯を生成、そこにスライムを発生させた。

スライムと言っても種類により強さは様々。強酸を吹き付けて相手を溶かす凶悪な奴もいる。

もちろん、ここで発生させたのは、子供でも倒せそうな弱いスライムだ。


森にある竹林から手頃な長さの竹槍を作って、ミルカとカティに手渡す。

沼沢地帯へ行くと、あちこちで半透明のスライム達がゆっくり蠢いている。

「お手本見せて上げるから、後で同じようにして倒すんだよ」

二人は緊張した面持ちで手にした竹槍を握り込む。


スライムは核を壊すか、外へはじき出せば倒すことができる。

「やっ」

竹槍で核を目がけて突き出すと、スポンと核が飛び出し、スライムは崩れてぺしゃんとなった。

「さあ、やってみて」


二人とも、へっぴり腰でそろそろとスライムに近付いていく。

「やー」気の抜けた気合いでカティが竹槍を突き出す。

残念、竹槍の先は核から遠く離れた所を通り過ぎた。

スライムはプルプル震えたと思ったら、カティに飛びつく。

「やあああ」カティは泣きっ面で逃げ出した。


ミルカも同様、なかなか核に当てられない。そしてスライムは反撃してくる。

まあ、弱い消化液しか無いから少しひりひりするだけなんだけどね。

小一時間もすると、二人とも地面にへたり込んでしまったので休憩にした。

近くの灌木になっている木の実をおやつにする。甘い汁の出る赤い実はそう生成したものだ。


「どう?止めて薬草採取にする?」

「やだ!もっとやる!」二人が声を揃えた。

へー、なかなか根性があるな。

一息入れてまた再開する。


「やったー!」カティが叫んで手を上げた。

もう三回くらい休憩を挟んで続けたところで、カティが初めてスライムを仕留めた。

満面の笑顔のカティ。悔しそうなミルカ。

「よーし、じゃあ今日はこの辺にして戻ろう。ターニャ達がどうしたか知りたいしね」

ちょっと不満げな二人を促して居住区へ戻る。


ターニャ達は戻っていて、厨房に集まっていた。

「獲物はどうかな?」テーブルに目をやりながら声を掛けた。

「まあまあかな」ターニャの口ぶりが元気ない。

「鎧猪が出てさ、ちょっと手こずったんだよ」オルトが庇うように言う。

テーブルには角兎三羽、噛ネズミ五匹、それに果物や芋、キノコが並んでいる。

「果物なんかは僕が集めたんだ」ダインが自慢げだ。


「初日としてはまあまあかな。で、どうする?素材で売る?」

「いや、これは皆で食べよう。初獲物のお祝いだ」ターニャが言った。

歓声が上がる。新鮮な肉なんて、めったにありつけない。

「それに、これをどう売ったものか。出所を聞かれてもなあ」ターニャが頭をかく。


そうか、まさかブートキャンプで、とは言えないな。今のダンジョンには居ない種だし。

「あはは、それ考えてなかったよ。うーん、一層に発生させようか。新種の群生地見つけてギルドに報告すると報奨金が出るんだっけ」

「ふふ、アッシュは相変わらず悪知恵が働くな。いつ出来る?」

「すぐできるよ。そうすると、ブートキャンプもダンジョン入り口から入った方が良いね」

「そうだね。明日からはそうしよう」


ダインが早速、獲物の解体に掛かった。こいつはそういう方面に才能があるなあ。

僕はコントロールルームに入って角兎、噛ネズミ、鎧猪の群生地を作成する。環境も少し弄った。

「鎧猪かあ……ちょっと手に余るのよねえ」ターニャがため息を漏らす。

「ゴブリンより強いからね。一人ではきついかも。オルトと二人でも駄目だった?」

「僕はどうもそういうのは苦手だから」オルトがしゅんとする。


どうするかなあ。で、ふと思いついた。

モンスター生成時、そのレベルやステータスを表示する機能がある。

それを僕らにも当てはめられないかな?

ターニャに焦点を当て、鑑定してみる。


―――――――――――――――――――――――

名前:ターニャ(16)

種類:人族

体力:56

攻撃:78

敏速:43

防御:45

器用:54

知性:102

魔力:15

スキル:剣術LV1・格闘LV1・弓LV1

―――――――――――――――――――――――


出た!

じゃあ、鎧猪は?


―――――――――――――――――――――――

名前:*

種類:鎧猪

体力:130

攻撃:80

敏速:72

防御:112

器用:13

知性:21

魔力:15

スキル:猪突LV3

―――――――――――――――――――――――


敵わないわけだ。少なくともソロじゃ無理だ。

僕はどうなんだろう。


―――――――――――――――――――――――

名前:アッシュ(12)

種類:人族(ダンジョンマスター)

体力:50

攻撃:50

敏速:50

防御:50

器用:50

知性:200

魔力:350

スキル:空間制御LV8・剣術LV1・魔法LV1

―――――――――――――――――――――――


うーん、やっぱり弱いや。数値が揃ってるのは僕基準?

オルトは?


―――――――――――――――――――――――

名前:オルト(14)

種類:人族

体力:48

攻撃:21

敏速:35

防御:37

器用:81

知性:180

魔力:10

スキル:鑑定LV1・算術LV1

―――――――――――――――――――――――


僕より弱いじゃん!

どっちかって言うと文系の人だな。


経験値を稼ぐとおそらくこの値が上がっていくんだろう。

角兎や噛ネズミだと大して経験値は稼げない。鎧猪程度は狩る必要がある。

僕は小さい頃習った魔法が少し使えるので、これをうまく連携してターニャと鎧猪が狩れないかと考えた。後で相談してみよう。


翌日、カティ、ミルカ、ダインはオルトに任せ、僕とターニャはダンジョン入り口から入った。


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