第九話 群生地騒動

ダンジョン入り口ではいつもの見張り番のおじさんに挨拶。

「今日は二人かい?」おじさん、気軽に声を掛けてくる。

「うん、今日はこの子にポーターやって貰うの」

「へえ、大量狙いかい。まあ、がんばりな」


一応、群生地確認のため、一階層を歩く。設定した雑木林が見えてきた。

「いるね」

「うん、予定通り」

「少し狩ってく?他に誰もいないし」

「角兎くらいなら良いんじゃない?」


僕は子供の頃習った初級魔法しか使えないけど、角兎程度なら通用するだろう。

「【バインド】!」早速、見つけた角兎を拘束する。

ターニャが素早く駆け寄って止めを刺す。

「あっけないなあ。昨日は結構苦労したんだよ」ターニャがため息をつく。

「ミルカが育ってくれると、こんな調子で狩りが出来るよ」

「あの子はまだ小さいからねえ。危ない目には遭わせたくないんだけど」


そんな調子で角兎五羽と噛ネズミ六匹狩った後、ブートキャンプに入る事にした。

鎧猪を狩る時、ポーターが魔法を使っているのを見られるとまずい。

かなり派手な事になりそうだから。


森に入ると早速鎧猪を発生させる。

こいつは器用と知性が低いので、正面から当たらなければ大丈夫だろう。

一応、擬態スライムで防御を強化しているし。


僕たちを目にした鎧猪は前足で地面を引っかき回し、低姿勢で突っ込んできた。

早い!僕たちは危ういところで体を躱す。

「【バインド】!」振り向きざま、後足に拘束をかける。

「えいっ!」ターニャが首筋に切りつけたが、大して切れてない。

「かったー、どうすんの、これ」ターニャ、焦る。


「足から攻めよう、前足狙って!」

バインドが外れてしまった。やばい。

「【ライト】!」目くらましに鎧猪の目の前で光りを炸裂させる。

ひるんだ所でもう一度、

「【バインド】!」

「やあっ!」ターニャが前足の腱を狙って切りつける。

今度はうまく切れて血が噴き出した。


間髪を入れず、僕が後足の腱を切る。これもうまく切れた。

どうやら胴体は硬い鎧のため剣の刃は通らないようだ。でも他は刃が通る。

何度か繰り返して足をズタズタにすると、鎧猪はひっくり返って足をじたばたして暴れる。

手の出しようが無い。

「ここからどうするのよ」ターニャが途方に暮れる。


「んー、こういうのはどうかな」

亜空間からスライム狩りに使った竹槍を取り出してターニャに渡した。

「口の中に突っ込めばどうだろう?」

「あたいがやるの?」

「前衛のお仕事だろ?」


ターニャはため息をついて竹槍を構えた。

何度か外したけど、最後に口の中に突き立てる。二人で渾身の力を込めて押し込むと、さすがの鎧猪も息が絶えた。

「やったね」

パンっと二人でハイタッチ。


結局、その日は角兎八羽、噛ネズミ十二匹、鎧猪一匹の成果となった。

一階層を通って出口から出て、冒険者ギルドへ行く。

依頼ではないので、買い取りカウンターへ向かって獲物を取り出す。

「これ、買い取りお願いしたいんだけど」ターニャがギルドカードを差し出す。

「どれどれ、……何だこれは」係の男性が目を剥いた。

「一階層に居たんだけど、買い取り出来ない?」

「いや、ちょっと待て、こりゃ新種のモンスターか?」


係の男性がギルドマスターを呼び出す騒ぎになった。

僕たちはギルマスの部屋へ呼ばれ、どこで獲れたか、数はどれくらいか、どうやって狩ったかなど根掘り葉掘り聞かれた。

その間に査定が進んでいる筈だったけど、新種なので色々調べないといけないらしかった。

結局、その日は買い取りは終了せず、ギルド預かりのまま後日精算。

新種の群生地をみつけた報奨金、金貨二枚だけを受け取って帰った。


帰って金貨二枚をテーブルに広げると歓声が上がった。

前日に狩った角兎がまだ残っていたので、また肉祭り。

ダインが採取してきた果実をジュースにして何度も乾杯した。


「それでね、それでね」カティがすり寄ってくる。

「わたし、今日、五つもやっつけたのよ」

そう言ってスライムの核を差し出してくる。

「あたしも取ったよ!」負けずとミルカも手を差し出す。

二つの核が乗っていた。

「そうか、凄いな。頑張ったんだな」

そう言って二人の頭を撫でてやる。


さて、鎧猪を狩って、どれくらい経験値が上がったんだろう。

コンソールからターニャのステータスを確認してみる。


―――――――――――――――――――――――

名前:ターニャ(16)

種類:人族

体力:61(+5)

攻撃:83(+5)

敏速:45(+2)

防御:45

器用:54

知性:102

魔力:15

スキル:剣術LV1・格闘LV1・弓LV1

―――――――――――――――――――――――


上がっている。確実に。


―――――――――――――――――――――――

名前:アッシュ(12)

種類:人族(ダンジョンマスター)

体力:55(+5)

攻撃:52(+2)

敏速:52(+2)

防御:50

器用:50

知性:200

魔力:352(+2)

スキル:空間制御LV8・剣術LV1・魔法LV1

―――――――――――――――――――――――


攻撃はターニャがメインだったので僕の上がりは少ない。

その代わり魔力が少し増えた。

しばらく二人で鎧猪を狩っていくと良いかな。


翌日はブートキャンプで鎧猪に絞って狩りを行った。

五匹狩ったところでその日は早めに終了、ギルドに結果を聞きに行った。

途端に人垣に囲まれた。何事?


「群生地見つけたの、お前か?鎧猪どうやって狩った?」

「けが人が出てるんだよ。お前Fランクだろ?あれが倒せるわけねえだろ」

「何かコツがあるのか?教えろよ」

「金貨一枚の値が付いたんだ。一階層じゃ他にそんなモンスター出ねえからな」

「え……ええー?」ターニャ、面食らった。


早々に買い取りカウンターへ行く。

「来たな。暫定だが査定が出た。角兎は銀貨一枚、噛ネズミは銅貨十枚、鎧猪は金貨一枚だ。だから角兎八羽で銀貨八枚、噛ネズミ十二匹で銅貨百二十枚、鎧猪は金貨一枚。締めて金貨一枚、銀貨十枚、銅貨二十枚だ。角兎は角に薬効があるらしいから、はっきりするともっと値が付くかもしれねえ。やったな、ターニャ」


「え……なんで鎧猪にそんな値が?」

「革が固くて革鎧に打って付けなんだとよ。それに肉が上質だ。肉屋が喜んで買ってったぞ」

「へえ……それであの騒ぎ?」

「ああ、それ聞いて馬鹿な奴らが早速狩りに行ってな、散々な目に遭って帰って来たとよ」

「あー……胴体は剣通らないから。足から攻めないと駄目なのよ」

「そんなコツ明かして良いのか?」

「変に恨まれるよりよっぽど良いわ」


それから鎧猪は一階層の人気モンスターになった。

三階層のモンスターより実入りが良い。

うーん、失敗したな。こりゃ。狩ってきた鎧猪、どうしよう?

毎日何匹も買い取りに出すと何かと怪しまれるかもしれない。


狩った鎧猪は亜空間で死蔵だな、しばらくは。


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