第五話 迷宮都市アンザック
【
けどね。
僕たちやたら目立つ。僕らが清潔過ぎるんだ。風呂に入ったせいで。
普段は汚れで髪や肌が何色か分からない位だったのに。
ターニャは緑の瞳に艶々した蜜色の髪で、ふわふわと腰まで波打ってる。汚れで保護されていたせいか、肌色は日焼けも無く透き通るようなピンク。まあ、栄養不足だったせいか、いささか痩せ気味だけど、それが妖精っぽい雰囲気を醸し出してる。美人なのは間違いない。元々、顔立ちは良い。
オルトは年にしては少しひょろ長い。
琥珀色の瞳にちょっとラフな赤みがかった髪色。目鼻立ちがくっきりしてなかなかいい男だ。これで肉が付くと結構モテるかもしれない。笑うととても優しい感じになる。
カティの髪色が淡いピンクだというのは、今度洗ってみて初めて分かった。
僅かに赤みを帯びた瞳には以前から気づいていたけれど、白磁のような肌と相まってまるで砂糖菓子で出来た人形みたいだ。でも、もう少しふっくらさせないと・・・・・
ミルカも金髪だったんだなあ。瞳は碧い。
ちょこんとした鼻とぷるんとした唇がチャームで愛くるしい。
ニコッと笑うともう、無敵だね。これで魔法の才能に恵まれるなんて・・・・
ダインは黒目黒髪。この世界では珍しい色になる。
で、可愛いんだ、彼は。言うと怒るけどね。
ターニャは猫っ可愛がりしてるし、おばさま族にも受けが良い。
これで食いしんぼでなければね。でも、まあそれも愛嬌のひとつか。
で、僕はアッシュの名前通り、灰色の瞳に銀髪。
容姿は悪い方ではないと思っている。洗ってみると違うもんだ。
で、中身はっていうと、中年の日本人のおっさんなんだけどね。
何が言いたいかっていうと、全員誘拐されたっておかしくないくらい容姿が整ってるってことだ。これまで無事だったのは、汚れまくってボロボロの状態だったからだ。
迷宮都市アンザックは、その名の通りダンジョンを中心とした街だ。
ダンジョンは非常に危険だが、同時に一攫千金を夢見る冒険者にとって格好の稼ぎ場所になる。ダンジョンで採れる高価な素材、強力なモンスター討伐による経験値と名誉。
そうした素材や冒険者を目当てにした商人や職人、娼婦といった様々な人たちも集まる。
中には良からぬ輩もわんさか居て、誘拐者組織なんてのも潜り込んでるって噂だ。
冒険者は危険な職業だ。還らぬ人も当たり前に出る。残された家族はこうした犯罪者達の格好の獲物だ。僕たちなんて特にね!
とりあえずダンジョン出口前で土や泥を被ってみた。だめだ、どうにも目立つ。
「何とかしろよ、ダンジョンマスターなんだろ?」ターニャが無茶振りする。
いや、ダンジョンマスターだろって言われても、そういうのは・・・・
あ、何か頭の中でヒットした。
――擬態スライムを召還しますか?
おおおお、声が響く。これはこれはチュートリアル先生か。
擬態スライム?そんなの召還してどうすんだ?
――体の表面に纏わせれば、外観を自由に変更できます。
そうかよ。
「驚くなよ、ターニャ。これがダンマスの底力だ!」
ってわけで、僕は擬態スライムを召還した。
洗い上げる前の僕らの姿になるように。
何か肌にべちゃっと張り付いた感覚がした。
「ひゃああ!何なの?」皆の悲鳴が上がる。
「みんな、見て。これで僕らの見た目は元通り。だろ?」
「うわ、ほんとだ。でもさっきの方が良いな」ミルカのおしゃれさん。
「みんな、外ではこの姿で居ろ。でないとあっという間に拐われるぞ。しかし、本当にできるとはな。どんな仕掛けだ?」ターニャが凄む。
「擬態スライムを召還したんだ。体の表面に張り付いて見た目を変える。もちろん、解除も出来るよ、僕だけ。ダンマスだからね」
「スライムだって?」みんながハモった。
「あ、危なくないの?その、溶かされたりとか?」オルトがおずおずと聞いてきた。
「大丈夫!マスターの命令には絶対逆らわない、筈だよ、と思う」
「そこは断言してよ!でもそんなスライム聞いたことないな」
「ダンジョンが作り出すユニークモンスターらしいね」僕は新米ダンジョンマスターなので、詳しくは知らない。でも、何となくそんな知識が沸いてくる。不思議だ。
なにはともあれ、無事【
「ターニャ、無事だったか」見張り番のおじさんが心底ほっとした表情で声をかけてくる。
「ああ、大漁だよ、おっちゃん」満面の笑顔で答えるターニャ。
ボロで汚れてても不思議に人の心を捕まえるターニャ。
ダンジョンを出ると冒険者目当ての宿屋や武器屋、その他の店が連なっている通りへ出る。
無秩序に広がった街なので、道路は舗装なんかしてない。風の日は埃が舞う。
そんな通りから少し路地を入った所が買い取り屋。
ターニャだったら冒険者ギルドで売り払えるんだけど、さすがに【
「ふうん?この武具は見たことあるなあ。確か全滅したパーティーの?」
「うん、そうだよ。僕がポーターやってた。だから荷物をどこへ捨てたかは覚えてたんだ」
さりげない嘘。
「くっくっく。抜け目ない小僧だ。そういう奴は生き残る」
買い取り屋はだいたいの事情を察してるんだろうが、それは口に出さない。ギルドだったら追求されるかもしれないグレーな領域。それが存在理由だからだろう。
結局、素材も含めて金貨二枚、銀貨七枚、銅貨二十五枚で売れた。
買い取り屋から出たとたん、
「いえ~~~いっ!」みんなでパンッと手を打ち合わせた。
金貨なんて何年も見てないし、みんなは触るの初めてだろう。
ちなみに、金貨一枚は銀貨二十枚、銀貨一枚は銅貨五十枚に当たる。更に賤貨というのがあって、銅貨一枚が賤貨十枚。ただ、ほとんど銅貨で半端が出たときにしか使われない。
物の値段は銅貨基準だ。安い野鼠の串焼きが銅貨一枚。前世日本の感覚で言えば百円くらい。たぶん、これより安い値付けは無い。
銀貨が一枚五千円、金貨が一枚十万円という所だろう。
「串焼き食べたい!」ダインなら言うと思った。
まあ、この浮浪児の格好なら普通の店には入れてくれない。屋台が良いところだ。
「ああ、良いぞ。今日は屋台のハシゴだな」ターニャが厳かに許可を出す。
「わたし干しカッツェの実が食べたい」珍しくカティが小さな声で言った。
カッツェの実はそれだけでも甘い木になる果実だ。これを天日に干すと更に糖度が増してまるで砂糖漬けのように甘くなる。
「あっ!それ、わたしも!」ミルカが飛び上がる。
「さすがに女の子は甘いものに目がないな。僕はノーギュ牛の乳のスープ。一度食べたいと思ってたんだ」オルトは通だな。
確かホワイトシチューみたいなスープにノーギュ牛の肉がごろっと入ってるんだっけ。
「あー、それ、みんな食べよう。他に食べたい物は?」今日のターニャは太っ腹。
その日は初めて六人そろって屋台をハシゴした。
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