第七話 強くなるために

僕たちは幼い。

一番年上で成人しているターニャが十六歳。次のオルトが十四歳、僕が十二歳、カティが十歳、ダインが九歳、ミルカが七歳。

これでよく何年も生きてこられたもんだ。迷宮都市アンザックという殺伐とした所で。


これもターニャの兄、オーディのおかげだ。僕が彼に拾われたのがターニャ十二歳、僕が八歳、オーディは十七歳で冒険者でもルーキーだった。

僕らは彼に守られて三年経った頃、ターニャが成人を迎え、冒険者になって初めてオーディとダンジョンに潜った。それがオーディとの別れだった。

ダンジョン盗賊団の罠にハマったらしく、オーディはターニャを逃がすので精一杯、ターニャも傷だらけで戻ってきた。


ターニャは何も語らない。

でも、その後、ターニャは本当に身を挺して僕たちを守ってくれた。何人かが居なくなり、その穴を埋めるようにカティとダインが加わった。居なくなった子達のことはもう誰も口にしない。子供たちだけで生きていくこと自体が奇跡なんだ。


カティは奴隷商に売られようとするところを、たまたま僕が助けた。誘拐犯が閉じこめていた檻を時空制御で消滅させ、三人ほどを助けた。まあ、檻を消したのは内緒で、たまたま壊れてたんだろうということになった。そのうち二人は家族が迎えに来た。

でも、カティはどこか遠くの場所で攫われたらしい。帰る場所が分からない。

ターニャに言うと仲間にしてくれた。


ダインは貧民街で死にかかっている所をオルトが拾ってきた。飢えて骨と皮ばかりだった。

両親が食い詰めて放棄したらしい。親のことはうっすら覚えているそうだ。その他はただ空腹で何か食べたい、それしか考えられなかったって。それが今でも尾を引いているのかな。


ミルカは不思議な子だ。僕がターニャに拾われる前から仲間に居る。来た当座は本当によちよち歩きだったそうだ。それなのに魔法が使えたらしい。おそらくは生き延びるために開花した才能を本能的に使ったのだろう。

最初に使ったのが鑑別の魔法。これで自分を助けてくれる人を“鑑定”していたらしい。気が付くと、オーディとターニャの服の裾を掴んでいたのだとか。辺りを探したけど親や知っている人の姿はなかった。二人の性格から放り出すなんてあり得ず、現在に至るというわけだ。


とにかく僕たちは弱い。ターニャも冒険者Fランクと最低だ。

ミルカとダイン以外はポーターで何とか稼いでいるけど、限界値以下の稼ぎだ。ターニャが居なかったらとっくに飢え死にしていただろう。

ついでに言えば、僕の時空スキルもささやかながら役に立っていたと自負している。


今回、たまたま僕がダンジョンマスターになったのは一時的僥倖だ。これを機会に弱い僕たちを何とかしなければならない。いや、弱くても何とかする方法をみつけなければ。


ターニャは多分経験不足だ。

僕たちのためにずっとソロでやっているし、危険も犯せないため浅い階層の弱いモンスターばかり相手にしている。これではレベルも冒険者ランクも上がらない。

オルトも来年成人になり、正規に冒険者ギルドに登録できる。でも、弱いままじゃ意味がない。


でも、もう大丈夫だ。

僕はダンジョンマスター。ダンジョンをどうにでもできる。

チュートリアルの量は膨大で、まだ読み進めている段階だけど、一応、ダンジョンがどうやって存続しているのか、どうやって管理するのかについて、朧気ながら掴めてきた。


ダンジョンの管理は大きく分けて、階層操作、瘴気の制御、モンスター発生の管理、地脈への接続管理に分けられる。これらはディスプレーの表示を確認しながらコンソールで行う。

実際にはダンジョンコアがそれに基づいて、実際の変更を行うらしい。


階層操作は、階層の増減、階層の移動、階層の環境設定、階層の領域拡大縮小が行える。

ただし、この管理には地脈の霊子エネルギーが必要になるので、地脈への接続管理が必須だ。


瘴気の制御は、地脈から瘴気をどれだけ分離して瘴石に変換するかを決める。少ないと地脈に含まれる瘴気が濃くなり、やがて霊子が取り込めなくなりダンジョンが維持できなくなる。それだけでなく瘴気の圧力でモンスターが大量発生してスタンピードが起きたりする。

多すぎると地脈の瘴気が薄くなり、モンスターを生み出せなくなる。まあ、それが一番良いんだろうけど、そうなると魔石や素材など資源が消滅するので痛し痒しなんだよね。


モンスター発生の管理は、発生させるモンスターの種類や強さなどを決める。

デフォルト、というかダンジョンマスター不在時では自動生成する。ただ、こうして発生したモンスターは野放しで、ダンジョンマスターの制御下には置けない。

モンスター生成は、変換された瘴石を各階層へ配分する段階できめ細かく調整できる。

カスタマイズすると、特定の機能を持ったモンスターも生成できる。このタイプはダンジョンマスターの制御下に置く事も可能だ。擬態スライムはその一種。


地脈への接続管理は、マップに表示された地脈から接続したい地脈を選ぶ。

もちろん、マップには地脈の霊子量、瘴気濃度、なども表示されているので、それを参考に接続操作を行っていく。多くの地脈に繋げる事で、ダンジョンはそれに応じて成長できる。

ただ、それには霊子エネルギーが必要なので、無制限にはできない。


僕は皆を強くするために、独立した一つの階層を作ろうと考えた。

そこで皆のレベルやスキルを上げるために、丁度良いモンスターを発生させ、経験値を効率良く上げる。ついでに魔石や素材も採取できて一石二鳥だ。


現在アンザックダンジョンは割と貧弱な地脈にしか繋がってないので、階層追加には霊子エネルギーが足りないようだ。どこかの地脈に新しい接続を作らないといけないが、それに必要な霊子エネルギ-をどうするか、頭の痛いところだ。


結局、ダンジョンコアに霊子エネルギーを貯めることが出来るようなので、一ヶ月ほど貯め込んでみた。

その間、僕たちは従来通りポーターで細々と稼いでいた。でも、あの全滅したパーティーの装備や素材を売ったお金が残っていたので、暮らしはそれほど酷くはなかった。

管理ルームの隣にある居住区間も快適だしね。


どうやら新しい地脈に接続できそうな位貯まったようなので、早速新しい地脈に繋いでみる。

よし、成功!

新しい階層はゲートルーム経由でしか入れないように追加。

空も太陽もある山と平野と森林の階層にした。モンスターは森に現れるが、地脈の障気の量を調整する事でモンスターの強弱を管理する。


平野部は薬草などの素材を“栽培”するため、山は鉱物などの素材を手に入れるため。

ついでに僕のダンジョン管理の練習にもなる。

そんなわけで、この階層は冗談半分にブートキャンプと名付けた。

だから階層イニシャルはBだ。


この階層はゲートルームからしか入れないから、僕たち六人専用だ。

二月ほど掛けて階層を整備し、現れるモンスターも調整した。

そろそろ栽培を始めた薬草も収穫し頃になるだろう。山の鉱石は取り放題だ。


明日から始まる“ブートキャンプ”。楽しみ♪


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